「それじゃあ、行ってくるよ、アミィ!」
「はいっ! 行ってらっしゃいませ、ご主人様っ!」
いつものように二人での朝食を終え、ご主人様はお仕事へと行ってしまった。この瞬間は何度味わっても、嬉しくもあり、寂しくもあった。
さて、私は私の仕事をしないと! 取り敢えずは朝食の片付けからだ。ずいぶん食器も割ってしまったけど、ご主人様が食器をプラスチックに買い換えてくれたから、私でも食器洗いが出きるようになった。
カチャカチャ……カチャカチャ……
さあ、これでよし! 食器を洗い終えた私は、本来であればお掃除やお洗濯、お料理なんかをするのが役目だ。
私はメイドアンドロイド。そのために作られた、いわゆる人工機械生命体だ。
でも、私はメイドアンドロイドなのに家事がほとんど出来ない、いつも同じようなドジを踏んでしまう。
そんな私を、ご主人様は受け入れてくれている。本来ならば、私は自発的にご主人様の元から去らなければいけない欠陥品だ。
それでも、ご主人様は『ありのままのアミィでいてくれればいい』って言ってくださった。身に余る幸せ、私は果報者だ。
とはいえ、無理に家事をしようとすると部屋がグチャグチャになりかねないから、ご主人様からは、『今日はひとまず晩御飯だけでも作ってくれればいい』と命令されている。
つまり、今日の私のお仕事は、晩御飯の材料の買い出しと、お料理だけ。あとの時間は暇なのだ。
ご主人様からは、『暇な時間はアミィの自由にしてくれていい』って言われているから、初めはどうしたものか悩んだものだ。
そこで、ご主人様が忙しい日は、午前中はお散歩、午後からはお買い物とお料理をするといった生活が続いている。
ご主人様が早く帰ってくるときは、一緒に晩御飯を作ったりもするのだけれど、今日は私一人でお料理しないと!
こうして私は、今日もいつものように、戸締まりをしっかりと確認し、大きめのマイバッグを肩に掛けて、お部屋の外へと出ていった。
…………
「あ! アミィちゃん! おはよう。今日もお出掛け?」
お部屋から出ると、扉のすぐ横から私と同じ、メイドアンドロイドが話し掛けてきた。
「リューネさん! おはようございます!」
このメイドアンドロイドの名前は『リューネ』さん。同じマンションに住んでいるご夫婦のメイドさんだ。
私がご主人様の元へやって来てから、何度か顔を会わせるうちに顔馴染みになって、今では時々話し相手になってもらっている。
「今日もいつもと同じ公園へお散歩です! そういえば、今日は赤ちゃんは一緒じゃないんですか?」
「うん、今はお部屋でぐっすり眠っているところよ。私も赤ちゃんが起きないうちに部屋の前のお掃除を済ませないとね!」
「ご、ごめんなさい! お掃除の邪魔をしてしまいましたね……」
「大丈夫大丈夫。それより、最近は物騒だから、気をつけるのよ? 響さん、アミィちゃんにぞっこんみたいだから、何かあったら大変よ?」
「そんな! ご主人様と私はそんな……」
言えない、いくらリューネさんにでも、これだけは言えない。
「冗談よ冗談! もう、アミィちゃんったら、か~わいいんだからぁ~」
「リューネさん! ほっぺをぷにぷにするのは止めてくださあ~い!」
こうして、私はリューネさんと別れ、いつもの公園へと歩いていく。天気は雲ひとつない快晴、秋も深まってきて、気温もぐっと下がってきた。今日は特に寒い、今日は暖かいお料理をご主人様に作ってあげようっと!
…………
しばらく歩くと、『高天崎中央公園』へと辿り着いた。ここはご主人様と初めてのお出掛けをした想い出の場所。
繁る緑はご主人様と出会った頃より色褪せて、少し物寂しい雰囲気になっていた。
そして、私が初めて『もう一人の私』になった場所。正直、あのときのことはあんまり覚えていないし、思い出したくない。
せっかくのお出掛けが私のせいで台無しになってしまったんだ。それでも私はこの公園が嫌いになれない。
やっぱり、ご主人様が初めて連れていってくれたときの嬉しさの方が勝っているってことなのかな。
そんなことを考えながらレンガ敷きの遊歩道を歩いていると、突然私の方に何かが飛びかかってきた!
「きゃあ!」
私はその飛びかかってきた何かにもみくちゃにされる。何だか暖かくて、ふさふさしたものに。
「ワンワン!」
「アウ~ン」
「キャンキャン!」
「コラ! お前たち、止さないか! 離れ……アイタタタ!」
ひとしきりもみくちゃにされた私は、何とか立ち上がって、周囲を見回した。
すると、大きな白黒のハスキーと、それより少し小さい茶色のシェパード、そして小型の柴犬がおじいさんの回りでお座りをしていた。
おじいさんは身を屈め、腰を叩きながら立ち上がり、私に話し掛けてきた。
「ああ、済まないねえ。うちのやんちゃ坊主どもがお前さんの服を汚してしまって。お前さんは……」
「わ、私、アミィと申します! それより、大丈夫ですか!? おじいさん、腰が……」
「いやいや、これくらいは慣れっこさ。済まないねえ、アミィちゃん。今日のところはこのクリーニング代で勘弁しておくれ」
そういって、おじいさんは財布を取り出し、お札の束を私に差し出した。
「いえ! この程度でそんな受け取れません! それより……」
そうだ、おじいさんは今ので腰を痛めてしまっている。このままおじいさんを返すわけにはいかない、私はおじいさんに提案をした。
「おじいさん、もし宜しければ、私にわんちゃんの散歩のお手伝いをさせてくれませんか?」
「いやいや! 本当に大丈夫じゃから……」
「でも……でもぉ……」
「解った! 解ったから泣かないでおくれ、アミィちゃん。それじゃあ、このリードをもってくれんかの?」
そう言って、おじいさんはリードを私に差し出した。私はそのリードをしっかりと握り、わんちゃんたちを先導しようとした。
「「「ワウワウ!」」」
すると、三匹のわんちゃんが一斉に走りだし、私はズルズルと引きずられてしまった。
「わわわ! わんちゃんたち! 待って、待ってぇ~!!」
これじゃあこっちが散歩させてもらっているみたいで恥ずかしい。お願いだから、止まってぇ~っ!!
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