「宇佐美が……キレた」
観客席から観戦していた面々は一様に驚いていた。普段温厚な宇佐美が怒るのだから驚きも一塩だろう。
宇佐美でなくても、厚のやった挑発行為は腹に据えかねるが。
「冷静に分析するなら、鳥山の挑発行為も宇佐美の判断力を下げるためにやったとも言えるかね」
「それに、実力差を示して他の二人が戦意を失うようにしたとか」
恵と瑠衣が考察を深めるが、そのどちらもだとしてもあまり脅威を感じられていない。
「意外かもやけど宇佐美は割と感情的になりやすいんやねんな、やけどそれで取り乱すなんてのはあまりないで」
「あっしも心愛とはまあまあの付き合いになるでありやすが、あの子意外と大胆なとこありやすぜ」
「私は新参なのでまだ皆さんの個性を掴みきれてませんけど、貴族さんて戦意を喪失させるようには思えないんですよね」
「まあ馬鹿やからな」
皆一斉に頷いた。
ここにいる皆の見解としては厚の挑発行為は逆効果ではないかと結論づけられた。
仕切り直して宇佐美達がハーフラインに並ぶ。
『ごめん、ついカッとなって』
『大丈夫! 私だってムカついたもん』
『ちょっとあいつぶっ殺そうぜ』
漣理がまたキャラ崩壊しているがそれは置いておいて。機体の分析に入る。
『レオニダスの能力は見ての通りだよね、盾で臨機応変な防御体勢をしいたり』
『どちらかといえば的確な投げ技が厄介ですね……ナイル』
『投げというよりは弾いてたな』
『でも性能はTJの方が高いんだよね? 私のクリシナは無理だけど、TJなら止められるんじゃない?』
『パイロットの技能が高すぎナイル』
『どうしようもない』
続いてリリエンタール。
『思ってたより速かったけど、ハミルトンで慣れたからかそこまで速いとは感じなかったなあ』
『やっぱりパイロットのテクだな、貴族君、あの時リリエンタールはどんな動きしてた?』
『正面からハミルトンへ当たりにいって、手前でブースター点火して急加速したよ』
『やっぱり加速を利用した攻撃か、そんな技もあるのか』
圧倒的な経験値の差、どれだけブランクがあろうとも現役時に培ったものはそう簡単に衰える事はない。
『さて、次のラウンドどうしよう』
正直に言うと策が無い。宇佐美は戦術ならまだしも、戦略をたてるのはやはり苦手としてる。
次はハミルトンで突撃してみるかと考えていると、心愛から提案があると言ってきた。
『何かあるの?』
『えっと、ただの思いつきなんだけどさ』
『どうぞどうぞ』
『あのさ、私がボールをエンドラインまで持っていこうかなあ……なんて』
三回目のラウンドが始まる。ボールはハミルトンの手に、布陣は一回目と同じくTJを先頭にした縦一列。そして一回目と同じくTJが先に動いた。
『さっきの二の舞になりたいのですかね』
厚が呆れた声を上げる。やはり数が多いとはいえアマチュアが元プロに勝てる筈もない。多少なりとも期待はしていたのだが、どうやら実戦経験の乏しさはどうしようもないようだ。
『来たわね!』
レオニダスの前にTJが現れた。さっきと同じだ、レオニダスが前にでてタイミングを合わせて盾で弾こうとする。TJの後ろにはハミルトンがいる。さっきよりも距離が短い、もしかしたらレオニダスがTJの相手をしている間に抜けようとしているのかもしれない。
(いや待て)
厚の脳内に警鐘が鳴り響く、さっきはクリシナがTJの後ろに居たはずだ。さっきと微妙に違う、何か見落としていると思ったその時、厚はハミルトンの手にボールが無いことに気付いた。
ボールは最後方のクリシナが持っていた。おそらくハミルトンがクリシナを追い抜いた時に渡したのだろう。
そしてレオニダス手前、TJが突然急ブレーキをかけて止まった。合わせてレオニダスも動きを止める。その瞬間TJの影からハミルトンが飛び出してレオニダスの脚を掴む。同時にブースターを最大噴射して相手を押し倒す力にする。ライドル戦で宇佐美がやってのけた技だ。
『しまったわ!』
いかに体格差があろうと、脚を掴まれてしまっては簡単に立て直せない。すかさず盾を後ろに突き立ててバランスを維持したが、その時点で既に五秒は経っていた。
その五秒の間にTJが駆け出してリリエンタールへ向かう。
リリエンタールがTJを迎えうつ。お互いが睨み合うところまで来た時、唐突にTJが自分の頭を掴んで投げた。
『は?』
思わず間抜けな声がでた。TJの頭はリリエンタールの頭部へヒットして一瞬ながらも厚の視界を封じる事に成功していた。一瞬の隙をついてTJがタックルする、綺麗に下腹部へ入ってきた、アマチュアにしては見事なタックルだと厚が思った。
リリエンタールはTJに倒された。
残ったクリシナが悠々とエンドラインを超えてタッチダウンをとった。
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