◾隆臣
尚子とハートについていって、高等部の裏庭に出た。
すると尚子は、
「私たちがしたことの理由を知りたがっていたな? それなら無理やり聞き出せばいいじゃないか」
と、不敵な笑みを浮かべて言った。
「どうやら暴力で解決しないといけないみたいだな」
立ち止まった俺とエースから距離を取るように、尚子とハートは歩き続け、
「かかってこい。死ぬ勇気があるならな!」
尚子のその言葉にエースは狼狽えてしまった。
「大丈夫だエース。落ち着いてやればきっと勝てる」
俺はエースの小さな手をぎゅと握ってあげる。
「うん!」
俺の言葉で勇気が出たのか、エースは元気よく返事をして手を握り返してくれた。
決して強い力ではないが、勝とうという強い意志が感じられた。
俺たちは尚子とハートを見据る。
「では始めよう。ハート、準備はいいか?」
「オッケー」
俺たち4人はそれぞれ戦闘態勢に入った。
しばらくの睨み合いが続く。
先に動き出したのは尚子とハートで、雑木林の方に走って行った。
「追うぞ!」
「うん!」
俺たちはその後を追って雑木林の中に入るが、見通しが悪くて戦いにくそうだ。
「まずはあのガイストがどんな能力を使ってくるかを探ろう。それまでは防戦だ」
「了解だよ」
俺とエースはその場で立ち止まって尚子たちの出をうかがう。
エースは第九感を発動し、青空のような瞳であたりを見渡した。
生物やガイストは何をせずとも常に残滓粒子を放出するので、それを頼りに尚子とハートの位置を特定しようとしているのだ。
「いたよ! 2人とも木の影に隠れてこっちを見てる!」
エースが指さす方向を見ると、たしかに木の陰から2人の制服がはみ出ているのがわかる。
少しの間そこに注意を向けていると、尚子とハートが移動を開始した。
「残滓粒子が大量に放出された……! 何か飛んで来るよ!」
雑木林の奥から勢いよく火の玉が飛んできた。
エースはガイスト能力で自身と俺の身体能力を強化して、身をかわして火炎弾を避ける。
その火炎弾は背後の木に当たって消滅した。
そして次々と火炎弾が飛んでくる。
俺とエースは木々の間を縫うように進み、火炎弾が被弾しないようにする。
「こいつ、この雑木林ごと焼き払う気か!?」
火炎弾の炎が引火し、あちこちが炎に包まれつつある。
「こほんこほんっ! ここから脱出しよっ! 煙がすごい……っ!」
エースは口元に腕を当てて咳き込みながら言うが、
「そうだな。しかし残念ながら、うちらの生徒会長は、退路を残してくれるほど甘くはないみたいだぜ」
もうすでに俺らを囲むようにして木々が燃えていた。
「さてエース、どう切り抜ける?」
「切り抜ける? それはちょっと違うよ。走り抜ける、だよっ! 今ならまだ間に合う! ちょっと熱いだけだから!」
「ッ!? なんでお前は分割高速演算能力があるのに、そんなむちゃくちゃなこと言うんだッ!?」
「いいから走って!」
エースは俺の背中を押してきた。
「あぁ! ちくしょう!」
俺は火の手が薄い方に向かって疾走し、エースは俺の肩に捕まり、浮遊を利用してヘリウム風船のようについて来る。
一瞬、体を焼き尽くすような熱さと痛みが走ったが、すぐに火の海から――雑木林から脱出した。
制服の一部が焦げてしまったが、特に外傷はない。
「なんとか抜け出せたが……」
目の前には、空中にいつくかの火炎弾を浮かべながらポシェットに手を突っ込んで待機するハートと、その横でニヤリと笑う尚子が立っていた。
「お前たちの勇気を素直に賞賛しよう」
「高等部の生徒会長が裏庭燃やして……正気か?」
「さあな。私はめんどくさいことが嫌いなだけなんだ」
「こんな騒ぎを起こしたら、もっとめんどくさくなるってわからないのか?」
「私の第一目標はボスの計画を邪魔する者を排除すること。生徒会長としての顔はもちろん大事だが、それは権力で何とかすればいい」
「ゲスだな。お前」
「口を慎め三下」
尚子がそう言うと、ハートは火炎弾を投擲してきた。
しかし、エースの分割高速演算能力を持ってすれば、放たれた全ての火炎弾の軌道を予測することは可能だ。
俺はエースの分割高速演算にアクセスして思考を共有し、火炎弾をかわしながら尚子とハートに肉薄しようとする。
だがそのとき、
「ッ!」
――ドゴンッ!
俺とエースの足元で突然爆発が起こり、俺たちはそれに巻き込まれてしまった。
◾尚子
「かかったな」
「思った通りのクソザコだったよ」
私とハートは土煙の中を見つめて、それが晴れるのを待つ。
だがそこにやつらの姿はなかった。
「「!?」」
私とハートは目を丸くして辺りを見渡す。
「どこへ消えた! 一体いつ!? どうやって!」
見えるのは、右に燃える雑木林、左に小さな池だけ。
「遠くまでは逃げていないはず。ハートは後ろを頼む」
「了解!」
私たちは背中を合わせてやつらの奇襲に備える。
「どこだ! 隠れていても無駄だ! 出てこい!」
聞こえるのは木々が燃えるメラメラとかパチパチとかいう音と、すでに近くまで来ている消防車のサイレン音だけ。
そのとき、
――ガサガサ
私は前方の草むらが動くのを察知した。
「そこにいるのはわかっているぞ! さぁ大人しく出て――」
瞬間、私の肩から血が吹き出した。
「なにっ!?」
「尚子!?」
私の死角となる部分を見張っていたハートも、何かが飛んできて、それが私の肩に命中したということしかわかっていないようだ。
私は負傷した左肩の傷口を押さえて、大きく舌打ちをする。
ハートは四方八方を囲うように火炎弾を配置し、防御体制を取る。
そしてゆっくりと移動し、まだ燃えていない雑木林に入った。
生い茂る木々の中でやつの投擲攻撃を封じさえすれば、やつは近接攻撃をせざるを得ない。
それに私たちは火炎弾で周囲を取り囲んでいる。容易に近づくことはできないだろう。
そう思っていた私たちだったが、
「俺は逃げも隠れもしていない。お前がここに来るのを待っていた!」
頭上を見ると、太い幹の上にやつがいた。
もうすでに防御陣の内側に入られていたのだ。
「ッ!」
やつは右の拳で私の左頬を殴りつける。わたしは後ろによろけた。
「くッ! いつの間に……ッ!」
ハートはすぐに火炎弾を隆臣に向けて発射。
火炎弾は命中したが、やつの身体は光の粒子になって霧散した。
「チッ! なるほど……そういうことだったのか。さっき爆発に巻き込んだやつのも、どうやら分身だったみたいだな」
ぺっと血を吐き出し、
「能力の秘密がわかったからには、対策は可能だ。しかし、ちくしょう、どうすればいい……」
私は焦りの表情を浮かべてしまう。ハートが心配そうに見つめてくる。
野次馬の学生や消防士たちが近づいてくる声がうるさい。
「めんどくさいことになってきた……。ハート、あの小屋に移動して体勢を立てなおすぞ」
「うん」
そう言って私とエースは池の向こう側の小屋を目指した。
To be continued!⇒
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