ピアノを弾いていたら出会った金髪の少女幽霊が、実はものすごく歳上だった件

メンフィスの少女クララ
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#10

公開日時: 2023年9月30日(土) 22:22
文字数:1,837

 目が覚めると、窓から差し込む光が静かに部屋を赤く染めていた。

 どうやら、家に着いてお風呂に入り着替えを済ませると、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。慣れない草むしりで疲れたからか、それとも朝早かったせいか、はたまた両方か。クララはむくりと状態を起こし、寝ぼけ眼を擦った。

――そういえば……

 着替えたまでは記憶にあるが、一体どうやってベッドに潜り込んだのだろう……

「うーん」とベッドの中で頭を抱えて唸っていると、コンコンと乾いた音が部屋の中に響いた。

 そして、かちゃりとドアノブが回され、すーっとゆっくり扉が開く。

「クララ、起きたかい?」

 隙間から覗き込むように父親がこちらを伺っていた。

「パパ、おはよう。ちょうど今起きたところ」

「そうか。ゆっくりでいいから着替えたら食堂に来なさい。お茶でも飲みながら話したいことがあるんだ」

「はーい」

 クララが元気に返事をすると、父親は笑顔を浮かべ、ゆっくりと扉を閉めた。再び部屋に静けさが戻る。

――さてと、着替えますか。

 寝巻きから部屋着に着替え、まだ眠っている体を覚醒させるために軽くストレッチをする。手を組みぐぐぐっと大きく上に伸びると、頭も少しクリアになった。

 そして、クララは父親の待つ階下の食堂に向かった。中に入ると、テーブルの上には色々なお菓子が並べられていた。もちろん、クララの大好きなクリームパフもある。歓喜の声を上げ、クリームパフをひょいっと手に取りパクっと齧る。シュー生地から溢れでた甘いクリームが口の中に広がって、美味しさのあまり声が漏れた。

「クララ、座ってからゆっくり食べなさい」

 目の前で紅茶を啜っていた父親に笑顔で怒られた。   

 クララは「はい」と小さく返事をすると、手に持ったクリームパフを一口で平らげてから自分の椅子に腰掛けた。席に着くと、メイドのエイダがクララの分のティーセットを準備し始めた。こぽこぽと注がれる紅茶の香りが、クララの鼻を優しく刺激する。

 クララは淹れられた紅茶を一口啜って、クリームで甘くなった口の中をリセットした。

「よく眠れたかい?」

 おもむろに父親が聞いてきた。

「うん。沢山寝れた」

 笑顔で返事をするも、昼前に家に帰ってきたのだ。本当はそれほど長くは寝ていない。

「それなら良かった」

 ニコニコと笑顔を返す父親。

「それで、クララに伝えなきゃならないことがあってね。実はさっきまで、家の前に町の人が押しかけてきて、警察を呼ぶ程の騒ぎになってしまったんだ」

「えっ? なんでそんなことになったの?」

「原因はコレだよ」

 父親はいつのまにかテーブルの上に置いてあったガラス瓶をポンと叩いた。

 封は開けられていなかったが、表面についていた汚れは綺麗に落とされていて、今朝見た時よりも中身がしっかりと確認できる。

「リジーの遺産がなんで?」

「皆、中身に興味があるのだそうだ」

 クララははてと小首を傾げた。なぜ町の人たちがこの存在を知っているのだろうか。遺産についての話は、メレディス校長を含め一部の人間しか知らなかったはずだ。掘り出すのを手伝ってもらった人たちにさえ言っていない。

――誰かが情報を漏らしたのか……

「それで、場を納めるために『六十日後の四月十五日、学園の大ホールで公開開封する。マスコミや学外の者はチャリティチケットを買ってもらう。売り上げの半分はクララの精神的な治療費に、残りは慈善団体に寄付するとメレディス校長が決めた』と伝えたら、やっと帰ってくれたよ」

「ん? 中身を見るのに入場料取るの?」

「もちろん。それに、一番大変な思いをしたのはクララなのだから、当然の権利だろうね」

「そうだけども…… 」

 ここまで町中に知られていたら皆の前で開封するのは仕方がない。ただ、それを見るのにお金をもらうのはさすがに気が引ける。

「えっと、じゃあ……私の分も全部寄付していい?」

 クララは少し言いづらそうに俯いた。

「それをクララが望むのなら」

「やった! ありがとう、パパ!」

 安心してついつい声が大きくなった。 

 結果的に孤児たちのためになるのであれば、イベントとして開催するのも悪くない。

「そういうことだから、その日は学校が終わったら一回こっちに帰ってきなさい。まぁ、それまでずっと家にいてくれてもパパは全然構わないのだけど―― 」

「ありがとう、パパ! 学校終わったらすぐに帰ってくるね!」

「あ、ああ…… 」

 なぜかがくりと項垂れる父親。

 クララはもぐもぐと目の前にあるお菓子の群れを少しずつ片付けながら、明日から始まる学校の準備をどうしようか考えていた。

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