◾隆臣
外周を見て回っていた俺とエースは中央の方に戻った。
「ここが異常な空間ってこと以外、特に何もわからなかったよ。そっちはどうだった?」
エースはほっぺに指を当てながら凛とジョーカーに尋ねた。かわいい仕草だなぁまったく。
「えっと、この十字架の裏に文字が彫られているのを発見しました」
凛のその言葉で、俺たち4人は十字架の裏に回り込んで、彫られた文字を見た。
「なんて書かれてんだ? これもドイツ語か?」
「読めないんですか?」
凛は小首を傾げた。それにともない白銀のツインテールもゆったり揺れる。
「読めるわけないよね。俺生粋の日本人だもん。英語すらままならない日本人だもん」
「おかしいわね」
ジョーカーは空中で足を組み、あごに手を当てて言った。
「逆に2人は読めるのか?」
「わたしもドイツ語は読めません。でもわかります」
「は?」
意味がわからん。何を言ってるんだ凛は。
「そのままの意味です。文字は読めないけど、意味はわかるんです」
「凛、頭でも打ったのか?」
「打ってませんっ! むぅ〜」
凛はほっぺたをぷくーっとフグみたいに膨らませた。本気で心配したのに、怒られちゃった。
「とにかく読み上げますね。ここには『扉を開こうとするとき、すでに扉は開かれている』と書かれています」
「どういう意味だ? それ」
俺とエースは頭上にクエスチョンマークを浮かべる。
「残念ながらわたしたちもそこまではわかりません。でも墓石の裏にこんなことを刻むなんて罰当たり、イタズラではやらないでしょう。きっと何か意味があるのかもしれません」
「ふーん」
俺は凛の話を聞きながらおもむろに墓石に触れようとした。しかしその瞬間、
「ッ!?」
体が突然後方に吹っ飛んで、壁に叩きつけられた。
「隆臣!?」
『っ!?』
3人は驚きで声を上げた。
「急に吹っ飛ばされた!? 大丈夫!?」
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ……大丈夫だ」
エースと凛が俺の体を支えながら声をかけてくれた。こんなちびっ子2人に支えられるなんて、情けないぜ。
背中を強く打ち付けただけで、特に外傷はなさそうだ。
「それならよかったわ。けど、一体何が起こったの? わたしや凛が触れたときには何も起こらなかったのに」
ジョーカーは浮遊しながら、考える人の体勢でさらに深く考え始めた。
「私はどうなんだろ」
と言ってエースが墓石に触れようとした瞬間、エースがこちらに吹き飛んで来た。俺と同じでエースも墓石に触れられないんだ。
俺は飛んできたエースを体で受け止めた。それによりエースは壁に激突せずに済んだ。
エースが軽かったので、二度壁に背中を打ちつけられた俺も、無事だった。
「怖かったよぉ〜っ!」
仰向けに倒れる俺にぴったり密着するように、エースは涙目で俺の胸に抱きついてきた。
俺は上半身を起こして、エースの頭をやさしくなでなでしてあげる。
エースはぎゅーっと俺を抱きしめて離さない。まるでコアラの赤ちゃんのように。でもなでなでを続けていると、次第に抱きしめる強さが弱くなっていった。
「大丈夫だエース。俺が守るから」
「うんっ……ごめんね隆臣」
エースは腕で涙を拭いながら立ち上がった。よかった。元の調子戻った。
「にしても奇妙だな。ジョーカーと凛は大丈夫だったのに、どうして俺たちは吹っ飛ばされたんだ?」
と、俺。本当に謎が深すぎる。
「エース、あなたの目で見てくれないかしら? そしたら何かわかるかもしれないわ」
ジョーカーはエースにそう提案した。
「わかった。やってみるね」
エースが笑顔で頷くと、その夜空色の瞳が美しい空色に輝いた。
ガイスト能力や魔術とは別にもう1つ特殊な力がある。それは五感が進化した上級感覚というものである。第六感は直感、第七感は憑依、第八感は同化、第九感は超感覚(超能力)となっており、エースのものは第九感に属している。
「っ!? こ、これは……っ!」
「どうしたエース」
俺の問いかけにエースは額に汗を浮かべながら、
「あの十字架の周りだけおかしいんだよ! 魔力粒子の密度と量が尋常じゃない。それなのに魔力流が発生しているわけでもない。これは一体……」
魔力粒子とは、魔術を行使したりガイストが能力を発動するときに必要なもので、空気中の分子のように小さくて肉眼では見えないものだ。
魔力粒子は普通、魔力濃度の濃いところから薄いところへ粒子が移動して魔力流を生み出す。
あの墓石の周りは魔力濃度が高いはずなのに、この空間には魔力流が一切発生していない。奇妙すぎる。
「やっぱりとんでもない魔術が起動していたのね。戻ってこのことを和也に報告しましょ。そして明日、和也ともう一度ここに来て、詳しい調査をするべきだわ」
ジョーカーの提案に全員が賛成し、今日の調査はこれにて終了した。
To be continued!⇒
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