【完結:怨念シリーズ第6弾】悟(さとる)~拭えぬ穢れ~

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湖底で眠る【完結】

公開日時: 2021年10月2日(土) 14:49
文字数:7,106

本の表紙のところに小さな文字でメッセージ


”潤一郎→二股”


まるで子供が教科書に落書きをしたような感じの印象にも見受けられたが、これには隠されたメッセージがあると踏み込み、その他のページに記載されてあることを読むことにした。すると、茉莉子さんのことについて触れた記述の後にいつ記述をしたのかが分からないが、疑問に思う記述があった。


"セツさんに頼まれた コンクリートに入れ壺の中に入れ埋めた 佐賀に災いを齎さぬように九州以外にしろとはセツさんの指示だ"


「壷?まさか骨壺のことだろうか?だとしたら骨壺にコンクリートを流し込んだものを九州以外の場所に埋めたということだな。」


うーん、うーん。


じっくりと考える米満の姿を見た先輩社員の熊和成が声をかける。


「安村編集長の指示で、あの茉莉子さんの都市伝説の事を調べているんだろ?聞いているよ!進捗状況はどうなったか?」


熊の質問に米満は答え始めた。


「ああ、茉莉子さんの都市伝説は本当だった。この古びたノートに全てが書かれてあったんです。これは大発見で、間違いなくスクープになると思うんです。3月12日の土曜日にダイビング仲間の自衛官とそして同じくダイビング仲間の警察官の立ち合いの元、茉莉子さんの遺体が本当にノートに書き記されてある場所に埋められてあるのかどうかこの目で確認を行う予定です。遺体が発見されたら、茉莉子さんの話は本当だったという事になりますからね。」


米満が説明をすると、熊はじっくりと熟読をし始めた。


「フェニックス・マテリアルの創業者の小鳥遊たかなし悟が書き綴っていることだから信憑性は高いな。ソメザワ・マテリアルやモチヅキ・ドリーム・ファクトリーとも出歩きをしていたのは小鳥遊たかなし悟ただ一人だけだからな。しかしこれがもし現実に起こりえたことで、小鳥遊たかなし悟が伝えたことが本当の事ならば、何だか首を挟んではいけないことに首を挟んでいるような気がする。」


熊がそう話すと、熊なりの見解を米満に語りだした。


「当時の警察の捜査ってのは、犯人のものだと思われる指紋や毛髪、足跡、そして遺体を見て犯人からの攻撃に抵抗した痕跡があるのか否か、また家に侵入した形跡があったかどうかなどを複合的に見て判断する。今みたいに凶器として使ったものにグリップした痕跡があるとか、科学の力を用いての捜査が出来なかった時代だからこそ起こってしまったものだろう。実はいうと、潤一郎事件には警察にとっては知られてほしくない闇の過去があるんだ。」


熊の話に米満は聞き始めた。


「それって何なんですか?」


熊は米満に「知り合いの警察官にも絶対に言うなよ。これはタブーに触れるも同然の話題なんだ。通報を受けた5名の警察官が、地下で恐らく潤一郎が悪魔を呼び出すための儀式として使っていた間があった、そして本棚を押すと隠れたもう一つの部屋があった。そこには、円に血で五芒星が描かれたところが地響きのような跡がありちょうど真ん中あたりでぱっかりと口を開いていたいう。それを見た警察官が、そこにいた何かに目をつけられたのだろう、発狂してしまってある一人の警察官が銃で撃つとその場にいた警察官の全員が銃で打ち合いして死亡した。それから多久署では、染澤潤一郎という名前だけでも関わりたくない警察官が続出した。だから、そのあとの望月裕の事件についても、潤一郎の関係者であると分かっているから小城署も深入りはしなかった。警察官であれど所詮は公務員だ、原因不明の案件について幾ら治安を維持しなければいけない立場であれど首は挟みたくないのさ。」


まさかの事件を知り、米満は「えっ、あの希望の丘広場にまだ隠された部屋があったんですか?」と聞くと、熊は「ああ、間違いなく残っているだろう。ただ大嶌組はそこまでは踏み入らなかったはずだ。あくまでも壊したとされるのが、収納庫のベニヤ板の壁を越えた先にあった隠れた部屋だ。そこでは悪魔崇拝の儀式に纏わる本や、ヴィジャボードなどがあったようだ。勿論、その部屋でも悪魔を呼び出すための儀式は行われた。恐らくその部屋だけしか見ていないだろう。それも大嶌組事件の唯一の生存者であった女里谷よめたに昴からはもう聞きだすことが出来ない。」と話しすと、米満は「あの事件の生存者の女里谷よめたに昴さんに一体何があったんですか?」と聞くと、熊は答え始めた。


