死神さんの自殺用品店

死神さんは、自殺者により良い死を提供する
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第十三話

公開日時: 2021年2月11日(木) 20:14
文字数:1,684


全てを語り終えた私は、大きく息をついてうつむいた。

自分自身ですら認めたくない、最も汚い部分をさらけだした。

もっと落ち込むものかと思っていたけど、不思議と心は落ち着いていて、奇妙な達成感すらあった。


「私はもう嫌なんです。女性でありながら、女性を好きになってしまう自分が。人に無理やり、キスしてしまうような自分が。こんな気持ち悪い自分が、どうしようもなく嫌いなんです」

「……それが、あなたが自殺を選ぶ理由なのですね」


私はしばらく黙り、そしてうなずいた。


「はい。そうです。いじめられたからじゃありません。私は、私の最も汚い部分を、最も見られたくない人に見られてしまった。そんな現実が嫌で、死を選ぼうと思ったんです」


恥ずかしくて堪らなくて。家で布団を被っていても、誰かの笑い声が聞こえてくるようで。

私にはもはや、人の目を気にしないでいられる場所なんて、どこにもなかった。

私が安心できる居場所なんて、この世界のどこにもないのだ。


「初めに言いましたが、この世には天国も地獄もありません。死は平等です。自殺したあなたが向かうところが、あなたの居場所になることはありません」

「……それでも……私は死にたいです。だって……」

「気持ち悪いと思っているのは、あなた自身だから、ですか?」


私は顔を上げ、死神さんを見つめた。

彼女は目をそらさずに、ずっと温かな目を向けてくれている。


「私は人間ではありません。ですから、あなた方の行動や気持ちを、理屈では理解できても、感覚では理解できません。女性同士で恋愛感情を持つことが、一般的でないことは知っています。もしかしたら、あなたのご友人の感じたことは、人間の世界では当たり前の感情なのかもしれません」


死神さんはそう言うと、一呼吸置いて、再び口を開いた。


「ですが、それが世界の真実ではないことは、人間ではない私にはよく分かります」

「どうして分かるんですか?」

「だってどうでもいいじゃありませんか、そんなこと」


私は目をぱちくりさせた。

死神さんの発言には、いつも驚かされる。

自ら死を選ぼうとするほどの大きな原因を、どうでもいいと言ったのだ。人間の世界で、そのようなことを言える人なんていないだろう。


「女性を好きになろうが、他人にキスしてしまおうが、それで世界が大きく変わることはありません。世界はそんなものじゃ変わらないし、自然はそんなあなたでも、他人と同じように受け入れてくれます。言ったでしょう? 死は平等なのです。そして死は、必ず人の前に訪れる、最後のやすらぎなのです」


やすらぎ。そう語る死神さんの言葉は、まるで調べのように、私の中に響いていた。


「若くして死ぬことは、悪いことではありません。問題は、あなたがどのような形でやすらぎを享受したいのか、です。苦しみを終わらせるため、というのも良いものでしょう。自分の人生に満足して目を閉じるのも、良いものです。そこに、後悔さえないのであれば。そして、後悔しない決断を下せることができるのは、あなた自身だけなのです」


死神さんは紙に羽根柄を押しつけた。

カリカリとしばらく音をたて、羽根を置くと、その紙を私に見せてくれた。


「あなたの死は、現時点を以て受理されました」


その言葉と同時に、紙は蒼い炎に包まれて、一瞬で姿を消す。

死神さんはゆっくりと立ち上がり、棚に置いてあった小瓶を私に手渡した。

それは、先ほど見せてくれた、身体を綺麗に保ちながら死を招く毒薬だった。


「ご所望のものですよ」


そう言って差し出されたその毒薬に、私は少しだけ躊躇した。

本当に死ぬの?

ここに来て尚、私の中の私が、改めて自分に問いかけてくる。

何も思い残したことはない? 死んでも後悔なんてしない? 本当は、この世界に望んでいることがあるんじゃないの?

躊躇すれば躊躇するほど、その声はどんどん大きくなり、心臓が大きく脈打ち始める。


辛くて、苦しくて、私は、その声を振り払いたいがために、小瓶を手に取った。

半透明のピンク色の液体が、ビンの中で揺れている。

これを飲んで、私は死ぬのだ。そう思うと、急にぞわぞわと背筋が寒くなり、ただの小瓶が、とても重く感じた。


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