宿の女将さんから、ここで待っていてくださいと言われている。敷きたての畳の香りが心地よい、こじんまりとした部屋だった。
目の前の丸テーブルの上には、緑茶と饅頭が一つ置かれている。食べてもいいのかどうか女将さんは言っていなかったのだが、私のために出されたものなのだろうと思って、饅頭を手に取った。
途端に、ピシャリと手を何かに叩かれて、私は饅頭を取り落としてしまった。饅頭はコロコロと畳の上を転がっていたのだが、急にスッと消えてしまった。直後に、消えた辺りからムシャムシャと何かを食べる音が聞こえて来た。音ばかりで姿は全く見えなかった。
じきに宿の女将さんがやって来て、広々とした部屋に通してくれた。ごゆっくりと言って去ろうとする女将さんにさっきの饅頭の話をした。途端に、女将さんの顔色が変わって、それはいけない、絶対にいけないと言いながら、部屋から出て行ってしまった。
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