◾隆臣
翌日の夕方。
放課後になって、珍しく家に戻ってきた凛の父である和也さんと共に、再び例の場所までやって来た。
和也さんは魔法関連の研究を行っているので、何かしらわかると思う。
地下空間に到着して、俺たちは目を疑った。
「どうしたんだい?」
和也さんが尋ねてくる。
「このお墓……荒らされているんです!」
凛が答えた通り、今目の前にある十字架はきのう見たものとはまるで印象が異なっていた。
というのも印象が変わっただけで十字架自体に変化はなく、その周りを美しく彩っていた花々や装飾品が今や見る影もない状態になっていたのだ。
焦げた装飾品やカスになった花々から考えるに、燃やされたのだろう。
すると、
「この空間に|残滓(ざんし)粒子があるよ。残滓粒子が放出される条件は2つ。1つが魔術よるもので、もう1つがガイスト能力の行使よるもの。この残滓粒子は素粒子配列的にガイストのものだってことがわかるよ」
文字通り目の色を変えたエースがそのように分析して俺たちに教えてくれた。
エースの第九感は視覚の進化ではなく、厳密に言えば脳の機能の進化で、思考をいくつかに分割し、それぞれに高速演算をさせることができるのだ。いわゆるスーパーコンピューターのみたいなもんだな。
分割高速演算思考の応用性は非常に高く、今回のように空気中の魔力粒子やそれを構成する素粒子をも視認することもできる。
エースは続けて、
「残滓粒子の濃度がかなり薄くなってるから、犯行時刻はおそらくきのうの夜中といったところだね」
と言って髪の毛を耳にかけた。ちくしょう! エースはこの仕草を結構やるけど、やっぱりかわいい! このままエースや凛、ジョーカーの一挙一動を観察して、かわいい仕草を新たに見つけていきたいが、そんな、わけにもいかない。
魔力粒子は源粒子と残滓粒子というものに大分されていて、さらに源粒子は魔力源由来ものと、個々人によって素粒子の構造が若干異なる体内由来ものに区別されている。一般的にそれらは魔力源由来の魔力粒子、体内由来の魔力粒子と呼ばれている。
また残滓粒子とは、魔法やガイスト能力の行使などにより消費された魔力源由来の魔力粒子が変化したもので、文字通り残りカスになったもののことである。
ちなみにガイスト自体は死人の霊魂(れいこん)であり、俺や凛のようなガイスト使いの体内由来の魔力粒子に憑依することによって実体化することができる。
そしてエースは、第九感――分割高速演算を利用して残滓粒子から固有の体内由来の魔力粒子を割り出し、それに該当する人物を特定することができる。
「なるほどな。つまりは昨日の深夜、ここにガイストが来て墓を荒らしていったってわけか。墓自体は結界で守られていて無事だったみたいだが」
俺は今のエースの話を端的にまとめてあげる。
エースは俺ににこっと笑ってきた。ありがとうってことだ。
さらに分析を続けていたエースは、今度は目を大きく見開いて、
「うそっ! そんなっ! こんなことが!」
驚愕の表情をした。
「ありえない! あの人がこんなことをするなんて!」
「おい、大丈夫か?」
俺はエースの肩をおさえて落ち着かせようとする。
「やばいんだよ隆臣! やばすぎるの!」
「まずは落ち着け。それから話せ」
100mを全力ダッシュした後のように息を切らしていたエースは、なんとか大きく深呼吸をして昂った気持ちを落ち着ける。
「あのねみんな、驚かないで聞いて欲しいの。今からわたしが言うことは信じられないかもしれないけど、わたしもとても信じられない。いや、わたしたちだけじゃない。きっとこんなこと誰も信じないと思う」
エースは少しの間を開けて続ける。
「犯人はね……学園高等部生徒会長の豊園尚子なんだよ!」
『…………』
エースの言葉は沈黙を生んだ。
それもそのはずだ。豊園尚子といえば人当たりがよく、学業優秀かつ運動神経抜群で、理事長の姪(めい)な上に高等部生徒会長という東京魔術学園の顔なのだから。
そんな尚子がこんなことをすると信じる人がいるだろうか? いない。
以前にエースが学園内の人物を第九感を使って調査した結果、魔術学園だけあって、やはりたくさんのガイスト使い及びガイストがおり、尚子もガイスト使いということがわかっていた。
しかし、まさかあの豊園尚子が、何が目的かはわからないが他人の墓を荒らようなことをするとは、失望よりも驚きの方が断然強い。
その話を聞いていた和也さんは、
「それは本当なのかい? エース」
と、静かに尋ねた。
「わたしの第九感は絶対記憶もできる。一度覚えた残滓粒子の素粒子配列は絶対忘れないよ。だから間違いなくこれをやった犯人が豊園尚子だって断言できる」
エースの言葉を疑う余地はない。だってエースの分割高速演算に狂いはないから。
「あの野郎がこんなことするなんて考えられねぇ。でもエース、俺はお前を心から信頼している。お前を信じるぜ」
「わたしも隆臣と同意見です」
「わたしもよ」
凛とジョーカーも俺に賛成の意を示してくれた。
「うむ」
和也さんも頷き、
「エースの言うことは確信的だろう。でも今一度、万が一のことも考えて、明日本人に直接尋ねてみて欲しいだ。なんていたって学園の顔だからな。泥を塗るわけにはいかない」
そう提案してくれた。
「そうしよう」
「どちらにせよ、本人に直接会わないことには始まらないしな」
「賛成よ」
「うん!」
エース、俺、ジョーカー、凛の意見は一致した。
そして翌日を迎えた。
To be continued⇒
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