こっぴどく敗北した第五試合が終わった次の日。
第六試合が行われる日であるが、皆一様に沈んでいた。
「あら〜、みんな大分こたえてるみたいね」
「ここしばらく快勝が続いていましたからね、反動がきたのでしょう」
プロプレイヤーの厚と大蔵は反省こそすれど、落ち込むことは無い。負けるのも慣れているので切り替えも早いのだ。
同じく経験の比較的長い友恵と瑠衣と須美子もまたやや落ち込みはしたが、朝には切り替えていた。
まだ落ち込んでいるのは高校生組だけだ。
「ダメでありやす、こう、何やってもダメな気がしてならない」
「うん、負け戦は慣れてる筈なのに。ここまで綺麗にしてやられると凹む」
「水篠さんはフルバックだから尚更ダメ来てるよね。僕も全然走れなかったし」
「ダメだ、風が我の元へ届かぬ」
「あぁ! 兄さんが熱中症になりかけてる!」
どうやら涼一は単純に熱中症で落ち込んでるらしい、澄雨が見かねて涼一を医療室へ連れてった。後から聞いた話では対処が早かったので第六試合には問題なく出られるとのこと。
「こりゃ、思ったより暗いねぇ」
「せっかくなので試合が始まるまで昨日の反省でもしませんか?」
「そいつはいいね、鳥山の案に賛成さ。あんた達も落ち込んでる暇があったら分析をしな」
「「「「「「はーい」」」」」」
友恵が昨日の試合ログを待機室にあるモニターに流し始めた。
「これが昨日の試合ログです。前半部を流しています」
「ありがとう友恵さん、まあ兎にも角にも前半で全てを決められてしまったと言っても過言ではないさね」
人数が少ない事によるスタミナの問題、攻撃手段の少なさ、半数以上が新人なため基礎能力が低く守備が弱い。さらに勝ちが続いた事による油断、相手がこちらをしっかり調べて対策した事、逆にこちらは全く対策してなかった事。
簡単に挙げられただけでもこんなにある。
「特に油断と対策が一番の敗因さね。あたしが原因でもあるから強くは言えないけど」
「そうですか?」
と優しく言う恵美であったが、友恵は何故か疑いの目で見ていた。
「じゃあ後半のログにいきますね」
「後半は僕が出たんだけど、走れなかったんだよね」
「ガチガチの守備で固めて来たからというのもあるけど、パス回しを優先して時間稼ぎされたのが痛いわね」
宇佐美と祭が分析を始めた。どうやら反省点を改めて洗い出すことでだんだん落ち着いてきたようだ。
後半は二人の言う通り時間稼ぎが痛かった。前半でエースの宇佐美が出ない事を見越してガンガン攻めてスタミナを削り、宇佐美が出てきたら後ろに引っ込んで守りに入る。
あまりにもシンプルな作戦だったがインビクタスアムトには効果的すぎた。
「せやけど二度目はもう無いで、同じことされんように対策とらんと」
「とりあえず第六試合の相手を今から少しでも調べて対策しといた方がいいと思いやすぜ」
「あ、それなら私がログとメンバーの特徴をまとめてきてます。皆さんで共有しましょう」
「さすが友恵さん! 記者の本領発揮ですね」
ようやく高校生組も切り替えが出来たようだ。
しばらくは彼等の自由にさせようと恵美は待機室をでて医療室へ向かおうとする。涼一の具合は良いとは言え少し気になるのだ。
待機室を出て少ししてから、友恵が追いかけてきて背中へ声を掛けた。
「あの、桧山コーチ」
「おやおや、どうしたんだい?」
「いえ、大したことでは無いんですけど」
「遠慮せず言ってもいいさね」
「では」
そこで軽く深呼吸してから友恵が続ける。
「どこまで狙い通りでしたか?」
「どこまでとは?」
「いえ、第五試合ですけど半ば負けてもいいと思ってましたよね?」
「気付いてたのかい」
「ええ、何せ『予選は楽』なんてコーチらしくない発言ですもん」
「それだけで疑われるとはね」
「他にもあるんですけど、それはまあ置いておいて」
「何故負けさせたかだろ?」
「ええ」
「簡単さね、この先負けることが許されるのはここだけだからさ」
予選の次は近畿大会、次は関西大会、そしてスプリングランドとなる。この三つの大会はそれぞれトーナメント戦となっており、負けるとそこで終了。敗者復活戦も無いため文字通り勝つことしか許されない。
だが予選はリーグ戦であり、それぞれのブロックに割り当てられたチームと総当りをして最も勝利したものが近畿大会へ行ける仕組みとなっている。
「あたしはね、負け試合こそがチームを強くすると思っているさね」
「理屈はわかりますが荒療治ですよ?」
「ハッハッ、しかしここで成長できなきゃ今年のスプリングランドは不可能さ、何せあいつらは圧倒的に経験が少ない上に、格上しかいない世界に挑もうとしてるわけだからね」
そのための負け試合、経験を多く積ませるための負け試合。
「でも第五試合で戦ったボートキャシーが全勝したら私たちは予選敗退ですよ」
「そこはまあお祈りしかないけど、多分あたしの予想通りならそれは無いさ」
「何故です?」
「ボートキャシーが第六試合で戦う相手はね、あたしの見立てでは予選に参加したチームで一番強いうえにボートキャシーと相性が悪いからさ」
インビクタスアムトの第六試合が行われる前に終わったボートキャシーの試合は、恵美の予想通りボートキャシーの敗北で終わった。
これによりインビクタスアムトは首の皮一枚繋がったことになる。
そしてもう、負ける事は許されない。
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