Robotech Touchdown 〜ロボテック タッチダウン〜

失った足を代替して頂点を目指す
芳川 見浪
芳川 見浪

Epilogue

公開日時: 2022年2月3日(木) 19:52
文字数:1,562

 埼玉県熊谷市郊外にあるラフトボールフィールド、ここは本年度のスプリングランド覇者である熊谷グラムフェザーが保有するフィールドであった。大きさは三二〇メートル×一六〇メートルと基準通りの広さ、今このフィールドは三十機近い数のラガーマシンが文字通り押し合い圧し合いをしていた。

 

「コーチ、加入テストの調子はどうですか?」

 

 フィールドの外周に設置されている管理小屋へ上邦炉夢が入ってきた。管理小屋ではコーチ含めたチームメンバーの幾人かがテストの様子を観察していた。

 今まではこれほど大規模なテストになる事がなかったのに、二年連覇した事で爆発的に加入者が増加してしまいてんてこ舞いとなっている。

 

「どうにもこうにも人手が足りない。炉夢、お前も手伝え」

「わかりました。オールブラックをだしてきます」

「何をする気だ?」

「一人ずつタックルして倒れれば不合格、倒れなければ、もしくは避けたら合格」

「おいおい……アリだな、それは。よし、だがオールブラックは使うな、参加者の中にはただお前と戦いたいだけのやつもいる、警戒して新人の練習に使うデクでいけ」

「はいコーチ」

 

 こうして炉夢がテストに参加する事になり、一時はテスト会場が興奮で沸いたのだが。その後に行われた上邦炉夢によるテストという名の処刑ショーで恐怖という意味で沸き始めた。

 炉夢の使う機体は練習に使うデクと呼ばれる頑丈なだけの性能が低い機体である。それが遥かに高性能なラガーマシンをバッタバッタとなぎ倒していくのは一種の爽快感があるが、同時に炉夢の技術が高次元にあると理解できてしまい戦慄する。

 開始から僅か四十分、既に二十六人をテストして二十六人が不合格となった。

 

「次だ」

 

 二十七人目は真っ赤なラガーマシンだった。それは炉夢自身も覚えのあるラガーマシンであり、夏に一度自ら乗り込んだこともある。

 

「その機体、覚えがある」

『だろうな、俺に無断で乗って宇佐美と瑠衣を秒殺してたもんな』

「無断で使用した事は謝る。許可を得ていると思っていたからだ」

『別に気にしちゃいない。俺は枝垂健二、こいつはクレイ。よろしく頼む』

 

 言い終わるや否やデクを走らせる。ほぼ不意打ちに近い状況であったため、様子を伺っていた参加者やメンバーは手も足も出ずに終わるのだろうと確信した。

 しかし、当の健二は落ちついており、デクの速度に合わせてバックステップしながら肩を抑えつけてタックルを阻止したのだ。

 この光景には流石に周りも驚いていたが、炉夢自身は「やはりな」とだけ呟いて納得したようであった。

 

『俺はあの宇佐美を相手にしてたんだぜ、この程度の速度は歩いてるのと変わんねぇよ』

「だから不意打ちを狙ったんだ」

『それで合格かい?』

「ああ、コーチを呼ぶから指示に従って機体を格納庫に運んでくれ」

『わかった。これからよろしく頼む』

 

 この日、合格したのはこの枝垂健二を含めて二人だった。

 



 

 健二のグラムフェザー加入はかつてのチームメイト達は驚きつつ、メッセージで健二へ祝福と呪いをかけていた。誰もが健二の躍進を願い、誰もが健二の勝確チームへの加入を妬んでいたのだ。

 しばらくはその話題で持ち切りになり、この日も休憩室で宇佐美と祭が共に話題としていた。

 

「こうなると健二へクレイを送ったのが悔やまれるわね」

「九重さん、健二にクレイあげちゃったものね」

「正確にはローン組んで売却したのよ」

「そうなんだ。いくらなんです?」

「毎月一万円支払いの七十五回払い」

「六年ちょっとか」

「学校の奨学金よりは安いわよ?」

「生々しい例えださないでよ」

 

 実際、悔やむとは言ったが本音は全く後悔していない。むしろ健二がどのような変貌を遂げて立ちはだかるか楽しみなくらいだ。

 

「いずれにしても、健二とやり合うのはスプリングランドだねぇ」

「ね、やっぱり宇佐美君も楽しみなやつ?」

「そりゃ勿論」

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