『それじゃあ嵌めるよ』
「お願いしまーす」
ライドルがフィールドに転がっていたハミルトンの左足を拾い上げて持ってくる、足を嵌め込みやすいよう一旦ハミルトンの向きを調節してから、慎重に嵌める。
宇佐美はそれを見ながら、タブレット端末で結合プロセスを確認して操作する。無理矢理外したのではなく、キチンと分離プロセスを踏んで外したのでつけるのは簡単にできる。
「3……2……1……OKです。ありがとうございました」
無事にハミルトンの足が結合した。
それから宇佐美はハミルトンのカプセル型コックピットに入り気体ケーブルを充満させる。程なく意識をハミルトンに同化させた宇佐美はまず左足の具合を確かめる。
「問題はないな、やはりあるべきものがあるって最高だね」
有るのに無い、あの時感じた気持ち悪さは忘れたくてもしばらくは脳髄にこびりついて離れないだろう。
逆に初めてハミルトンに乗った時、右足が動かないのに動いた感覚は気持ち悪くなかった。
奪われる感覚というものがよくないのだろうか。
『さて、用意はいいかい宇佐美君? 強敵のおでましだ』
ライドルがロッドをある地点へと向ける。そこはフィールドの入出ゲートとなっている、
そこから真っ赤な機体が入ってきた。5m前後、逞しい体格に太い腕、ゴリラのようなパワータイプのラガーマシンだ。そのラガーマシンは宇佐美のよく知る機体だった、健二のクレイだ。
モニタールーム
「いや、なんで俺のクレイなんだよ!!」
自分の機体が使われるとは聞いてなかった健二が叫んだ。
「まあまあ落ち着きいて、ええやん別に」
「おまっ! 自分が選ばれなかったからって余裕浮かべてんじゃねぇぞ!」
「そんな事……めっちゃあるわぁ」
とてつもなく下卑た笑顔を浮かべる武尊、クレイと同型機のアリが選ばれなかったがゆえに高みの見物となっているのだ。
そしてこの直後、モニタールームでも一騎打ちが行われたのは言うまでもない。
まさかクレイに乗って現れるとは思っていなかった。
冷静に考えれば、メンバーも満足に揃っていないチームのイベントのためにわざわざ関東から愛機を持って来るはずがない。
そのためラガーマシンを貸し出すのは必然である。
「クレイか、パワーよりのバランス機なんですよね」
『なるほど、つまり速い機体や何かに特化したものではなく、扱いやすいのを選んだわけだね、そう言えば彼の愛機オールブラックもパワーよりの機体だったね』
「えっ……あれでパワーよりだったの」
宇佐美は試乗会で戦った時の事を思い出した。あの時のオールブラックはパワーだけでなくスピードも優れていた。ハミルトンのスピードに一時的ながらついてくるほどに。
それゆえパワーよりと聞いて戦々恐々としていた。
「ハミルトンでオールブラックに勝てるのはスピードだけか」
『ライドルなんか勝てる要素リーチだけだよ』
「つまりオールブラックやべぇということですね」
『パイロット含めてね、正直機体が違っても僕ら相手じゃハンデにすらならないじゃないかな』
「白浜さん、逆に僕ワクワクしてきましたよ」
『怯まないのは良いことだ』
そして3機は所定の位置につく。
クォーターラインを挟んで向かい合う。ライドルとクレイが直接向かい合い、ライドルの後ろにハミルトンがつく。
今回のボールキープは枦夢が務める。つまり攻撃がクレイで、守備がハミルトン&ライドルとなる。3回勝負して、一度でも枦夢がタッチダウンをきめれば枦夢の勝ちとなるのはさっきの一騎打ちと同じだ。
カウントダウンを待つ間、上邦枦夢から通信が入る。
『久しぶりだな、上原宇佐美』
「上邦さん!?」
『枦夢でいい、俺も宇佐美と呼ぼう』
「は、はい枦夢さん……あの、覚えて頂けて光栄です」
『覚えている。お前は俺に勝ったのだから』
思い巡らしてみるが、宇佐美の記憶に枦夢と戦って勝った記憶がない、そもそも対戦して勝った記憶はチームメイトと瑠衣だけしかない。
枦夢に勝つなどトッププレイヤーでも難しい。
「えっと、その……記憶が正しければ僕、枦夢さんに負けてる気がするんですけど」
『そうだな、公式には。だがあの時俺はお前を抜かせるつもりはなかった、抜かれても追い掛けるつもりもなかった。
しかし、結局俺はお前の熱に感化されて本気で抑えてしまった。あの時は大人気ないことをしたと今は反省している。すまない』
「いえっ、そんな、滅相もない」
『それゆえに、俺はお前に敗北したと感じている。今回はリベンジも兼ねてお前がどれだけ上手くなったのかを見たくなって来た』
「そのために滋賀まで」
『いや、ここに来たのは実家があるからお盆帰省しただけだ』
そういえば、武者小路枦呂と上邦枦夢は従兄妹同士であった。実家がこの辺りにあってもおかしくはない。
お盆の帰省ついでに様子を見に来ただけのようだ。一瞬でも自分のためにわざわざ来てくれたと思ってしまったのが恥ずかしい。
『以前より機体性能が落ちてるらしいが、手加減はしない』
「はい、今の全力を頑張ります」
開始のカウントダウンが始まり、0になった瞬間ライドルとクレイが動きだした。
2機ともブザーが鳴り響いた瞬間に動いた反面、ハミルトンはやや出遅れてしまう。宇佐美はスタートダッシュの速さだけでも2人との技量差を実感してしまった。
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