Robotech Touchdown 〜ロボテック タッチダウン〜

失った足を代替して頂点を目指す
芳川 見浪
芳川 見浪

Carnival Robotech ③

公開日時: 2020年11月10日(火) 18:12
文字数:2,273

 8月10日、白浜瑠衣と上原宇佐美の一騎打ちが行われる前日、お盆休みを間近に控えた星林大学から数台の大型トラックがでてくるのを正門から見送っていた影が一つあった。クリーム色の短い髪と女性を魅了する甘いマスクの持ち主こと瑠衣である。

 瑠衣が見送ったトラックには全長5m前後のラガーマシンが積み込まれており、美浜市郊外にあるラフトボールのフィールドへと運ばれようとしていた。


「い、いよいよ……明日……ですね」


 たどたどしい口ぶりで語りかけてきたのは猪狩須美子だった。相も変わらず横に大きな体型をしている。

 彼女はいつも瑠衣と話す時だけこのようにたどたどしい喋りとなっている。夕焼けのせいか仄かに頬も染まっている。その理由はとてもシンプルなのだが、瑠衣自身はそれに気付いていない。


「あぁ須美子ちゃん、そうだね……でも」

「なにか……不安があるんですか?」

「いや……僕だけがこうやってラフトボールをやってていいものかと思っていてね。サークルはもう解散してしまったし、ライドル以外のラガーマシンも既に買い取り手続きが済んでるんだ。

 それなのに僕だけが楽しんでいいものなのかと……ね」


「い、いいと思い……ます。だって、皆賛成してたし……私も、瑠衣君の……カッコイイところ、みたい」

「ありがとう須美子ちゃん、でもね……それでもやっぱり、心が痛むんだ」


 瑠衣はボーと視線を虚空へと向ける。その方向には星林大学のラフトボールフィールドがあった。しばらくしたら整地されて他のスポーツサークルが使用する事になるだろう、ラフトボールサークルは星林大学から消えたのだから。

 彼の心にはそれを憂いて寂寞の思いが渦巻いている。


「それは、相手にとって失礼ではないかな、白浜瑠衣」

「会長」


 いつの間に近づいたのだろうか、気付けばすぐ側にラフトボールサークルの元会長である大江直樹が立っていた。

 彼は腕を組んで瑠衣をじっと見据えて、ただでさえ厳つい顔が寄せられて更に険しいモノとなっている。


「何度も言っているが、俺達は解散する事に不満はない、これから就職活動で忙しくなるからサークル活動はできないだろう。おそらく就職してからもラフトボールをやる暇はなくなる。

 それに人数も足りていないし、もう何年も大会で結果を残せていない。ただでさえ整備やらでお金が掛かるのだから学校側も解散を訴えてくるのは当然だろう」

「それはわかっています。でも」


「難しいと思うが、切り替えてくれ。だがこれだけは言わせて貰うが、俺達卒業生は満足してるんだ。結果はどうあれ4年間好きな事に打ち込めたし、不完全燃焼ではあるが最後に試合もできた。更にうちのサークルのエースが一騎打ちをするところを見られるんだ。これ以上何を望む?」


「会長」

「それにだ。瑠衣と猪狩、俺達はもうラフトボールはできないが。お前達まで付き合う必要はないんだぞ、どこかのチームに入って続けてもいいんだ。

今すぐ答えを出せとは言わないから、ゆっくり考えてくれ」

「はい」

「私も……じっくり考えてみます」


 そして日は沈み、夕闇の時間が終わって夜の帳がおりた。その日は晴れており、とてもよく星が見えるとネットニュースで話題になっていた。

 ただ、それを見るには、瑠衣も須美子も心の余裕が足りていなかった。






 そして迎えた8月11日、美浜市郊外のラフトボールフィールド脇にあるプレハブ小屋の一室では、一騎打ちを控えている上原宇佐美が爆睡していた。


「宇佐美の……寝顔……ふふ」


 パシャリ、と心愛の手にある端末が音を鳴らした。

 今現在この部屋にいるのは座椅子を傾けて眠る宇佐美と、その寝顔を見つめて盗撮した水篠心愛の2人だけである。


「ほんとよく寝てるなぁ、昨日は眠れなかったのかな」


 心愛は知る由もないが、宇佐美は日付けが変わってしばらくの間、ずっとライドル対策を練っていたのだ。クソ映画をみながら。

 そのため何とか対抗策を練ることはできたのだが、クソ映画に見入ってやや寝不足となったため今こうして眠っているというわけだ。


「い、今なら2人きりだから……誰もいないよね、ゴクンッ」


 周りを見渡しても誰もおらず。誰かが近づいてくる気配もない。正真正銘2人っきり、しかも宇佐美は眠っている。


「き、キスとか……しちゃったり、なーんて……えへへ」


 笑って誤魔化しながらも、心愛の顔は宇佐美の顔へと接近していく、呼吸がダイレクトに感じられる距離にまで近づくと自分の心臓が早鐘を打つのを感じて苦しくなる。顔も何だか熱い。

 唇と唇が触れ合うその時。


「あの、近いんだけど」


 宇佐美が目を覚ました。照れからか仄かに頬の色が朱に染まっている。


「うわあああああああ」


 慌てて飛び退く心愛であるが、勢いがつきすぎて壁に頭をぶつけてしまい一瞬意識を持っていかれてしまった。

 痛みに呻いてから両手を前に出して何かをかき消すかのようなジェスチャーを繰り返す。


「ち、ちちちち違うからね! べ、別に変な事しようとか思ってないから!」


 どうやら自分の羞恥をかき消したいようだが、無駄なことである。


「変なことって?」


 サラッと宇佐美が尋ねる。それにより治まりつつあった心愛の羞恥は更に加熱されることとなり、ただでさえ赤くなっていた頬の色が顔全体に広がり茹でダコのようになってしまった。


「……き、聞かないで」


 かろうじてそれだけ口にすると俯いて黙ってしまった。


「……ふむ、まっいいや。そろそろ準備しなきゃ」

「あっそういえば、祭が重大発表があるから格納庫に来るようにって言ってたよ」

「そうなの? なんだろ」

「チーム名が決まったんだってさ」

「ふーん…………えっ? 今更?」

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