翌日の朝。昨日は早く寝たこともあり体調は良好。パーティに追い出された俺が言うのも変だが、気分がいいのだ。
パーティを抜けてから数日経過しただけだというのに、もうアイツらの顔が思い出せない。コレットも例外ではない。
あれだけヒドイ仕打ちをされたんだから、もっと長く恨み続けると思っていたんだけど、そんなことはなかった。むしろ清々した気持ちになっている。苦い思い出として思い出すことはないだろう。とはいえ「俺が幸せになることが最大の復讐だ」とは思わないけどな。
「腹が減ったな」
ベッドから起き上がると身支度をして一階に降りる。
親父が立つカウンターの前に座ると注文をした。
「朝食を一つくれ」
「あいよ」
作り置きされていたパンとスープが置かれた。人口もさほど多くない村だから料理のバリエーションは少ない。俺は料理が苦手だからやろうとは思わないが、珍しい食べ物を出す屋台とか飯屋は意外と需要があるかもしれない。いや、すぐに飽きられてしまうか?
そんなことを考えていると、親父が話しかけてくる。
「お前が部屋に戻った後、ソフィーちゃんから聞いたぞ。婚約者を寝取られたんだってな」
ニヤニヤと笑いながら、無神経なことをズカズカと言いやがって。
スープが入っている木製の皿を顔面に叩きつけようと思ったが……それより、効果がある方法を思いついた。
「うっさいな。ヘルミーネちゃんに浮気していたことをバラすぞ」
「おいおい、俺がそんなことするわけないだろ?」
「三番街、バーバラ娼館のミレーヌに――」
「ストップ! ストップ! 何でお前が知っているッ!」
クソッタレ勇者のリヒトが通ってたからだよ。
魔法使いのローザと、回復師のエヴァを侍らせているだけでは足りずに、プロのお姉さん方にもお世話になっていたって訳だ。しかもあの二人が許可して利用していたと言うことだから、俺の理解の範疇を超えていた。
あの時はくだらない話をするなぁといった感じで聞き流していた。こんなところで使えるとは思ってもみなかった。
「俺が止める理由があるか? 先にふっかけてきたのはどっちだ?」
嫌みったらしく嗤ってみせる。
別にそこまで怒っているわけではないが、なめられるわけにもいかないからな。実力主義で生きてきた冒険者の悲しい性ってやつだ。
「分かった。俺が悪かったって! 料理を一品追加する。それで手打ちにしないかッ!」
「肉だ」
「わーってるって! とっておきのを持ってきてやる」
カウンターの裏に消えた親父の姿を見ていると、隣に人が座った。
ふんわりと甘い香りが漂っていてそれだけで誰だか分かるというものだ。
「おはよう。ソフィーさん」
「おはようございます。朝から仲が良いですね」
この村には不釣り合いな美少女がこちらを見ていた。
そういえば、俺と一緒で移住するだっけな。しかも二度も同じ席に座って食事をするなんて不思議な縁を感じていた。
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