祭が予選に参戦したのは二戦目からだった。
「いやぁ昨日は悪かったわね、あたしがいなくて寂しかっただろうけど、無事に勝てて安心したわ」
などと二戦目開始前にのたまう。
この反応には流石に皆も頭にきたようで、一度祭を除く全員で集まり作戦会議、それから怒涛の攻めを展開するのだが、ただ責め立てるだけでは効果は無いだろう。的確に祭を追い詰める必要がある。
ゆえに彼らはこの作戦にでた。
「私は祭ちゃんがいなかったから寂しくて寂しくて泣きそうだったよ、帰ってきてくれて良かったなあ」
「あっしも心愛と同じで姉御がいないから力がでなかったでありやす。こうしていてくれるだけでありがたいでありやすなあ」
「僕も九重さんがいないから不安だったよ、このチームは九重さんあってのものだと認識できた」
「せやなあ、ワイも宇佐美と同じで九重のビシッとした指示が無いとしまらんかったわ」
そう褒め殺しである。
「ちょっと待ちなさいあんた達!!」
これにはかなりの効果があったらしく、メンバーから次々と浴びせられる褒め言葉によって顔は茹で上がったかのように真っ赤となり、羞恥と鼓動の高鳴りで逃げ出す程だった。
ちなみにこの作戦、試合前だけで終わったわけではなく、試合中にも続く事となる。
『相手が左に偏っているわ、フロントでその状態をなるべく維持しながらハミルトンで右側から攻めるわよ!』
『さっすが祭ちゃん! あんなに小さかった頃とは比較にならない程頼もしくて、あたし、涙がでちゃう!』
『そうですね、去年よりとても成長しました。あの夏の日に彼女の申し出を受け入れて加入して良かった。ねぇ須美子ちゃん』
『う、うん。そうだね』
『あんたらやめえええい!!』
この頃になると最早悪ノリでやってるところがある。
なお、二戦目は無事に勝利で終わった。その日のうちに三戦目も行い、これも勝利。
四戦目は四日後の水曜日となる。平日ではあるが、学生は夏休みに入っており社会人は普通に有給をとるので問題ない。
火曜日の夕方、この日は猛暑日となり外の気温は三十七度を超える程、流石に実機訓練は中止して全員シミュレーターで訓練をしているのだが、シミュレーターが置いてあるのは整備棟隣の小屋、機体にダメージを与えないため整備棟は寒いぐらい冷房を効かせてあるのだが、シミュレータールームは整備棟とホースで無理矢理繋いで冷房を共有してるからか、全くもって暑い。
それゆえシミュレーター待ちの時は整備棟でだらけている。
ホースではなく壁をぶち抜いて繋げた方がいいと宇佐美がいつだったか訴えていた。
そんな彼らの苦悩とは別に、恵美は冷房のよく効いた事務室で予選参加しているチームを調べながら眉をひそめた。
「どうかされましたか?」
同じく事務室で作業中の上原雲雀が声をかける。普段は弟の宇佐美に関する話(彼女の主観が九割)と事務的な会話しかしないのだが、今日は珍しく普遍的な会話を切り出してきた。
それほどまでに恵美の表情が険しかったのかもしれないが。
「いやね、今回の予選に参加するチームの一戦目と二戦目の動画を観ていたんだけど、どうやらちょっと一筋縄ではいかないチームが二つあってねぇ」
「負けるかもしれないんですか?」
「ありていにいえば」
「確か勝率で近畿大会出場チームが決まるんですよね。それは確かに大変かも」
「それもあるんだが、実は予選を楽に突破できるってあの子達に豪語しちゃったんさ」
「あぁ、何でそんな事言っちゃうんですか」
「あたしの痛恨のミスさ、早目に訂正して気を引き締めさせないと」
そうと決まればと早速全員にその旨を伝えて気を緩めないようにしたつもりだったが、残念ながら厚と大蔵と瑠衣を除く全員が話半分に聞いており、また翌日に行われた四戦目で圧勝したためより一層緩い空気が流れ始めていたのだ。
そして週末になり、五戦目が行われる。
この五戦目が彼等の意識を大きく変える事となった。
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