独立戦争以前に建てられたという名門女学校「聖ブリンクリー学園」は、基本教科の「本科棟」と専門教科の「別棟」、学生寮がある「寮棟」の三棟からなっている。各棟は四階建てで、本科棟と別棟、別棟と寮棟は一階と三階にある長い廊下で繋がっていた。寮棟では学年別に階が違い、クララたちは三階を使用している。
音楽室も別棟の同じ三階にあり、ピアノ好きのクララにとって廊下を行き来するだけですむのは願ったり叶ったりだった。しかし、自分のクラスが本科棟の一階なので、朝寝坊をすると、詰む。
共用スペースとして、寮棟の一階には談話室や食堂、浴場にトイレ、寮母さんがいる管理室がある。
クララとレベッカは階段を降りて談話室に向かった。
談話室ではテーブルの周りで同じクラスの友達が数人、楽しそうにおしゃべりをしていた。そして、クララはその輪に混じるように話しかける。
「ねぇねぇ、みんな聞いて! さっき、お化けがでたの‼︎ しかも追いかけられたんだけど‼︎」
「あら、クララさん。ごきげんよう。お化け? なにを訳のわからないことおっしゃってるのかしら」
輪の中心にいた人物、クラス委員のアシュリーが嘲るように言った。
「本当に見たんだって! ピンクのドレス着たガイコツ‼︎」
テーブルに手をつきながら捲したて言うが、周りのクラスメートはお互いに顔を見合わせてくすくすと笑っている。
「いいこと、クララさん。このご時世、名門聖ブリンクリー学園にお化けなんて出るものですか。出たとしても、お化けじゃなくて、おバカの間違いでは?」
アシュリーがそう言うと、クラスメート達は声を出して笑った。
「オバカじゃなくてオ・バ・ケ! 私だけじゃなくてレベッカも一緒に見たんだもん!」
後ろを振り向き、レベッカの方を見る。しかし、彼女は俯いていてクララの言葉に返答しようとしなかった。
「ねぇ、レベッカ! あなたも見たって言ってよ!」
ついつい声が大きくなる。
レベッカはビクッと肩を揺らし、おずおずとクララを見ていた。
「わ、私は…… 」
一瞬、唇をきゅっと結ぶと、レベッカは言葉を続けた。
「私は、なにも見てない」
「ほら! ……って、えっ?」
呆気にとられ、口を開けたままレベッカを見つめる。
——この子はなにを言って……
「クララさん。彼女はなにも見ていないっておっしゃってますわ。それともあなたは幻覚でも見えてたのかしら?」
その言葉に同調する様にクラスメート達はまた笑っていた。
「レベッカ…… 」
呆然と立ち尽くすクララ。
俯き、両の拳を握りしめ、わずかに震えているレベッカ。
——そうだった。レベッカは……
クララはレベッカの手を取ると、引っ張るようにして階段を駆け上がった。
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