全てを語り終えた私は、大きく息をついてうつむいた。
自分自身ですら認めたくない、最も汚い部分をさらけだした。
もっと落ち込むものかと思っていたけど、不思議と心は落ち着いていて、奇妙な達成感すらあった。
「私はもう嫌なんです。女性でありながら、女性を好きになってしまう自分が。人に無理やり、キスしてしまうような自分が。こんな気持ち悪い自分が、どうしようもなく嫌いなんです」
「……それが、あなたが自殺を選ぶ理由なのですね」
私はしばらく黙り、そしてうなずいた。
「はい。そうです。いじめられたからじゃありません。私は、私の最も汚い部分を、最も見られたくない人に見られてしまった。そんな現実が嫌で、死を選ぼうと思ったんです」
恥ずかしくて堪らなくて。家で布団を被っていても、誰かの笑い声が聞こえてくるようで。
私にはもはや、人の目を気にしないでいられる場所なんて、どこにもなかった。
私が安心できる居場所なんて、この世界のどこにもないのだ。
「初めに言いましたが、この世には天国も地獄もありません。死は平等です。自殺したあなたが向かうところが、あなたの居場所になることはありません」
「……それでも……私は死にたいです。だって……」
「気持ち悪いと思っているのは、あなた自身だから、ですか?」
私は顔を上げ、死神さんを見つめた。
彼女は目をそらさずに、ずっと温かな目を向けてくれている。
「私は人間ではありません。ですから、あなた方の行動や気持ちを、理屈では理解できても、感覚では理解できません。女性同士で恋愛感情を持つことが、一般的でないことは知っています。もしかしたら、あなたのご友人の感じたことは、人間の世界では当たり前の感情なのかもしれません」
死神さんはそう言うと、一呼吸置いて、再び口を開いた。
「ですが、それが世界の真実ではないことは、人間ではない私にはよく分かります」
「どうして分かるんですか?」
「だってどうでもいいじゃありませんか、そんなこと」
私は目をぱちくりさせた。
死神さんの発言には、いつも驚かされる。
自ら死を選ぼうとするほどの大きな原因を、どうでもいいと言ったのだ。人間の世界で、そのようなことを言える人なんていないだろう。
「女性を好きになろうが、他人にキスしてしまおうが、それで世界が大きく変わることはありません。世界はそんなものじゃ変わらないし、自然はそんなあなたでも、他人と同じように受け入れてくれます。言ったでしょう? 死は平等なのです。そして死は、必ず人の前に訪れる、最後のやすらぎなのです」
やすらぎ。そう語る死神さんの言葉は、まるで調べのように、私の中に響いていた。
「若くして死ぬことは、悪いことではありません。問題は、あなたがどのような形でやすらぎを享受したいのか、です。苦しみを終わらせるため、というのも良いものでしょう。自分の人生に満足して目を閉じるのも、良いものです。そこに、後悔さえないのであれば。そして、後悔しない決断を下せることができるのは、あなた自身だけなのです」
死神さんは紙に羽根柄を押しつけた。
カリカリとしばらく音をたて、羽根を置くと、その紙を私に見せてくれた。
「あなたの死は、現時点を以て受理されました」
その言葉と同時に、紙は蒼い炎に包まれて、一瞬で姿を消す。
死神さんはゆっくりと立ち上がり、棚に置いてあった小瓶を私に手渡した。
それは、先ほど見せてくれた、身体を綺麗に保ちながら死を招く毒薬だった。
「ご所望のものですよ」
そう言って差し出されたその毒薬に、私は少しだけ躊躇した。
本当に死ぬの?
ここに来て尚、私の中の私が、改めて自分に問いかけてくる。
何も思い残したことはない? 死んでも後悔なんてしない? 本当は、この世界に望んでいることがあるんじゃないの?
躊躇すれば躊躇するほど、その声はどんどん大きくなり、心臓が大きく脈打ち始める。
辛くて、苦しくて、私は、その声を振り払いたいがために、小瓶を手に取った。
半透明のピンク色の液体が、ビンの中で揺れている。
これを飲んで、私は死ぬのだ。そう思うと、急にぞわぞわと背筋が寒くなり、ただの小瓶が、とても重く感じた。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!