『三十分後に、昇格試験第二試合を始めます。参加者はシミュレータールームに集まってください』
というアナウンスに従ってシミュレータールームに来た健二。
昇格試験当日の天気は生憎の雨、しかし室内で執り行われるため支障なんてものは無い。
「しゃあ! 俺らの番だ!」
「やる気十分だねぇ」
「たりめぇだろ、田中はやる気でねぇてか?」
「そんな事無いけど」
「気合いいれてぶっ殺すぜ!」
恨み辛みあれやこれ、鬱憤をこの日のために溜め込んで健二はシミュレーターポッドへ入る。目的はただ一人、先日田中を怪我させたあの男。
シミュレーターをセットアップして機体をモニターへ表示する。使用する機体をアリかチーム保有の機体から選ぶのだ。選ぶのは勿論使い慣れたアリ。
『みんな、作戦は覚えてるね、堅実に行こう』
そう言ったのはクォーターバック兼キャプテンの男。寄せ集めのチームをまとめあげるのは大変だろうと健二は内心で思った。
思えば、九重祭はその寄せ集めチームのキャプテンとして立派にまとめあげていたなあと…………いやまとめていただろうか、今になって疑問となってしまった。
「やめやめ、今は試験だ」
余計な思考は振り払って試験に集中しよう、ポジションの確認を改めてしっかりやっておこうか。
自分のポジションはフッカー、センターフロントとライトフロントの間に位置するポジション。センターフロントを補助しつつ攻めてきたバックスを妨害するのが主な役割になりそうだ。
田中はワイドレシーバーで攻撃の要、美味しいポジションだ。
そして肝心のあの男は、なんとランニングバックだった。ボコすチャンスはおそらく多いだろうからワクワクしてきた。
「へっへっへ、ランニングバックならぶっころがしてやる!」
『あのー、なんか健二君だけ目的変わってない?』
田中から心を読んだかのようなツッコミがきた。
「そ、そそそんなことねぇし?」
目が泳いだ。
そんなやり取りをしている間にも時間は流れ、ついに試験開始の時間となる。モニターにフィールドが表示され、まるで実機に乗っているかのような錯覚すらある。
目の前には対戦チームの機体がズラっと並んでいる。殆どはチーム保有の機体だが、二機だけオーダーメイドの機体だった。フルバックとランニングバックだ。
「あの野郎、一丁前に自分の機体使ってやがる。生意気だな」
『ブーメラン刺さってるよ?』
カウントダウンが始まる。スリーカウントがテンポよく進み、ゼロになった所でブザーと一緒にボールが射出された。
最初にボールを手にしたのは、コチラだ。それも健二のアリが手にした。
本来ならセンターフロントが後ろへ弾くのだが、失敗してしまいアリの手に渡ってしまった。ボールが落下する間にも相手のフロントは距離を詰めて来ており何気にピンチ。
『後ろへ投げろ!』
「了解リーダー!」
後ろを見ず、手首をスナップさせて後方へボールを投げる。ボールがどうなったかはわからないが、おそらくセンターバックかタイトエンドかワイドレシーバーの誰かがキャッチしただろう。そのまま落ちたのならブザーがなって試合が中断されただろうから。
『ランで行くぞ!』
つまりランニングバックで攻めるという事、幸い敵のフロント機体は序盤の展開で右側に寄っていたので、センターフロントと健二が壁を作って左側へ展開できないよう妨害する。
左側のフロント機体も上手く壁を作っているみたいだ。レーダーの動きをみると丁度左側に道ができている。
「チャンスだ!」
健二の後ろをランニングバックが駆けていく。
「今のはロングパスで攻めるべきだ」
カールがそう分析する。
モニタールームではレギュラーメンバーのカールと炉夢が昇格試験の試合を見ている。カールはレギュラーメンバーのクォーターバックでありキャプテンも勤めている。
実は上原宇佐美が初めてハミルトンに乗った時に、その場におり炉夢の行動を窘めていた。
今回、彼等も訓練生の評価を執り行う事となっている。
「流石だな」
炉夢が感心する。モニターでは敵陣に攻め込んだランニングバックが展開していたバックスにより取り押さえられているシーンが映し出されていた。
「まだフロント機体しか動いていなかったからな、右側に寄っていたのをいい事に左側へ道を作った事は評価するが、バックスの動きを想定してなかったのはマイナスだ」
カールはタブレットに表示されたクォーターバックの評価シートにマイナス点を付ける。
「ならお前ならどう攻める」
「ランニングバックとタイトエンドとセンターバックの三機を攻め入れさせ、遅れてワイドレシーバーを投入、最初の三機が敵のバックスを掻き乱したところでロングパスだな」
「なるほど」
「まあこれでも成功率は六十パーセントと言ったところだ」
何はともあれ、まだ始まったばかりだ。
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