親父から離れて席に座った俺は、ソフィーの目を見ながら出会った頃の話をする。
「確か5年ぐらいだったか? そのぐらいに一度、パーティ全員で偶然、この村に来たことがあった。その時にちょうど、魔物に襲われて困っていたんだよ」
「それをパーティが救った。そういうことですか?」
だったら良かったんだがな。子供に聞かせる話では、英雄的な行為をする冒険者もいるが、実際は違う。
もっと利己的で打算的だ。
「依頼料が足りなかったからパーティとしては引き受けなかった」
相手は人食いオーガ、依頼料は銀貨5枚。二、三日の生活費にしかならない金額だった。
当時は凶作が続いて村の収入が減っていたようだったので、これ以上のお金を出したら明日を生きられない。そんな状況だったので、依頼人を責めるわけにもいかなかった。だが、冒険者が依頼人を助ける理由にはならない。
相場より低いのに、命を懸けてオーガを討伐しようとする冒険者なんていなかった。
「だが、コイツだけは違った」
俺の話を引き継ぐように親父が語りだす。
「前日に、うちの嫁がオーガに食われたんだ。ヘルミーネのやつが村のど真ん中で泣きわめいてな……その時だ、ラルスが現れたのは。”敵をとってやる”と、頭を撫でて森の中へ一人で行ったんだよ」
「そんなことが……」
ソフィーさんが、冒険譚を聞いている子供のように、目をキラキラと輝かせながら俺を見ている。
あの時の俺は若かったからできたことだ。今なら無視している自信があるぜ。ほ、本当だからな……?
「一人で森に向かう姿は、真の冒険者って感じでかっこよかったぜ!」
「それからラルスさんは、どうなったんですか?」
「どんな戦いをしたのかわからねぇが、しっかりとオーガの首を持ってきたぞ」
おいおい、だからこっちを見るなって。
魔法でちまちま削って戦っただけなんだから、期待するような話はできないぞ。
「やれることを、やっただけだ」
ソフィーの分かってますって笑顔はやめてくれ! 本当に地味で泥臭い戦いだったんだ!
期待するような華麗な戦い方なんてしてないんだぞ……。
この話題は終わりにさせよう。
「もう店じまいだろ、辛気臭い話は終わりしよう」
「……それは良いんだが、ヘルミーネには黙ったままかでいいのか?」
「嫌なことを思い出させる必要はないさ」
あの時は後ろ姿しか見ていなかったし、覚えてないのは当然だ。蒸し返す必要もない。
オーガを倒して報酬をもらった。正式な取引であって、恩を着せるために戦ったわけじゃないからな。
「部屋に行く。親父、俺の鍵は?」
「それでいいんだな」
「しつこいぞ。鍵をくれ」
「わかった」
「ソフィーさん。また今度」
「はい。またお会いしましょう」
軽く手を挙げて別れの挨拶をすますと、親父から部屋の鍵を受け取って階段を昇って行った。
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