与えられた権能、『生命体の創造』を使って最初の仲間を創り出したナユタ。
最初の仲間は壊れた眼鏡を元に創造したが果たして……!?
「おいおい……マジで俺は神にでもなっちまったのか??」
バチバチと光り輝くエフェクトが収まり、そこからゆっくりと姿を現したのは――――眼鏡を掛けたインテリ風の美女メイドさんだった。
「ふぅ……これでやっと受肉できましたね。ごきげんよう、ナユタ様。……いったいどうされたのです? まるで間抜けな"ニュウドウカジカ"みたいな顔をなさってますよ?」
彼女が発している声は、先程よりスマホから流れていた意味不明なガイド音声と同じ声質だ。
だが実体化することで、この短い時間で作られたその声に対する最悪なイメージは一八○度変化した。
なぜなら目の前に現れたのは、クスクスと上品に口元を手で隠しながら笑っている美しいメイドさん。
先輩のドクターと一度だけ行ったメイド喫茶で見かけたような、キャルルンなメイドじゃない。どちらかといえば、夜のアダルティなお店でオプション料金を払って特殊なプレイをしてもらうアッチの方だ。
……まぁソッチの経験はナユタには無いのだが。
「ふふふ。あらあら、可愛らしいご主人様ですこと。安心してくださいね? これからは専属メイド且つ敏腕秘書である私が、しっかりとあなた様を支えますわ。……その代わり私のこと、ちゃんと可愛がってくださいね?」
――この最高過ぎるプレイってお幾らなんです!?
夢のような美女メイドに『可愛がって』なんて言われたらもう、「いいですとも!」と頷かない染色体XY生物がいる筈ないでしょうよ。
ダブルでショックを受けたナユタは、立ったまま再びフリーズしてしまう。
そんな情けない醜態を晒している男に、彼女は「仕方がありませんね」と微笑みながら近付いていく。
そしてキスをするように背伸びをして顔を寄せると、その小さく可愛いらしい唇を彼の耳元に運び、そっと囁いた。
「私はあなた様の所有物です。ご主人様のお好きなように致していただいてよろしくてよ?」
180cm近い身長のナユタに背伸びをしながらそう告げた彼女は、彼の首筋に親愛の接吻を一つ落としてから女性特有の甘い花の香りを残しつつ離れていった。
女性経験はある筈のナユタだが、こんな美女にいきなり初対面でここまで過剰なスキンシップを受けた事など初めてだ。
初心な少年のように顔を赤面させ、ドギマギしつつも彼女にどうにか言葉をかける。
「し、所有物って?? 俺の!? そ、それって……」
思わず「思春期の発情猿か!」と突っ込みたくなるような反応をしまうナユタ。
すぐに理性を取り戻し、これには流石に引いてしまったか? とナユタはビクビクと不安気に彼女に視線を向けたが……
「ぷっ……アハハハ!! ごめん、なさい! そこまで過剰に反応してくださるとは思ってなくて! ちょっと私も巫山戯過ぎましたわ。でもっ……ふふふふっ!!」
涙目になりながらお腹を抱えて笑うメイドさん。
クールビューティーな見た目の癖に、結構無邪気でユーモアのある性格もしているようだ。
メイド服から取り出したハンカチで目尻に溜まった涙を拭いている姿がどことなくセクシーにも見える。
――こんな美人が自分のモノって言われたらフツーいろんな妄想しちゃうよなぁ。なんとなくちょっとエッチだし。
若干膨れっ面になりながら彼女に文句を言うナユタ。
「そんな笑わなくたって良いだろ!? 医者だからって誰しもが女の子と遊びまくってるワケじゃないんだよ。ましてや俺は女顔だって揶揄われてたくらいだし…… 」
そうなのだ。実はこの男、平均身長より高く身体も割と筋肉質なのに顔が小さく女優にいそうな顔立ちをしているので、結構な頻度で女に間違えられる。
まぁナユタも女性からモテてはいたのだ。
しかし恋人とデートしていていると、必ず男にナンパされる。
最悪なのは彼女の方ではなくナユタに声をかける男性も少なくなく、彼女とのその後の雰囲気がかなり微妙となって破局することも。
ちなみに三年付き合った彼女の最後の言葉は「私、本物の女の子と付き合うことにしたから」だった。
これがトラウマとなり、ナユタは本気で整形のドクターに「男らしい顔にして欲しい」と相談したほどだ。
とまぁ、そういうことでこの男はその見た目の良さの割には女性慣れしていない。
それを何となく察したメイドは、若干の呆れを込めた溜め息を一つ吐いてから話を続ける。
「ナユタ様。あなた様はこの世界の頂点にあらせられるお方でございますよ? これぐらいの事で動揺してどうするのです。……まぁ今のままでも、それはそれでとても可愛らしくて私好みなので……ゴホン。話を戻しますが、私はあなた様の所有物なのです。まずは自分のモノにキチンとお名前をつけるべきでは?」
途中口籠もる部分もあったが、藪蛇になりそうなので気にしないことにした。
取り敢えず彼女が言った最後の部分には納得出来るので、ナユタは何か良いネーミングが無いか思案する。
「うーん、ガイドっぽい名前がいいよな。ナビ「その妖精みたいな名前はダメです」……だよなぁ」
他にもいろんな案内役の名前を想像してみるが、尽く却下された。
どうやら彼女の感性は人間とはかけ離れているらしい。せっかく案子とかチュートリアルのチューさんとか考えたのに。解せぬ。
途中から彼女が凄いジト目で見つめてくるので、ふっと彼女を見ていて思いついた名前を告げてみる。
「眼鏡からクリエイトしたことだし、『アイ』でどうだ? 頭脳はスマートフォンのアプリ由来っぽいし、学習能力もあるからAIみたいだろ? ちょうど良く無いか?」
そう言って恐る恐る顔を窺うと、彼女は「アイ……アイですか。まぁご主人様の最低なセンスにしては及第点ですかね。転じて愛、もありそうですし。ご主人様から愛を一番最初にいただけるという点でも……」などとゴニョゴニョ言っていた。
――うん、そこまでは考えてはいなかったけど本人?が駄目じゃなきゃもうなんでもいいかな。
納得してくれそうだったので、アイに決定することにしよう。
「それじゃあ今から君の名前は『アイ』だ。これからよろしくな、アイ」
ナユタのその言葉に対し、目をパチクリとさせた『アイ』は何度もその名を口の中で呟いた後、コクンと肯いてこう答えた。
「はい! こちらこそよろしくお願い致しますわ、ナユタ様。これからはあなた様の『双眸』となって、精一杯ご主人様に尽くしますッ!」
花が咲くような満面の笑みをナユタに返すアイ。
彼女のその笑顔さえあれば、多少の苦難も何とかなるような気さえしてくる。
まだ生まれたてで何も無い寂しい世界だけど、こうして頼りなりそうな最高に可愛いパートナーが誕生した。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!