女里谷よめたに昴は入院先の病院で退院した。ただ退院しても女里谷よめたにはPTSDに苦しめられた。再就職が出来るメンタルに戻るまで、女里谷よめたには実家で過ごしていたが、鬱状態がさらに悪化した末、女里谷よめたには母親に『気分転換にドライブする』と言ったのを最期に、鹿島市内の蟻尾山で首吊り自殺を図り死亡した。その後、YouTubeの生配信で動画の編集アシスタントとして訪れたモニカこと後垣紗季は、仲間が全員地蔵を囲むように集団で首吊り自殺を図ったのを唯一免れた一人ではあったが、そんな彼女も女里谷よめたにと同様にPTSDで悩まされた末に鬱状態が悪化し、嬉野市内にある轟の滝で入水自殺をして亡くなった。潤一郎の祟りによる犠牲者はそれだけでない。最後に住んだ家族である、荻窪一家も新居に移ってから1ヶ月後の9月29日にお泊り保育に出掛けていた伶菜を除く父親の隆治、母親の美篶、そして二人の息子の聖夜と堅斗の4人で唐津市内の厳木ダムへと出向き、車で一酸化炭素を発生させ、無理心中を図り死んでしまった。いずれも死ぬ間際まで潤一郎によるものなのか呼び出した悪魔によるものなのか、心神耗弱ともいえる状況にまで追い詰められたのは事実だ。伶菜ちゃんはその後、長崎の大村市内にある父方の祖父母に引き取られたと聞いたが、事件が起こるまでは天然でおまぬけなところがあったみたいだけど、伶菜ちゃんの一言一言はいつも人を笑わせてくれたそうだ。だが、事件後はショックが大きすぎたのか、保育園には何事もなく通うが、いつも一人でぼーっと過ごして誰とも関わらなくなってしまう日々が続き、保育園をやめて幼稚園にしてみたが、結果は同じだった。まるで蝋人形のような状態だよ。誰とも話をしない、聞かれても反応はしない。じっと窓を眺める。さすがに幼稚園でも面倒は見れない判断し、今は精神科の病院に入院していたはずだ。」


熊の話に米満は思わずぞっとしてしまった。

そして熊はさらに米満に話し始める。


「潤一郎に関しては悪いことは言わない。関わらないほうがいい。そしてこの米満が気になっているこの記述は恐らくだが、近々ダム底に沈むとされているあの二股隧道の事を指すんだよ。木曽川下流に新丸山ダムが建設中で完成すると水没する予定ではあるが、現在はダムの本体工事そのものが凍結となり現在も行こうと思ったら行ける東海地方を代表する岐阜の有名な化けトン(=お化けが出るトンネル)だ。トンネルが完成したのは終戦後の昭和31年だが、工事が始まったのは戦前の昭和21年頃に建設が始まったとされる。このトンネルを作る上においてかなりの難工事だったようで、そのため数多くの朝鮮人労働者が人柱となったという噂から、殉職した朝鮮人労働者の幽霊が出てくるとも、また分岐点となる川のほうに抜ける手掘りで作られたであろう道は意図的に誰かが埋めたであろう岩石で覆いつくされ通行することは完全に不可能な状態だ。そんなところで潤一郎の御遺骨が眠っていると来たか。益々関わらないほうがいい。二股隧道なんて霊感がない奴が行っても霊障に悩まされトラウマになるほどのレベルだ。何かある。それぐらいしか俺は話せない。きっと北海道の常紋トンネル並みの衝撃があることは間違いないだろう。」


熊の説明を受け、米満は少し考え始めた。


考え始めて3分ぐらいが経ったとき、米満は熊に対して「今は茉莉子さんの噂の真偽を確かめることに専念します。」と語り、熊も「そのほうがいい。」といって話は終わった。


そして、来る3月12日 土曜日がやってきた。


朝8時に起きた米満は酸素ボンベの準備を整えると同時に、ゴムボートを膨らませた状態で、V60に積み込んだ。


「よしっ、後は待ち合わせの時間が11時だから、それまでに到着をしておきたいから、えーっと時計の針は8時を回った頃だけどそろそろ行くか。早く行って見ておきたいものがあるしね。」


米満はそう思い、早い時間帯ではあるが出発をすることにした。


高速道路を使わず、ゆっくりと一般道路で向かうこと2時間30分。


厳木ダムの中央公園の手前にあるガレージに停車をさせた後、厳木ダム中央公園へと向かい、そこでゴムボートや酸素ボンベの準備をしようとしていたところ、既に湖岸には支倉が到着していた。


