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虚空世界の擬似戦争
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第二章 没頭

2-1

公開日時: 2021年1月21日(木) 18:02
文字数:2,203


 戦車へ初めて身を預けた時、戦闘機にも戦艦にもない頼もしさに酔いしれました。


 戦車兵学校を卒業できたのは、リアルタイムで約一ヶ月後の事です。通常、一週間ほどで卒業できるのですが、私はまた遠回り、いえある人間に騙されて寄り道をさせられていたのでした。


 基礎空挺訓練、水中爆破訓練、レンジャー訓練等々、ステータスがカンストする程のトレーニングと実戦訓練を積み、ようやく戦車学校に入学、一週間の講義と実車での訓練を経て卒業に至りました。


 そして今日が、待ちに待った(?)実戦です。森林に紛れる為、森林の緑と枯草の茶色が斑模様になった迷彩服と、スピーカーとマイク、ヘルメットが一つにまとまったヘッドセットを被って戦車に乗り込んでいました。


 南米の大西洋側に浮かぶ小島、フッド島に所属不明の敵勢勢力が上陸、奄美大島程の島で唯一の空軍基地、そして南米大陸側の地域をほとんど制圧されてしまいました。


 紛争開始から26時間後。島は微少のアークユニオン陸軍が残存して抵抗していますが、全滅も時間の問題です。ゲリラ活動に必要な物資も尽き掛けているとのことで、本格的な紛争への介入活動が議会で採択、決議されました。


「メイブ1よりタンクコマンド1へ。該当地域に接近」

「タンクコマンド了解。繰り返し、作戦目標の確認を行う。昨日未明、大西洋沖のフッド島において所属不明の武装勢力による上陸が確認された。現在、島の西部、制圧されている。よって我が軍は西海岸から揚陸艦による強襲攻撃を敢行する。メイブ中隊、海兵隊の強行偵察チームフォーススカウトは、LCACで西海岸へ上陸、空軍基地を奪還する橋頭保を確保することだ」

「メイブ1より中隊各員へ。作戦目標は以下の通り、エンジン始動。全車、データリンクへドローンによる事前偵察の情報を取得せよ。陸軍のお偉方と一部の基地にはライブ中継されてるんだ。派手にかますぞ!」

「メイブ3了解」「4、了解」

「め、メイブ2、了解しました」


 第一戦車大隊のメイブ中隊に配属された私は、緊張の面持ちを隠せないまま、揚陸艦の格納スペースへアークユニオン軍主力戦車『M1エイブラムス』と共に積載されていました。


「ふぅ……はぁ……」

「緊張しているのか、ラヴェンタ准尉?」

「え、えぇ。まぁ」


 無線のスイッチを入れたまま、深呼吸をしていました。お恥ずかしい。


 中隊長の伺いにはっきりしない返事で応じました。初の実戦ですもの、ゲーム内とは言え、命の駆引きを眼の前にすれば誰だって——震えます。


「エンジン始動、火器管制FCS、チェックお願いします」

「入念だな車長」

「一撃必殺を確実に実行するためには欠かせません。エンジン出力は?」

「順調」

「装填はサポッド弾」

「了解です」


 補助エンジンの電力で発動されたフィンがゆっくりと空気を燃焼器に取り込み始め、吹きかけられたジェット燃料と空気が燃焼を始める。それによってエンジンのフィンが一気に加速され、濁りのなき高い音階に競り上げます。


 その最中、各持ち場の搭乗員にそれぞれ指示を出しました。全員プレイヤーで呼応と同時に手早く仕事をこなしてくれます。


「ノア1よりメイブチーム。LCACが準備できた。ウェルドッグ注水後、出撃する」

「メイブ1了解。各員、聞いての通りだ。メイブ3と4の前には海兵隊員が随伴する。総員、生きて帰るぞ!」

『イエッサー!』


 一致する返答、私も腹の底で覚悟を決めます。


 LCACエルキャックと命名された揚陸用のホバークラフトが格納されているドックに海水の注水が始まりました。警報ブザーと共にシャッターが上に開いていくと、薄明かりだけだったドックに光が差します。


「ノア1よりコントロール。ウェルドックの注水確認、出撃する」


 ホバークラフトは水面を滑り、開いた背後のシャッターにバックを始め、空母のような姿をした強襲揚陸艦から出立しました。


「ノア1よりノア3、5、6へ。敵の攻撃が予想される、戦車単騎のホバーの前へ先行。ヴァイパーとハリアーを火力で支援」


 海岸へ船首を切り返した六艇のホバークラフトは縦二列で巡航を開始します。


 揚陸能力には定評のあるLCACでも、主力戦車を一両載せるのが限界。60トン以上あるそれを載せて海上をアイスリンクの如く滑るのは大したものです。


 三艇が戦車のみを積むメイブ中隊専用便、他の三両にはメイブ中隊の残り一両と海兵隊員数名、別動の機関砲を搭載した歩兵先頭車『LAV―25』が4両にハンヴィー2両が収まっています。


 私の戦車はノア2に添乗していました。


「海岸まで6000」

「味方の航空機が制空権確保とミサイル陣地を潰したとは聞いていましたが、予想以上に静かです」


 オペレーターの無線に戦車長席に座る私は小言を添えました。


 そこには部隊間の情報を一括で管理、共有するデータリンクへアクセスするタッチパネル、主砲の緊急発射を行う赤いレバー、防弾ガラスと鋼鉄で作られた六角形のハッチが用意されています。


 味方航空機のアイコンが雑な青と砂地の淡色に塗り分けられた地点へ接近していきます。事前偵察の情報だとこの付近に敵はいないはずですが、警戒に越したことはありません。


 しかし、その情報を当てにした先入観が直後に崩れ去りました。前を進むホバーのパイロットが叫びます。


「ミサイルの閃光を確認! 回避行動に移る!」


 戦闘が始まります。私は忍び寄ってくる気配と試合開始の瞬間に気づくことなく、そしてしばらく受け入れることもできませんでした。


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