【完結:怨念シリーズ第6弾】悟(さとる)~拭えぬ穢れ~

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湖底

公開日時: 2021年10月2日(土) 14:28
文字数:5,630

2022年3月7日 月曜日。


朝8時に起きたと米満は、フェニックス・マテリアルの現社長でもある小鳥遊たかなし譲社長とアポイントが取れるかどうか、Macのノートパソコンを開き、フェニックス・マテリアルのホームページを開き、連絡先を調べてみると同時に何時から連絡が繋がるのかも合わせて確認を行った。


「電話は朝10時からしか受け付けないのか。それまで、調べられることを調べるしかないか。」


そう思い、身支度を済ませ、朝御飯を食べ終えた後、向かったのは住んでいるマンションの近くにある長崎市内の市立図書館だった。


「過去の凄惨な事件ならば、そういった類の事件ばかりを取り扱った書物があるはずだ。10時が過ぎるまで探すしかない。」


米満は図書館に入ると、過去の事件などが並ぶコーナーへと足を運び、一冊一冊の本のタイトルを確認し始めた。しかし、置かれてある本はどれも全て、お目当ての茉莉子に纏わる都市伝説や或いは望月裕、さらに染澤潤一郎が起こしたとされる事件すら関連書籍がなかった。


「いくらここで関連書籍を探しても時間がかかるだけだな。このまま10時を過ぎるまで待ち続けるしかない。」


そう思った米満は腕時計の針が10時を回るまで、心理学の書籍ブースである本を見つけてきたので読んでみることにした。


「自殺者の心理~どうして人は死を選ぶ~」 安来則夫著書


じっくりとテーブル席に腰を掛け乍ら熟読をしていると、あっという間に10時を回っていた。「やっと、フェニックス・マテリアルに連絡をすることが出来る!」


思った米満は早速HPに記載がされてあるフェニックス・マテリアルの電話番号に連絡をした。


「お電話ありがとうございます。フェニックス・マテリアルの柳が承ります。」


電話対応をしてくれた女性の社員に率直に米満は話し始めた。


「いきなりこんなことをいって唐突に思われるかもしれませんが、小鳥遊たかなし譲社長と直接お話をしたいことがあります。わたしは、長崎市内に拠点を置くヴィクトリー出版の記者を務める米満朔弥といいます。」


米満が自己紹介を済ませると、柳が話しかけた。


「社長に何か取材でもされるのですか?社長への取材は基本的にお断りをしていますのでお引き取り願います。」


柳がそう言って電話を切ろうとしたが、米満は粘った。


「人の話を最後まで聞いてください。僕は小鳥遊たかなし社長にインタビューをするのが目的ではありません。創業者でもある小鳥遊たかなし悟さんの戦友でもありまた親友でもあった、そして後に事件が発生してこの世を去ることになったソメザワ・マテリアルの社長の染澤潤一郎とモチヅキ・ドリーム・ファクトリーの社長の望月裕について今の小鳥遊たかなし譲社長は何か知っている情報があると思い、話がしたいんです。最近、望月裕の弟でもありまたモチヅキ・ドリーム・ファクトリーの副社長を務めた望月しげるさんのご遺体が七ツ釜で引き上げられました。残された望月しげるさんの御遺族に当たるお孫さんが真実を知りたがっています。勿論染澤潤一郎の隠し子の子孫も生き残っています。悟さんの御子息でもある小鳥遊たかなし社長でなければお答えできないことがあるんです。お願いです。話でも、小鳥遊たかなし社長に通して頂けませんか?」


米満があまりにも熱心に説得をするので柳が「わかりました。社長にお繋ぎしましょう。そのままお待ちください。」と話すと暫く電話の保留音が聞こえ始めてきた。


お繋ぎしますといって1分ほどが経った頃だった。


「はい、代わりました。小鳥遊たかなしです。」


ようやく小鳥遊たかなし社長に話をすることが出来た米満は「お忙しい中大変恐縮です。僕の大学生時代からの親しい友人に、モチヅキ・ドリーム・ファクトリーの副社長を務めた望月しげるの子孫、そしてソメザワ・マテリアルの染澤潤一郎が愛人との間に授かった隠し子の子孫がいます。彼らは真実を知りたがっています。それは小鳥遊たかなし社長もお分かりのことだと思います。何か創業者の悟さんから、生前に引き継いでいることなどありませんか?残された僕の知人たちは真実を知りたがっています。カギを握っているのは小鳥遊たかなし社長のお父様だけです。お願いです。知っている情報だけでいいので教えてほしいんです。」



米満の言葉に小鳥遊たかなしはまさかといった感じの口調で話し始めた。


「わたしも最近のニュースで七ツ釜で何十年も前に投身自殺を図った男性のご遺体が見つかったと聞いて他人事のように感じていましたが、まさかしげるさんだったなんて思いもしませんでした。」