「米満、相変わらず時間を守らない奴だな!まあ遅刻をしていないだけマシか。」


支倉にそう言われた米満は「今まで待たせてばかりで悪かったな。でも今日は約束時間よりも30分前に到着したんだよ!」と自慢げに語ると、支倉は「それ自慢になること?」と言われ米満は何も言い返せず黙り込んだ。


米満は支倉に「ところで饗庭兄弟は?まだ姿を見ていないんだけど。」と話すと、支倉は「支倉、お前携帯の着信履歴見なかったのかよ。饗庭が米満に何度も連絡しても繋がらなかったから着いたら必ず伝えてって言われているんだよ。」と話すと、米満は鞄の中から携帯を確認した。


「確かに、饗庭から5回も着信があった。でも基本マナーモードでサイレンスにしていたから全く気付かなかった。」


米満が支倉にそう語ると、支倉は「土日くらい、マナーモードは解除しておけよ。緊急だったんだから。俺も内容は詳しく聞いてはいないんだけど、唐津市内の精神科病院に入院中だったある3歳の女の子が暴走したんだって。饗庭曰く”悪魔憑き”かもしれんって、最寄りの教会に連絡して、バチカンに正式な悪魔払いの許可を得るように大至急という話にまでなっているみたいだよ。とりあえず饗庭は来ない。その代わりに侑斗君は自家用車で来てくれるみたいだね。さっき電話を貰って45分ぐらいには到着できるって話だったから、俺達はゴムボートに酸素ボンベをのせ、そしてウェットスーツに着替える準備をしないとね。俺は着ているこの服の下がウェットスーツだから後は脱ぐだけ。」と語ると、米満は「俺も服を脱げば、ウェットスーツなのはお互い様だね。ところで”悪魔憑き”ってどういうことなのか。エクソシストみたいなことが行われているというのか?」と支倉に訊ねると、支倉は「まあ、そういうところだろう。聞けば3歳の日本語以外の語学しかない女の子なのに、昨日からラテン語で喋り掛けるようになったらしい。看護師がそれに気づき”日本語で喋って”といったところから看護師の腕を噛みつき”お前の魂を奪ってやる”と言って暴れたんだ。通報を受けた唐津署もお手上げだ。勿論、饗庭でもな。たまたま、饗庭にはキリスト教関連の悪霊に対応できるように、常日頃から聖水を持っていたそうだが、それが役に立ったようで、聖水を掛けたら”俺に汚い水をかけやがって”って更に興奮しちゃってさ、今は暴れ出さないようにロープでベッドに縛り付けているんだってさ。」と答えた。


米満はその話を聞き「まさか、その3歳の女の子って、俺も先輩の記者から、旧染澤邸に最後に住んだ家族の女の子が確か、今年で4歳になる3歳の女の子だった筈。」と聞き始めるが、支倉は「俺も誰なのかは聞いていない。ただ饗庭も”大変なことが起きたから、こちらのほうに向かわなければいけない。”と言ってそれっきりだよ。これ以上首を挟まないほうが良いんじゃないか、かえって良くない結果が待っているとしか思えない。」と語りだした。


米満は支倉の話を聞いて、「うんそうだね。今は茉莉子さんのご遺体を探すことを目標としよう。」と語り始め、2人で用意したゴムボートを湖岸に浮かび始めると、後ろから「おーい!」という声がしたので振り返ると侑斗の姿があった。


「ごめん!遅れた!早速調査開始しよう!!」


見たら侑斗は既にウェットスーツ姿でゴムボートと右手に酸素ボンベを背中に担いでいた。


「兄貴から借りてきた。俺もダイビング経験はあるんだよ。」


侑斗がそう語ると、3人は早速ダム湖へと向かい、予め旧地図と現地図を見比べながらかつての旧鮎川邸をゴムボートを漕ぎながら目指した。そして目標地点に到着すると、早速支倉がゴーグルと酸素ボンベと足ヒレをつけ始めてから湖に飛び込むと続いて米満も同じように酸素ボンベとゴーグルと足ヒレをつけてからダイブすると、そして侑斗もゴーグルと足ヒレをつけて更にスコップを3本抱えた状態で飛び込んだ。


潜り始めてから、段々と家らしき建物が見えてきた。


まずは支倉が深く潜水をし始めると、門のところにある表札を確認すると、いいねのポーズで合図を送り、米満と侑斗はその合図を見てその家へと向かい始めた。


そして書き綴られてあった通りに、物干しスタンドがサビた状態ではあったがあった。そして、その下には水草が生えていない箇所があった。


その場所を最初に支倉が発見すると、3人で力を合わせてスコップで掘り始めた。


すると、何か白いものが出てきた。


支倉が近付き、さらに白いものをめくるとブルーシートが出てきた。

そしてその中には腐敗したご遺体が出てきた。


支倉が「引き上げよう。」と指で合図をすると、米満が遺体の左側、支倉が遺体の右側を、侑斗が遺体の足元を支えるような形で3人がかりで遺体を引き上げることにした。水の中での引き上げる作業は大変重労働で3人でやっとの思いで水面の近くまで遺体を浮上させるとすぐ支倉の乗っていたゴムボートに遺体を乗せることができた。


