後半戦開始時のボールキープはバジリスク側から始まる。そしてここからついにエース機のイガグリ弦太郎が投入され始めた。
イガグリ弦太郎の見た目はまさにThe NINJAといったところ。
バジリスク側のパーソナルカラーは緑だが、このイガグリ弦太郎は特に渋めの緑を基本色に据えていた。パイロットの鈴木太郎はどちらかというと傾奇者な事を好んでいる節があるが、機体の方は地味なカラーリングの忍者スタイルなデザインだった。
脛が細く見えるが、これは膝関節を強化してあるため腿が太めになっているだけである。結果としてここもまた忍者ぽさを醸し出している。
胸の所には着物の合わせ目を意識してかのような模様がはいり、頭部の装飾は額の鉢金だけであり、目元しか見えないシンプルなものだ。
『さ、流石は我が宿敵! ここまでの仕上がりとは!! 忍者というコンセプトを見事に表現している!』
このイガグリ弦太郎を見て感動している者が一人、そう桧山涼一である。
思えばこの二人は出会った瞬間から意気投合していた。
「風の勇者ソルカイザー、こうして近くでみると見事な仕上がりでござる。風の勇者に恥じぬ堂々とした佇まいに圧倒されるでござる。流石は我が宿敵」
バジリスク側にもまた、ソルカイザーを見て感動している者が一人いた。鈴木太郎である。
『イガグリ弦太郎がどんなスペックなのかはわからないわ、各自レーダーでイガグリ弦太郎を確認しながらプレイしてちょうだい』
ひとまず様子見の方向。それ以外は変わらず積極的に攻める姿勢でいく。
そしてスターターが鳴らされ後半戦が始まった。
ボールキープはバジリスク、おそらく変わらずパス回しで守りに入ると思われる……とにらんでいたのだが。
『攻めてきた!!』
最初は確かに後ろへボールを回したが、直後にフロントが一斉に前にでてインビクタスアムトのフロントを封じ始めたのだ。不意をつかれたからか武尊のアリが少し横へズレてしまい、そこからバジリスクのランニングバックが攻めてきたのだ。
『エースがでた途端これかいな!』
『あっしが止めるっす!』
センターバックの炉々が対応するが、なんとランニングバックの手にはボールが無かった。
『もう一機後ろからくんで!』
武尊の忠告通り更に攻めてきたのはワイドレシーバーだった。それはつまり。
『ロングパスが来るわよ!!』
炉々のヘイクロウをランニングバックが抑え、その隣をワイドレシーバーが抜けていく。
だが、攻めてきているのは一人、対するこちらは六人もいる。このワイドレシーバーは前半戦である程度のスペックは測れている。抑えられない程では無いはずだ。さらに後続の気配は無いから確実に抑え込める。
『イガグリ弦太郎は……まだ動いていないわね、漣理君と宇佐美君で止めて』
「わかった」
『かしこまりぃぃぃぃ』
まずハミルトンが前に立ち塞がる、そして左側からタックルを仕掛けてあえて右側へ避けさせた。避けた先には漣理のTJが待っており、そのまま抑えつけられる。TJはハミルトンから外したジャケットを着けているので通常より重さがあるからそうそう簡単には抜け出せない筈だ。
『よしこれであとはロングパスを……来ない』
いつまで待ってもロングパスは来ない。それどころか後続もないのだ。祭はそこで考え込む。
ランニングバックが来た、それからワイドレシーバーがきた。ランで来るとみせかけてのロングパスは定番だが、ここに来て何故ロングパスをだしていないのか。
通常ならワイドレシーバーがハーフラインを超えた段階でロングパスをするものだが、どうやらパスをだしていないらしい。
これは時間稼ぎの一つか? と思うが、後半戦頭でやると警戒されてもう使えなくなるから考えにくい。それにここまで攻めの姿勢を見せておいて急に攻めないなどと、有り得るのだろうか。
「皆! 攻められてるよ!! 早く止めて!」
という宇佐美の声でハッとなるが、レーダーを見ても攻められてる様子は無い。当の宇佐美は反転して自陣のエンドラインへ向かっているところだ。
『ほ、ほんとに来てる!』
フルバックの心愛から狼狽える声が聞こえてくる。何度も確認したが、レーダーをみても敵の配置は変わっていない。
『まさか!』
ある事が頭をよぎり、祭はカメラをぐいっと回転させる。
『いた!』
エンドライン手前、今まさにタッチダウンを取ろうとしている機体がいた。敵のエースことイガグリ弦太郎だ。心愛のクリシナからネコチャンが飛んで妨害するが、それを読んでいたのか空いてる手でバシっと弾いて防いだ。
ハミルトンが懸命に走っているが間に合わない。
イガグリ弦太郎はクリシナを押しのけてそのままタッチダウンをとった。
『レーダーの反応は変わらず、なるほど……これが忍術の正体てわけね』
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