◾隆臣
「一発ぶちかすのがやっとってとこか。やつらに近づくのは危険すぎる」
俺とエースは木の上で尚子とハートが小屋の方に歩いて行くのを見ていた。
さきほど謎の爆発でやられたのも、ハートの火炎弾をくらったのも、囲まれた炎から脱出した瞬間に作った分身で、俺とエースは木の上で様子をうかがっていたのだ。
「俺たちも移動しよう」
そう言って俺は木の上から飛び降り、エースは浮遊能力でゆっくりと地面に降り立つ。
そして尚子とハートの後を追いかけた。
「さて、これからどうやってあいつらを倒す」
「向こうにも2体の分身を配置しているから、挟み撃ちにしよう」
「それでいこう。じゃあこっちにも何体か分身を頼む」
「了解」
エースがそう返事をすると、俺の身体から光の粒子が現れて、それが集まりもう数体の俺の分身が現れた。
分身は俺の体内由来の魔力粒子を元にして作られるので、数には限界があるが、エースはその分身の身体能力を強化することもできるし、複数の分身を遠隔から操作することもできる。
◾尚子
「来たか……あれは分身か?」
「あたしも準備おっけーだよ」
私は小屋の2階の窓から、分身が歩いてこちらに近づいてくるのを見ていた。
ハートはそう言ってからこっちに歩いてきて、私と一緒に窓の向こうに目線をやる。
ちなみにハートには階段のところに火薬を敷いてもらった。
やつらがそこ入ってきたら、爆発させて行動不能にするためにだ。
「いいか? 確実に仕留めるためにギリギリまで引きつけるんだ。最低でもエースのは無力化しろ」
「わかってるってば!」
「ならいい」
すると、
――バリン!
何かを投擲され、窓ガラスを割られてしまった。その破片がハートの頬を切る。
「いたっ! 石ころ投げてきたぁ! うわ血がぁ……」
ハートは目をうるうるさせて頬から垂れる血を手で拭う。
「大丈夫か?」
私はハンカチを取り出して、ハートの頬の血を拭いてあげる。
「あたしは大丈夫だよ。でも尚子のその手……」
「ああ、これくらい心配いらない」
ハートの目にガラス片が入らないように咄嗟に手を伸ばしたため、ガラス片が突き刺さってしまったのだ。私はそれを抜き取り、小さくほほえんでやった。
ハートは申しわけなさそうに小さく頷く。
――ガタンッ!
物音がした。
「来たか。構えろ」
「うん!」
ハートは決意のこもった返事をしてくれる。
ゆっくりと部屋の扉が開かれる。
私たちは唾を飲み込んだ。しかしそこに人の影はない。
「誰も……いない?」
ハートは首を傾げた。
「ああ、猫だ」
真っ黒い毛に覆われたただの子猫だった。
「チッ……脅かしやがって」
黒猫はてくてく私の方に近づいてくる。
「近づくんじゃねぇ! 邪魔くせーんだよ!」
もちろん猫に人の言葉は通じない。黒猫は私の足に顔をすりすりとこすりつけてきた。
「ちくしょう。ハート、こいつをどうにかしてくれ」
「うーん……あっ!」
ハートはしばらく考えた後、髪の毛を結んでいたボンボンを外して、それをポイッと投げた。
それで猫の注意を引こうという考えである。
しかしながら黒猫はそれに対して一片の興味も示さなかった。
私たちが猫に気を取られていたそのとき、2階の入口のところに2体の分身が入りかかっていた。
「まずい! 撃てッ!」
ハートが火炎弾を放つのを躊躇ったその一瞬を、分身の1体がハートに肉薄し、拳で頬を殴った。
ハートは後方へぶっ倒れ、そのまま尻もちを着く。
ハートの気が乱れ、火炎弾が消えてしまった。
もう1人の分身もすぐさまリーチへ入って、私の腕を掴んで床に押さえつけてきた。
「くそっ! 放しやがれ!」
暴れ回るが拘束からは逃れられない。
「ちくしょ〜」
ハートは目をうるうるさせて叫んだ。
「観念しろ。お前らの負けだ」
「ぐぬぬぅ〜! まだ負けてないっ! あたしたちが負けるはずぅ〜いたたたた!」
分身はハートの肘を背中の方にぐぐぐと上げた。
「ううぅ……!」
「チッ!」
大きく舌打ちをして私は力を抜き、
「……私の負けだ。離せよ変態」
と。
「変態じゃねーよ! それに、まだお前らを信じられないからな。しばらくはこのままにさせてもらうぜ」
「クソ野郎が。ハート、戻ってこい」
「……うん」
ハートは白い光の粒子になり、私の体内へと消えていく。
「これでいいだろう?」
するとちょうど、やつの本体とエースが小屋の2階にやってきた。
「話を聞かせてくれれば解放してやる」
「そんなに私の身体が触りたいのか? この変態!」
「分身と感覚は共有されていない。俺の知ったこっちゃない」
「死ね」
「お前、普段からそんな口悪いのか? 生徒会長なのに?」
「貴様にだけだ。私は普段は優等生だからな」
「それ自分で言う?」
「どうだっていいだろ!」
私はあからさまにうざったそうに言い、燃える林に目を向けた。
「色々聞かせろ」
すると、
「こちら消防です! 誰かいますか?」
足音とともに消防士の声が聞こえてきた。
「話はまた後からだ。見つかったら面倒なことになるからな。見つからないように移動しよう」
「どうやって?」
「簡単だ」
そう言って野郎は私をお姫様だっこし、割れた大窓から飛び降りる。
「き、貴様ッ! 何をッ!」
「こうすれば手っ取り早いだろ?」
さらには平然と着地してみせた。
「まったく……クレイジー過ぎるぜ、お前たち」
私はそうつぶやいていた。
To be continued!⇒
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