「はあ、はあ、後は湖岸にもっていくだけだ。」


そう語っていると侑斗が警告をした。


「大変だ。自殺者の霊達で集まってきている。ここから避難をしなければ俺達は溺死してしまう。」


すると、支倉の足元に誰かが両腕で掴んできた。


思わず支倉は「だっ、誰だ?俺の足を掴んできた奴は?」と米満と侑斗に話すも、米満は「誰も支倉の足なんか掴んでいないよ」と話すと、支倉は気になって足元をみた。すると霊感のない支倉でも見てわかった。湖底からブクブクと湧き上がってくる泡のように、自殺者たちの御霊の白くて複数の腕が支倉の両足をしっかりと掴んでいたのだった。思わず支倉は「誰か、誰か、助けてくれよ!」と叫んだ瞬間に、背後から迫ってきた鋭い目つきをしたボス格の女性の霊に頭を沈まされ、支倉は湖の底へ一瞬で姿を消してしまった。


侑斗が支倉の異常事態に気が付き「大変だ。」と語るとすぐその場で御祓が行われた。


侑斗がゴムボートの上に乗ると、御祓のためのお経を唱えるが、おびただしい程集まりだした自殺者たちの御霊の前では馬の耳に念仏も同然だった。


侑斗と時同じくゴムボートに避難した米満はただただ両手で拝み、「神様どうか助けて下さい。」と祈ることしか出来なかった。


そんな中でついに米満の乗るゴムボートの底に自殺者の霊達が集まり出し、乗っているゴムボートごと突き上げ転覆をしてしまった。米満はダム湖に投げ出されると、転覆したゴムボートにしがみつこうとしたが、両足を引きずられ、米満は「助けて!助けてくれ!」と叫ぶと湖底へ沈んだ。


御祓の御経で何としてでも事態を打破したい侑斗だがさらに悪化していくばかりだった。その上、追い打ちをかけるように、侑斗の乗るゴムボートにも自殺者達の御霊が集まり出し、ゴムボートの底を突き上げると、転覆し侑斗もダム湖に投げ出されると、侑斗も両足を引きずられ湖底へ引きずり込まれた。


ブク、ブク、ブク。


息苦しい。


侑斗に見えるのは、今までに見たことがない何百人いや何千人はいるだろう、凄まじい数々の自殺者の御霊の集合体だった。


侑斗は必死になり、力尽くで手で押し倒そうと反撃に出るが、あまりにも数が多過ぎる。呼吸も苦しくなり、身に付けている酸素ボンベに残る酸素は殆ど消耗していた。絶望的ともいえる状態に陥り、侑斗は死を覚悟した。


意識が遠のいていき、段々と死ぬ時を待つしかない。そんなときに、太陽のような光が差し込むと、集まり出した自殺者の霊達が一目散にその光から逃げ去るようにして暗闇へ消えていく。


光の中から、白いワンピース姿の女性が現れ、にこやかな笑顔で侑斗にこう告げた。


「いつも傍で見守っているよ。兄弟仲良くこれからも人助けを続けてね。」


女性はそう語ると笑顔でふわっと光の中に包まれ消えた。


侑斗は急いで水面へと浮上すると、支倉と米満の姿があった。


侑斗、支倉、米満が助かったことを確認すると抱きしめ合った。


そして3人揃って、ゴムボートで厳木ダム中央公園の岸まで辿り着くと、すぐさま引き上げた遺体を陸地に安置させた状態で、支倉が車の中に置いてある携帯で110番通報をした。


「死ぬかと思った。そんなとき光が見えた。まるで神々しい輝きを放っていた。あれは一体何だったんだ。」


米満が侑斗に語ると、侑斗はこう返した。

同じことは支倉も語りだした。


「酸素ボンベの要領も残り少ない中、もう駄目かもしれないと思った。でも一筋の光が入ってきて包み込まれるようにあの黒い集団はあっという間に消えたんだ。」


米満と支倉の質問に侑斗が静かな口調で答えた。


「茉莉子さん。俺達のことを助けてくれた。」


侑斗はそう語ると、左目からは涙を流していた。


その答えを聞いた米満が天を見上げ「助けてくれてありがとうございます、茉莉子さん。」と言ってそっと呟いた。そして支倉も続くように空を見上げて「茉莉子さん、助けてくれて本当にありがとうございました。」といって敬礼をした。

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