「約束していた試合の日だがな、今年中だと十二月の第一日曜日しか空いてないんだがそれでいいか?」
「え? あぁ、まあ、いいあわそれで」
「ふむ、決まりだな。せいぜい鍛えておくんだな」
「いちいち嫌味しか言えないのかしら!?」
十月も半ばのころ、祭の元に兄の弘樹から連絡が入った。内容は先月に約束した試合の日程についてだったが、祭はロクにメンバーが集まってないのに返事を返してしまっている。
その事に気付いたのは通話が終わってから、そしてしばらくその事で後悔する事に。
「十二月の第一日曜日てえと、二ヶ月先か」
「正確には一ヶ月と十日す」
「時間無さすぎさね」
その日の練習終わり、祭とクイゾウは先の試合の話をコーチの恵美にした。本来ならば試合の日程等はコーチが交渉と手続きを行うものだが、今回は恵美が赴任する前に決まっており、また相手が祭の兄なので例外としている。
「あと二人足りないってのに」
「ごめんなさい」
「まあスポンサー企業が人質にとられてるっすからね、お嬢の事は責められないっすよ」
「確かに、勝てなかったらハミルトンが取り上げ、受けなかったらスポンサー企業を剥ぎ取られるわけだ。
あんたのお兄さんは中々えげつない事するねぇ?」
「我が兄ながらほんとすいません、あのデブはいつか断食させます」
とにかくまずはメンバー集めである。しかしただ集めればいいわけではない、
丸っきりのど素人ではダメだ。一ヶ月程度では免許をとれるかとれないかぐらいしかないし、何より他のメンバーと足並みを揃える練習時間が足りない。
ゆえに、迎える人材は経験者である事が望ましい。
「確かに今の時期なら一時的であっても加入してくれる人はいるかもしれないが」
「うまいだけじゃ駄目なのよね、ちゃんと信頼できる人でないと」
「そういう人間はだいたい他のチームに入ってるっすけど」
「コーチはアテとかありますか?」
恵美は腕を組んでう〜んと唸ってから、何かを思いついたようでタブレット端末で検索を始める。
「お? コーチにはアテがあるっすか?」
「いや、残念ながらあたしには無いけどさ……あんたにはあるんじゃない? 九重」
「え?」
そして恵美は二人に検索した画面を見せる。そこはラフトボール日本支部の公式ホームページであり、とあるラフトボーラーのプロフィールが表示されていた。
「ゲッ、こいつは」
祭にはどうやら見覚えがあるらしい。
「調べたところ今は活動休止してるみたいじゃないか」
「でも、こいつ」
「時間ないんだろ?」
「うっ」
苦虫を噛み潰したような渋い表情を浮かべた祭だが、次第に現状を理解して。
「わ、わかりました」
と絞るように渋々返事をした。
「それと、フリーのラフトボーラーがもう一人近くにいるみたいだから、ついでにスカウトしてきな」
「は、はい」
上手く行けば二人も獲得できるわけだ。しかしそんな美味い話にも関わらず祭の顔はどこか冴えない。
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