小鳥遊たかなしはそう話すと言葉を詰まらせて泣き始めた。


「父が潤一郎おじさんや裕おじさんには酷いことをしておきながら、のうのうと盗んできた技術を応用して商品開発を行っていました。父は営業マンとしてのスキルはありました、しかし数々の知識やアイデンティティを持つほどの人間ではなかったのです。父は潤一郎おじさんや裕おじさんのことをいつかは潰そうと思ったと同時に、彼らが開発した技術を盗みたいがために、近付き、そして商品開発前の企業秘密を盗み出すことに成功した。米満さん、わたしからも父に纏わることで色々と話がしたい。電話だと長くなる。もしよければ、フェニックス・マテリアルの本社に足を運んでもらいたい。いつなら都合があいているか、教えてほしい。また会社に直接連絡をするのもあれなので、わたしの個人携帯の連絡先を教えるから次回からはそちらにかけてほしい。」


小鳥遊たかなしが米満に話すと、電話番号を教え、米満はすぐメモに取り始めた。


しげるさんの御子息の方とも、小鳥遊たかなし社長とお話がしたいと申しております。当日は僕とそのご子息の2人で訪れても問題はないのでしょうか?」


米満が聞くと、小鳥遊たかなしは答え始めた。


「ああ。問題はない。まさか生き残っているとは思ってもいなかった。父が肺癌でこの世を去るまでに、わたしに”染澤と望月の子息のいずれかが来たら渡してほしい”と言われていたものがあった。会える日に、父から譲り受けた宝箱を、是非貴方達に託したいと思っている。」


小鳥遊たかなしの答えを聞いて、米満は「明日3月8日の火曜日の御都合はどうでしょうか。僕と他に大学1年生で望月しげるの孫にあたる饗庭侑斗と共に御社に訪れたいと思います。」と答えると、小鳥遊たかなしは「いいでしょう。朝の11時から、フェニックス・マテリアルに来ていただけませんか。折角ですから皆さんでお昼ご飯も共にしたいと思います。食事代はわたしが負担します。」と話すと米満は「ありがとうございます。饗庭君にも伝えて、2人で当日現れたいと思います。」と「お待ちしております。」と答え米満が電話を切るのを待ってから、小鳥遊たかなしも電話を切った。


米満はすぐさま侑斗にLINE電話を掛けた。


「ごめん。小鳥遊たかなし社長とのアポイントが取れた。急遽だが明日3月8日の朝10時30分ごろに、侑斗君の住む家に俺が迎えに行くから二人で武雄市内のフェニックス・マテリアルに向かおう。」


米満が話すと、侑斗が呆れた感じで話し始めた。


「米満さん、どうしてそんな大事な話を僕の意見も聞かずに決めちゃうんですか。でもまあいいですよ。除霊や御祓いの依頼などは受けていませんので、必ず僕の住む多久市内の実家には必ず迎えに来てくださいね。さもなければ兄に通報します。」


侑斗の言葉に米満は「悪かった。俺としては早いうちのほうが良いんじゃないかと思って勝手に決めてしまって申し訳ない。勿論明日の朝10時20分頃には多久市内の実家には到着をするようにしておく。」と話すと、侑斗は「わかりましたよ。約束はしっかりと守ってくださいね。」と話し電話を切った。


その後を追うように、饗庭からも電話がかかってきた。


「侑斗から、明日11時から小鳥遊たかなし社長と話をするってことは聞いた。侑斗は俺が拾ってくる。米満は、直接フェニックス・マテリアルに行ってほしい。俺も、何とか予定があると作って、小鳥遊たかなし社長と会えるように時間は作っておいた。当日は俺と侑斗、そして米満の3人で話をしよう。」


饗庭からまさかの提案に米満は「ありがとう。フェニックス・マテリアルの本社工場のガレージで10時50分頃待ち合わせをしよう。」と話すと、饗庭は「そうだな。それぐらいの時間帯に落ち合おう。」と話し電話を切った。


饗庭との電話を終えた米満は、土曜日の晩に安村編集長から今朝がたにメールの返事があり、そこで指示を受けた内容の通りに、厳木ダムでの水面に浮かぶ女性の霊の正体を掴むために、再び厳木ダムへと足を運ぶことにした。


着いたと同時に写真を撮影した厳木ダム中央公園へと足を運ぶと、3月12日に茉莉子の遺体を引き上げるためのゴムボートをまずここで膨らませた後、茉莉子の実家があった場所にまで侑斗君の透視能力を使いゴムボートで辿り着くと、その辺りを重点的に茉莉子の家を探し、そして茉莉子の遺体が埋められているとされる、水草が唯一生えていない箇所を探す、見つけ出すんだという希望を持った状態で探さなければいけない。


そう思った米満はダムの管理事務所に足を運ぶと、かつてここに黒いパンプスがあったことを知っている従業員がいないか長崎のヴィクトリー出版の雑誌記者として聞き込みを行った。


