前半戦と同じくセオリーの撃ち合いが続く後半戦、流石にセオリーは飽きてきたなとなった頃、ついにキャプテンがタイムをとって作戦会議を始める。
『作戦が決まった。ランとキャッチの両方で攻める、だがその際もう一つ博打をうつことにする』
そうして伝えられた作戦は健二のやる気をかき立てるものだった。
またキャプテンがタイムをとったタイミングも絶妙なものだった、後半戦も折り返しの時間、蛇足で行われていたセオリーの撃ち合いの中、丁度自分達がボールを手にしたタイミングだったのだ。
つまり都合のいい。
『作戦通りに!』
ゲームが再開される。現在のフィールドは自陣から見てやや右より、相手のタイトエンドとワイドレシーバーがこちらへくい込んでいるが、それはこちらのセンターバックとタイトエンドがフォローに入っている。
右側が縦に大きく伸びた状態なので左から攻めるのがベターと言える。
『GO!』
ランニングバックがキャプテンの合図で走る。同時に左端のフロント機体二機が前にでてランニングバックの道を空けようとする。右に偏っているのだから左が空いているのだ。
「甘いな、左が空いてると考えるのは相手も当然だ」
カールと炉夢が見守る中、攻め込んだランニングバックを抑えるために右側から素早くバックスが乱入してきた。ランニングバックは突如として現れたバックスを避けようと更に左へ行く。
これにより右側が縦に伸びてたのが、斜めに伸びた状態になった。
「残念だが減点だな」
「いや、そうでもなさそうだ」
改めて見るフィールドでは、新たなアプローチが行われようとしていた。
『キャッチ行くぞ! 走れ!』
とキャプテンが指示を出したと同時にワイドレシーバーが走る。田中だった、もう片方のワイドレシーバーは左側に伸びてきたバックスを抑えるために走っている。
攻め込んだランニングバックはボールを持っておらず、フリをしていただけだった。ランニングバックは向きを変えて今度はバックスに向けてタックルをする。これにより左側の敵機体が右に戻るのには時間がかかるだろう。
「しゃあ! 俺に任せろ!!」
アリのパワーで強引に組み合っていた機体を右にズラして道を作る。ズラされた機体は駆けつけてきたタイトエンドによって転がされた。
すぐ側を田中のラガーマシンが抜けていく。その頃には既にキャプテンがボールを投げていた。ここからは時間との勝負だ。
田中を妨害せんと敵も躍起となってきた、田中を倒しにきたのはあのいけ好かないランニングバックだった。
「ブースター起動! エンスト上等だおらあああ」
エンストはダメだが、健二はアリの限界速度を即座に引き出して田中のカバーに入る.......否、あのランニングバックを殴り倒しにいく。
「積年の恨み覚悟ぉ!」
田中を追い抜いてランニングバックへ向けて拳を振りかぶる。積年といえるほどの恨みは無く、ただ気に入らないという理由だけなのだから相手としてはたまったものではないだろう。
実際たまったものではなかった。
「だらっしゃああああああ!」
アリの左拳がランニングバックの右肩を捉えて衝撃を与える。本来ならそのまま飛ばされる筈だが、そこでアリはランニングバックの右手を掴んで引き寄せてその場にとどめ、足払いで倒す。
青天のランニングバックを踏みつけて動けなくした。
『健二君、こわ』
「うぇーい」
だがこれで終わりでは無い。田中は無事ボールをキャッチしたが、エンドラインへ行かなければ意味がない。そして敵の陣地にはまだフルバックという最後の砦が残っている。
『あとは僕に任せて』
正直な話、今の田中の実力ではフルバックを抜けるのは難しい、しかし健二は知っている。チームに入ってまだ数ヶ月程度だが、田中のある特技を。
「やっちまえ田中!」
田中は走らず、持っているボールを上に放り投げる。誰もが目を丸くした。なぜなら突然試合放棄したと思われたからだ。
しかし田中にそのつもりはない、落ちてくるボールに合わせて足を引き、そしてタイミングを合わせてボールを宙空で蹴り飛ばす。
ボールはフルバックの頭上を通り過ぎて、エンドラインの中央にあるゴールポストにシュートされる。
これにより、健二達のチームに三ポイントが加算された。
初得点がでる様を見ていたカールと炉夢は驚きの表情を浮かべていた。
田中が成し遂げた宙空でのキック、あれは非常に難易度が高いためプロでも実行できる者は稀だ。感覚で蹴る生身と違い、ラガーマシンではボールの落下速度と角度、蹴り飛ばすタイミングを瞬時に計算して打ち込む必要がある。特に落下速度、常に狙った速度になるよう調整して投げなければならない。
それを田中が特技としていたのだ。
「驚いたな、あのワイドレシーバー.......田中だったか、彼にあのような特技があるとは」
「枝垂健二も見事なものだ、一瞬の爆発力ならレギュラーにも引けを取らない」
「だが彼等は自分達が優れた能力を持っていると自覚しているのだろうか」
「さあな、しかし、彼等は上がってくるぞ」
それだけは二人共確信していた。
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