後半戦開始直後の攻防は傍から見ると異様な光景に思えただろう、ここに来てバジリスク側からの猛攻にあ加え、追撃時におけるインビクタスアムトの異常なまでの反応の薄さ。
この不可思議な光景を解説できる材料は実況側にはまだ無く、状況を理解できるのは当事者と一部のベテランプレイヤーぐらいだろう。
『くっそおお!! なんやねん!! 全然見えへんかったで!』
『レーダーで確認してたけど、いつ移動してたのかみえなかった』
瑠衣はずっと後方で動かなかった分、イガグリ弦太郎の動きをレーダー上で追跡していたのだが、どうやらレーダー上の動きと実際の動きが噛み合わなかったようだ。
この事は祭も確認済みで、それらからイガグリ弦太郎の忍術がなんなのかを推察する事ができた。
『みんなよく聞いて、イガグリ弦太郎はおそらくステルスを使ってるわ』
ステルスは隠蔽を意味する。
『姿が見えなくなるわけじゃないわ、ただレーダーを撹乱させてるだけなの』
『それで見えなかったんでありやすね』
『私達は敵の動きをレーダーで追いかけるのが基本となっているわ、その基本的な操作を逆手にとったイヤらしい戦法てわけ』
レバー操作をしているとわかるが、一々相手の動きに合わせてカメラを動かすのは非常に手間なのだ。レバーを操作する、カメラで見渡す、探す、カメラを動かす、と動作が四つもある、だから目だけで確認できるレーダーが重宝されるのだ。
「それって全員がステルス搭載していたら無敵じゃね?」
グラムフェザーの談話室では健二達がイガグリ弦太郎のスペックについて話し合われていた。既にイガグリ弦太郎がステルス持ちなことは炉夢によって解き明かされている。
「それは無いよ健二君、ステルスは一つのチームに一体だけしか搭載されない事になってるんだ」
田中の解説は最もである。レーダーを狂わせるステルスが全機体に導入されればゲームとして破綻してしまう可能性があるし、そもそも面白みがない。
故に各チーム一機体のみとルールが定められている。
「だがステルスは使うチームが多すぎて今や対策が充分されてる、今更使おうとするチームは珍しいくらいだ」
「あたいも最後に見たのは半年前ぐらいだったかねぇ」
遠いところを見るように和紗がシミジミと思い出していた。それほど珍しいのだろう。
「九重の事だからステルスの事は気づいてるんだろうな、でもステルスがバレたらもう楽勝じゃないか?」
「いや……ステルスはむしろネタがバレてからの方が厄介だ」
各自ハーフラインに揃い、インビクタスアムトがボールキープで試合再開される。イガグリ弦太郎のネタは割れたのだ、誰かがイガグリ弦太郎を監視しておけばいい。
この監視役には瑠衣が選ばれた。フロントは常に組み合っているから監視の暇は無く、センターバックやランニングバック、ワイドレシーバーはアタッカーなので論外、クォーターバックの祭はリーダー司令塔なのでさらに論外だ。
だからこそタイトエンドの瑠衣が選ばれた。
監視をしやすいよう、ライドルは少し前に出る。
『くっ、イガグリ弦太郎が早すぎてカメラで追い切れない』
監視されてると悟ったのか、イガグリ弦太郎はフィールド上を縦横無尽に駆け回りだした。規定重量を超えている筈なのに機動性が高い、というより馬力が他の機体に詰まれているエンジンと格が違うのだろう。
出力が段違いだ。もしかしたらフロントととも張り合えるかもしれない。
『ロングパスで攻めるわよ! 澄雨も監視に協力して!』
『はい! 瑠衣先輩、右側は私が』
『わかった、左側は任せて』
直ぐさまエルザレイスがボールを構え、横にハミルトンがつく。
『走って!』
「はい!」
宇佐美はボールを受け取ったフリをしてやや前屈みになりながら駆ける。ポルシェボーイの空けた穴を通り抜けて敵陣に入り込んだところでワイドレシーバーとタイトエンドの二体に取り押さえられる。
『ハミルトンはブラフや!! パスくるで!』
とバジリスクの高秀がリーダーらしく檄を飛ばす。
遅れてワイドレシーバーのクイゾウとリリエンタールが左右から攻め入ってくる。ボールは既にエルザレイスの手を離れて綺麗な放物線を描いていた。
『イガグリ弦太郎の位置は!?』
『右です!』
『左です!』
『はぁ???』
これにはクイゾウと厚も困惑したが、直ぐにボールの軌道に合わせる。しかしその困惑した瞬間の隙をつかれ、ボールの落下先にイガグリ弦太郎が待ち構えており、リリエンタールと激しく組み合った。
厚はイガグリ弦太郎の位置を把握しておらず、急に目の前に現れた形になる。それでも止まらず組み合ったのは流石元プロといえよう。
さらにリリエンタールは組み合う直前にクイゾウのいる方へボールを弾いていた。
だが、その時クイゾウは既に他の機体に倒されていたので残念ながら敵の手に渡ることとなった。
『インターセプト来るわよ!!!』
ランニングバックとワイドレシーバーの三体が抑え込まれたインビクタスアムトの陣地はさぞスカスカに見えただろう。
だがインビクタスアムトの守備陣も捨てたものではない、攻めてきたのがイガグリ弦太郎でないならライドルとクリシナの守護が守りきる……筈だった。
『タッチダァァァァァウン!! なんと後半にしてバジリスクの猛攻が続いているぅ!!』
タッチダウンを決めたのは、リリエンタールと組み合っている筈のイガグリ弦太郎だった。
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