「厳木ダムが出来てから、ここに”茉莉子”と綴られた手紙が黒いパンプスの中に入っている状態で、ダムの近くで発見されたと伺いましたが、そのことについて何かご存知の方はおられますか?」


米満の聞き込みに、従業員Aが話しかけた。


「ああ。あの厳木ダムの都市伝説ね。本当に茉莉子という女性がこの地で最期を迎えたのかどうかは我々は疑問視している。茉莉子さんの話は、ここに勤めると、先輩社員から必ずと言ってもいいぐらい聞かされる。当初はダムに投身自殺を図ったのだろうと思い、警察やレスキュー隊が総出になってダムを潜って探したのだが、女性の遺体は一向に見つからなかった。それどころか、仮に重石を体に付けた状態で投身自殺を図ったとしても、遺体の体内にガスがたまっていき、それが次第に浮き輪のような状態になって水面に浮かび上がってくるのだが、それすらなかった。だからあの時に発見された黒いパンプスは誰かの悪戯ではないだろうかというのが我々の見解だ。」


従業員Aの話を聞いた米満はある質問をした。


「ダムを造る前、かつてここは唐津市厳木町広瀬地区という地域で6軒のお宅がありましたよね。その沈む予定だったお宅の中に、茉莉子の実家だった家もあったと我々の独自調査で判明しました。建立する前に現地調査もされているかと思われますが、その当時のことをご存知の方はどなたか知っておられますか?因みに茉莉子の旧姓は鮎川です。鮎川家を探しています。」


米満の質問に従業員Aの後ろから近付いたベテランの従業員Bが答えた。


「現地調査を行った人ならばもうとっくの昔に定年退職をしているよ。でも連絡先なら知っているし、その当時の話なら聞き出せることが出来るかもしれない。聞いてみるよ。」


その言葉を受けた米満は「調査にご協力していただきありがとうございます。」と深々と頭を下げた後に、従業員Bが話すとすぐ、受話器を取り連絡をし始めた。

そして聞き出した答えを話し始めた。


「鮎川家はあった。佐賀では鮎川なんて苗字は珍しい名前だから憶えているみたいだよ。話してみるか?」


言われた米満は「話してみたいです。」と答え、受話器をお借りして話し始めた。


「鮎川家は確かにあった。だが俺達が見たときには完全にもぬけの殻で何もなかったよ。強いて、大きくて動かしようがなかった、昔ながらの嫁入り道具の古箪笥があったぐらいだね。あとは何もなかった。動かせられるものは全て持ち出して、動かせられないと分かったものは置いていった、そんな印象だ。だからあんなところに、遺体が隠されている可能性というのは皆無に等しい。家中を探したが、異様に臭いと思った部分もなかった。勿論、庭の物干しスタンドの下も覗いたけど、特にこれと言って何かを隠しているような目立つような部分もなかった。ただ今思えば、庭の他の場所には雑草が覆い茂っていたが、物干しスタンドの下には雑草の一つすら生えていなかった。不審には思ったが、土を掘り起こしたような痕跡も無かったので、ここだけは薬品を撒いた等の理由で植物が生えていないだけなのかなと思って、俺はそのままにした。」


その答えを聞いた米満は、鋭い質問をした。


「仮に除草剤を撒いたとしても薬品ですから、ずっと薬品の効果が続くわけではありません。生えてこないという事はすなわち、その地に何かが埋められているから植物が根付けられない環境があるという事です。茉莉子が眠っている可能性があります。かつての鮎川家があった場所を教えて頂けませんか。」


米満が話すと、従業員Bに代わってほしいという話になり、従業員Bが代わるとダムで沈む前の唐津市厳木町広瀬地区の地図を出してきた。


「6軒が建っているお宅の中で一番北側にあったのが鮎川さんのお宅です。」


従業員Bがかつての鮎川邸があった場所を地図で指さすと、米満は「ありがとうございます。大変恐縮ですが、この地図をコピーを取ってもらえることは可能ですか?」と訊ね、コピーを頂くことが出来た米満は「何から何までありがとうございます。」と丁重にお礼をした後に、3月12日に厳木ダムで茉莉子の遺体がある可能性があることを示唆し、立ち合いのためにも知り合いの警察官と共に遺体を引き上げたい旨を伝えると、従業員Bは深く考えた後に「退職をした従業員Cに代わってお詫びします。我々が植物が生えていないことを怪しんでその地を掘り起こしていたら結果は違っていたことでしょう。あのパンプスがダム付近に置かれていたのは茉莉子の存在を世に知らせるのが目的ならば、大変申し訳ない事をしました。我々が出来ない代わりに遺体を見つけて頂けませんか。」とお願いされ、米満は「わかりました。見つけてきます。」と力強く返事をして、管理事務所を後にした。

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