「これがプロの世界なんか」
隣で武尊が感嘆しているのがわかる。
彼が唸るのも無理はなく、目の前で起きてるプレイは今までみたどのプレイよりも迫力が違っていた。勿論動画サイトで見たものとも違う、あちらは結果を先に知ってしまってるのがほとんどなので迫力にかけるのと、知らなくてもカメラが任意に切り替わるわけではないので没入感が低い。
生で見るプレイは自分の意思でカメラを切り替えられ、また肉眼で追いかける事もできて臨場感が溢れている。そのせいでプロのプレイから学ぶというのが全くできていないのだが。
「動作から動作が速いけど、どうなってるの?」
「いいところに目をつけたね心愛」
「え? そう? ほんとに? えへへ」
褒められて嬉しい心愛。実際彼女の着眼点は良いものである。コックピットに入って操縦する以上、一つ一つの動作には必ずタイムラグが発生する。例えば一歩踏み出す行為であっても、足を上げ、膝を曲げ、体重を移動させ、足を下ろし、踏みしめ、というような事を一つずつ行わなければならない。
勿論、普段はそういった事をボタン一つもしくはペダル一踏みでできるようにするのだが、一度始めてしまうと終わるまで止まらない。
動作が多ければ多いほど終わるまで時間がかかって次の動作が遅れる。それがタイムラグである。
ボタン押してから機体が動くまでのラグだけの事ではないのだ。
「そして、そのラグがほぼゼロなのがハミルトンてことよ」
恵美がラグの説明をした後、締めとばかりに祭が補足した。
「そうか、僕の意識がハミルトンと同化するから」
「ワイらと違って感覚的に動かせるわけやな」
「代わりにレーダーが使えなかったり、ダメージ受けた時のフィードバックがシャレにならないのだけどね」
それから再び一同はフィールドに目を落とした。
試合は前半戦終了十分前となっていた。そこでグラムフェザー側からタイムが申請されて試合が中断される。
「あんた達、よく見てな、日本最強のラガーマシンが投入されるよ」
この試合、最初から炉夢がでてるわけではなかった。恵美曰く、グラムフェザーは最初じっくり守って相手の能力を見極めてからエースの炉夢を投入するのが基本戦術なのだそうだ。
「始まるよ宇佐美、あんたが倒そうとしてる男の戦いが」
恵美の言葉には緊迫感が宿っていた。
それを深く実感するにはさほど時間がかからなかったのは必然といえよう。
フィールドにオールブラックが現れた途端観客席からの歓声は一方大きくなった。
歓声を浴びる炉夢本人は至って平静で、深く深呼吸をしていた。
『いつも通りだ、炉夢。焦らず確実に点をとっていくぞ』
炉夢のコックピットにキャプテンのカールから通信が入った。
『悪いがキャプテン、今回は最初から全力でやらせてもらう』
『どうした炉夢、いやに張り切ってるじゃないか』
『当然だ、奴が見ているのだからな』
『あの子か』
カールには誰の事か見当がついているのだろう。
『いいだろう、ちょうどこちらがボールを持っている。まずは走ってとってこい』
カールの機体からボールがパスされた。
受け取ったオールブラックはすぐさま走りだす、相手は自分達と比肩する最強のチーム、死力を尽くす相手として不足はない、むしろこちらが不足している可能性すらある。
『だからこそ面白い!』
オールブラックが重量級のラガーマシンを片手で弾き飛ばした。
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