『もー! なんで毎回邪魔するの!』
目的地は目と鼻の先。しかし、進みたいのに進めない。
黒猫は尻尾を立てて「フー!」とこちらを威嚇している。
いつもそうだった。
その子がいる場所に行こうとするたびに、この黒猫が邪魔をする。
『ただちょっとお願いしに来ただけなんだって! 別に取って食べようってわけじゃないんだから。ねっ、通してよ!』
言葉が通じればどんなに楽か。
黒猫は「ウー!」と更に警戒を強めた。
『もう、わかった、わかったって。今日は帰るから、そんなに怒らないでよ』
そう言ってジリジリと後退り、適度に距離が取れたところで踵を返した。
これで何度目だろうか。今回も残念ながら接触ならず。
――次こそは、絶対に直接会ってお願いするんだから!
悔しさのあまりか、拳に力を入れてそう強く決意する。
そして、夕暮れの日が差し込む廊下を歩きながら、自身の姿をキラキラと霧散させその場から離れた。
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