トイレのはなこさん達

~学校最恐の怪談少女にツッコミを入れるのは霊感最強の平凡少女だった~
ほうふ しなこ
ほうふ しなこ

二話 怪談好き少年との出会い

公開日時: 2021年8月29日(日) 11:04
文字数:844

 昨日までの晴天が嘘のようだった。

 濃い灰色の雲が、空の隅々まで支配し、今にも雨を降らしそうだ。

 すれ違う人々は皆傘を持ち、どこか浮かない顔で時折空を見上げていた。

 誰もが雲の切れ目を望んでいるようだった。

 まだ梅雨の最中。天気が変わるのは仕方がない。

 そう思っていても、華子は昨日花子が言っていた言葉が気になっていた。


「呪われた、彫刻か……」

 ふと、言葉が出てしまった。

「えっ? のろわれたちょうこく?」

「へ?」


 自分とは違う声でその言葉を聞き、華子は驚いた。

 視線を下に向ければ、そこにはランドセルを背負った男の子が立っていた。彼が手に持つ黄色い傘が、少し大きく見える。小学三年生くらいだろうか。嬉々とした目で、華子を見ていた。


「お姉ちゃん、今、呪われた彫刻って言った?」

「えっ……あ、うん、そんなこと言ったような……」


 急に話しかけられることに慣れていない華子は、戸惑った。幽霊やお化けを見ることの方が、彼女にとって日常的と言っても過言ではない。一瞬、男の子もそうなのかと思ったが、彼はちゃんと生きている人だった。

 答えに困惑していると、男の子はまた口を開く。


「ぼくの学校にね、来たんだよ!」

「え……あ、な、何が?」


 嫌な汗が、華子の背筋を伝っていった。

 それ以上、言わないでほしい。

 華子の願いが叶うことは、いつもない。


「呪われた彫刻だよ! ぼくの小学校に来たんだ!」


 行き交う人々が、僅かに奇妙なものを見る目で、二人を見ていく。


「あっ、ちょっと、君、あんま大きな声でそんなこと……」

「だって、すごいじゃん! 呪われた彫刻だよ!」


 男の子は、また嬉しそうに言った。

 華子の表情は、曇る。

 これは、どうやら完全に囚われてしまったようだ。

 雨が降り出した。予報では昼過ぎからだったはずなのに、それはどんどん激しくなっていく。周りに傘の花が咲く。

 華子も傘を差す。男の子が黄色い傘を差す。

 まだ梅雨だ。雨が降るのは仕方がない。しかし、この雨はなんとなく違う気がした。

 傘越しに見る空は、見たこともないような黒い雲に覆われていたのだった。

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