幼馴染みの婚約者を取られてパーティーを追放されたけど、今は聖女と幸せに過ごしています~魔法剣士がスローライフを目指す~

私と別れてくださいと言ったくせに助けてほしいだと?話しかけてくるなよ
わんた
わんた

嫌なことを思い出させる必要はないさ

公開日時: 2020年10月17日(土) 23:29
文字数:1,135

親父から離れて席に座った俺は、ソフィーの目を見ながら出会った頃の話をする。


「確か5年ぐらいだったか? そのぐらいに一度、パーティ全員で偶然、この村に来たことがあった。その時にちょうど、魔物に襲われて困っていたんだよ」

「それをパーティが救った。そういうことですか?」


だったら良かったんだがな。子供に聞かせる話では、英雄的な行為をする冒険者もいるが、実際は違う。

もっと利己的で打算的だ。


「依頼料が足りなかったからパーティとしては引き受けなかった」


相手は人食いオーガ、依頼料は銀貨5枚。二、三日の生活費にしかならない金額だった。


当時は凶作が続いて村の収入が減っていたようだったので、これ以上のお金を出したら明日を生きられない。そんな状況だったので、依頼人を責めるわけにもいかなかった。だが、冒険者が依頼人を助ける理由にはならない。


相場より低いのに、命を懸けてオーガを討伐しようとする冒険者なんていなかった。


「だが、コイツだけは違った」


俺の話を引き継ぐように親父が語りだす。


「前日に、うちの嫁がオーガに食われたんだ。ヘルミーネのやつが村のど真ん中で泣きわめいてな……その時だ、ラルスが現れたのは。”敵をとってやる”と、頭を撫でて森の中へ一人で行ったんだよ」

「そんなことが……」


ソフィーさんが、冒険譚を聞いている子供のように、目をキラキラと輝かせながら俺を見ている。

あの時の俺は若かったからできたことだ。今なら無視している自信があるぜ。ほ、本当だからな……?


「一人で森に向かう姿は、真の冒険者って感じでかっこよかったぜ!」

「それからラルスさんは、どうなったんですか?」

「どんな戦いをしたのかわからねぇが、しっかりとオーガの首を持ってきたぞ」


おいおい、だからこっちを見るなって。

魔法でちまちま削って戦っただけなんだから、期待するような話はできないぞ。


「やれることを、やっただけだ」


ソフィーの分かってますって笑顔はやめてくれ! 本当に地味で泥臭い戦いだったんだ!

期待するような華麗な戦い方なんてしてないんだぞ……。

この話題は終わりにさせよう。


「もう店じまいだろ、辛気臭い話は終わりしよう」

「……それは良いんだが、ヘルミーネには黙ったままかでいいのか?」

「嫌なことを思い出させる必要はないさ」


あの時は後ろ姿しか見ていなかったし、覚えてないのは当然だ。蒸し返す必要もない。

オーガを倒して報酬をもらった。正式な取引であって、恩を着せるために戦ったわけじゃないからな。


「部屋に行く。親父、俺の鍵は?」

「それでいいんだな」

「しつこいぞ。鍵をくれ」

「わかった」

「ソフィーさん。また今度」

「はい。またお会いしましょう」


軽く手を挙げて別れの挨拶をすますと、親父から部屋の鍵を受け取って階段を昇って行った。

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