『あーもう! またやられた!』
『流石は我がライバル、分身の術まで心得ておったか!』
『分身の術なんてものがほんとにあってたまるかってのよ』
分身の術のネタは解説しなくても全員が理解していた。
ラガーマシンを見分ける時は、主に頭部の形状や肩や腕、武装など目に見えてわかりやすいパーツを見る。これは人間を見分ける時も同様に服装や髪型等を見るので、人もラガーマシンも見分け方に変わりは無い。
イガグリ弦太郎は頭部がシンプルで、忍者の様な外観をしている。つまり見分ける時は「忍者のような」パーツを見ることになる。
そこで、他のメンバーに忍者のようなパーツがあればどうなるか、イガグリ弦太郎はステルス搭載なのでレーダーに映らないから肉眼で確認するしかなく、しかもプレイ中は激しく動き回るのでロクな確認をとれない。
つまりパッと見では忍者のようなパーツを付けた他のラガーマシンがイガグリ弦太郎に見えてしまう事があるわけである。
それを狙ってバジリスクの機体は後半に入ってから微妙な変化を機体に施していた。
『全くイヤらしい事してくるわね』
『対策はどうしますかお嬢』
『やっぱりここは、宇佐美君に行ってもらうしかないわね』
「はーい、どこから攻めます?」
『出番よ風の勇者、あんたが道を開きなさい』
『その言葉を待っていた!!』
ガシッガシッと拳を打ちながらソルカイザーがやる気をみせる。それからビシッと腕を前に伸ばしてイガグリ弦太郎へ拳をぶつけるようなポーズをみせた。
『我がライバルよ!! いざ! 尋常に!』
なんと勝負宣言を行ったのだ。
『ちょっと! 兄さんなにやってんてすか!? バカなんですか!?』
『いや澄雨、これは悪くない手よ』
もしイガグリ弦太郎のパイロットが話に聞く厨二病なのなら、この状況でノってくる可能性が高い。
『その勝負、受けて立とう!』
案の定、ノってきた。勿論ブラフの可能性もある。しかしその際はギリギリまで勝負にノっているように見せかけてくる筈なので監視がしやすい。
『ノってきたわ!! みんな行くわよ!』
試合が再開されて各フロントがぶつかり合う。しかしソルカイザーのところだけは武尊のアリが割って入り、武尊の穴には炉々のヘイクロウが埋める。
しかしヘイクロウではパワーが足りない、だがソルカイザーが横から相手を殴り倒す事で無事にハミルトンが通り抜ける道を作る。
ハミルトンはまだ動かない、これはソルカイザーがイガグリ弦太郎を止める作戦なのだ。
『よし、炉々はそのままフロントを抑えて! 澄雨!』
『はい!』
既に澄雨のカルサヴィナは動いている。先にカルサヴィナが敵陣に入ってタイトエンドに絡みついて動きを止める。
ハミルトンが走り出した。合わせてソルカイザーも中に突入した。
横から妨害に入ったワイドレシーバーを腰の入ったストレートパンチで沈め、真っ直ぐイガグリ弦太郎の元へ。
『待っていたぞ! 風の勇者よ!』
『それはこちらもだ! 忍びの者よ!』
『だが残念だ、今はこちらを優先させてもらう』
『なに!?』
突如イガグリ弦太郎が腹から巨大な人型風船を膨らませながらソルカイザーへ押し付けた。不意をつかれたゆえ風船を回避できずそのまま風船と抱きつく。
風船には磁石でも仕込まれているのか、ソルカイザーにくっついて離れない、さらに絶妙な弾力があり中々割れなかった。
その間にイガグリ弦太郎がハミルトンの元へと向かう。
『忍法身代わりの術でござる!』
『おのれ卑怯なり! だが見事だ!』
ソルカイザーがもたついている間に持ち直したワイドレシーバーと駆けつけたランニングバック、そしてキャプテンである高秀のクォーターバックの機体がぞろぞろと集まって壁を作る。
壁の後ろにはイガグリ弦太郎が控えており、壁を抜けてきたら不意打ちでハミルトンを倒すつもりだ。だからこそ、あえてその壁には穴を作っており、そこをハミルトンは抜けてきた。
完全なる死角、レーダーに映らないからこそ狙える完璧な角度からハミルトンを倒そうとイガグリ弦太郎が攻める。
『流石は我がライバル、だがあまり我々のエースを見くびるなよ』
『なにぃ!?』
イガグリ弦太郎がハミルトンを捕らえようとするその瞬間、ハミルトンはチラッと一瞥だけして片手でイガグリ弦太郎の手を払い。
「リミット……ブレイク!」
その瞬間、ハミルトンに仕掛けられたリミッターが一つ解除された。平均速度は時速四キロメートル早くなり、レスポンスが三十パーセント向上する。
より早く、そしてより人間的な動きができる。
『は、はやい』
間近で観ていた太郎はハミルトンが突然消えたように見えただろう。
それはまるで陽炎のような、いや赤い残像を残して走るその姿はまさに炎。
グラムフェザーにて、ハミルトンが見せた突然の覚醒を全員が驚いていたが、ただ一人、炉夢だけは興奮した面持ちで目を見開いて画面に食いついていた。
彼の脳裏には一年前の春、初めて宇佐美と勝負した時の事が鮮明に思い起こされていた。
「そうだ、これだ。ようやく出会えたな…………炎のランニングバック!」
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