Robotech Touchdown 〜ロボテック タッチダウン〜

失った足を代替して頂点を目指す
芳川 見浪
芳川 見浪

Preliminary Contest ⑳

公開日時: 2023年1月20日(金) 22:49
文字数:2,224

 あと一回。

 この言葉は今このフィールドに立つ選手達、また観戦している人達全ての頭の中をよぎっていた。

 インビクタスアムトの得点は現在二五点、つまりあと一回タッチダウンをとって六点、追加キックで一点取れば三二点となりインビクタスアムトの勝利条件を満たせるのだ。

 また残りの試合時間は六分、どう足掻いてもここからバジリスクが逆転する事は不可能、つまり次のゲームでインビクタスアムトがタッチダウンを取るか、バジリスクが守りきるかの勝負となる。

 

『急いでボールを奪って!』

 

 バジリスク側から始まったゲーム、制限時間は六分。六分以内にボールを奪わなければインビクタスアムトの敗北、奪ってもタッチダウンが取れなければ敗北、

 状況的にはインビクタスアムトが不利ともとれる。だがバジリスク側からしたら永遠とも思える長い六分間を守りきらねばならない、そのプレッシャーはいかようにもはかれない。

 

『戦術も戦略も無いわ! 全員突撃しなさい!』

 

 フロントもバックスも関係ない、それどころかエンドラインを守るフルバックのクリシナですら前に出してきた。

 文字通りの全軍突撃状態なのである。

 



『これはどういうことだあ!? まさかのフルバックまで投入してきたぞ!』

『まさになりふり構わずですねぇ』

 

 実況と解説の考えは、多くの人の考えと直結していた。それはグラムフェザーの健二も同様であった。

 

「なあ、ここで全員突撃したら攻撃し放題じゃね?」

「だろうな、だがバジリスク側は決して攻撃をしないだろう」

 

 炉夢の分析は正しい、実際バジリスク側は更に守りを固めるだけで攻撃をしようとしてないのだ。

 

「え!? まじ!?」

「馬鹿だねぇ健二、むしろインビクタスアムトからしたらタッチダウンを取ってほしいくらいなのさ」

「いやいや姐さん、んなわけねぇだろ? 九重はそんなドM趣味じゃねぇぞ」

「違うよ健二君、もしここでバジリスクがタッチダウンを取ったら、インビクタスアムトがボールキープの状態からゲームが始まる事になるんだよ」


 和紗と田中の説明を受けてようやく健二も理解する事ができた。

 

「なーる、やっとわかったぜ。確かにあいつらなら、いや宇佐美なら一度ボールを持てば必ずタッチダウンをとる」 



 

 一方的に攻撃ができるからこそ起こした大乱戦、大混戦、しっちゃかめっちゃかという言葉がこれ以上ないほどピッタリな状況が展開されていた。

 またインビクタスアムト側はフロント機体を攻めさせるために、相手のフロント二機に対してクリシナとヘイクロウとライドルとクォーターバックをぶつけたのだ。

 そして空いたフロント機体は無敵要塞ジックバロンと勇者ソルカイザーの二機、またジックバロンの手にはポルシェボーイから渡された大盾が握られていた。

 

 難攻不落のジックバロンが攻めてきたとなれば敵側のプレッシャーも相当だろう、倒すとなるとそれなりの人員を割かねばならず、しかしその余裕はない。

 故に彼らはジックバロンを放置する手段をとった。

 

『かかった! 今よ須美ちゃん!』

『うん!』

 

 ジックバロンの背中と、大盾から強い炎が噴き出した。それはブースターの起動を意味しており、つまり本体のブースターに加えて大盾のブースターも合わせた超加速をだしたのだ。

 まるで大型トラックが突撃してくるかのような圧をだしながらジックバロンは真っ直ぐボールキープしている機体へ突進する。ボールキープをしている機体はあまりの恐ろしさからか元々予定していたパスコースを大きく外れてあらぬ方向へパスを飛ばしてしまう。

 

『拙者が取るでござる!』

『いーや! それはさせない!』

 

 リカバリーに入るイガグリ弦太郎を阻むのはなんとハミルトンだった。ハミルトンにレーダーは積んでおらず、またカメラワークが人のそれとなんら変わらないためイガグリ玄太郎のステルスは通用しないのだ。

 最後の最後にようやくのエース対決、しかし宇佐美に勝とうというつもりは無い。ただ足止めをすれば良いのだ。

 

『お主がここにいるという事は、誰がタッチダウンを!』

「決まってるじゃん、勇者だよ」

 

 ここで六分が経った。しかしボールがフィールドに落ちない限りゲームは続行される。

 今まさにボールがフィールドに落ちようとしており、それを指の無いソルカイザーがとろうとしている。

 

『ソルカイザーに指はない! 拙者らの勝ちでござる』

「いや指あるよ」

 

 その時、ソルカイザーの右手から篭手がボロっと落ちた。そして中から普通の五本指が出てきたのだ。ソルカイザーは常に指先まで隠す篭手を付けていたため指が無いと思われがちだったが、実際は篭手を外す機会が無いだけで普通に指はある。

 

『ええええええ!! 指あったのぉぉぉぉ!?』

 

 今まさに実況と同じことを叫んだ人が何人かいたことだろう。

 ソルカイザーはボールをフィールドに落ちる前にキャッチして、エンドラインへむかう。だが所詮はフロント機体、速度が遅く直ぐに周りを囲まれてしまうが、先に突入していたジックバロンが間に入って包囲網を崩す。

 その隙にソルカイザーが走る、残る相手はフルバックのみ。

 フルバックが取り押さえようとタックルを仕掛けてくる、対するソルカイザーは慌てずゆっくりと、そうゆっくりと空いている左手を引いてから、フルバックの手を掻い潜って懐へ入る。その瞬間ソルカイザーは左手を小さく振って相手機体の顔を横から殴りつけた。

 ボクシングで身につけたモーションは功を奏し、機体をダウンさせる。

 それからソルカイザーはエンドラインを超えてタッチダウンをとった。

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