「ごめんなさい、ラルス。私と別れてください」
子供の頃から一緒に育ち、自然と恋に落ちて付き合った幼馴染みのコレットから、別れの言葉を告げられた。
後ろにはパーティリーダーであり、国に認められた勇者でもあるリヒトが薄ら笑いをして俺のことを見ていた。左右には魔法使いのローザと、回復師のエヴァを侍らせている。パーティー内でハーレムを作っているのだ。
そして、俺の返答を待たずにコレットがリヒトのところに戻ると、そのグループに加わったのだった。
別に俺は驚いてはいない。思っていたよりショックも受けていなかった。随分と前からコレットが寝取られていたことは分かっていたからだ。それでも俺から別れを切り出さなかったのは、いつか戻ってくると信じていたからだったのだが……どうやら無駄だった。
人の心は移ろいやすいのは分かっている。別の男を好きになっても恨みはしない。だが、せめてもっとましな別れ方は出来なかったのだろうか?
リヒトと付き合って、性格までねじ曲げられてしまったのであれば、残念な話だ。
「ってことだ。さっさと俺のパーティから去って行くんだな」
リヒトが嫌みったらしい声が俺の耳に届く。
「あなたと付き合っていたことなんてすぐに忘れたいから、今日には出て行ってね」
俺のことはもう見たくないらしく、コレットがリヒトの胸にうずまった。
ローザとエヴァが慰めるようにして彼女の背中をさすっている。
この場では俺が完全に悪者だ。何を言っても拒否されてしまうだろう。
まぁ、こんなことされてまでパーティにいたいとは思わないから、嫌われていても構わないのだが。
それに、もうコレットに未練はない。俺の知らないところで勝手にやってれば良い。そう思えるまでには気持ちの整理は付いていた。
「分かった。出て行くぜ」
そう言って騒がしい酒場を出ようとした俺を、リヒトが呼び止める。
「おいおい待てよ。パーティーの資産なんだから、荷物は全部返せよな」
あぁ、ダンジョンで見つけて俺が使っている剣や鎧のことを言っているのだろう。くれるという約束だったはずだが、もう覚えていないのだろう。
冷めていた心がさらに冷たくなっていく。
そこまでしたいのであれば、もう何も言わない。好きにすれば良い。
「全部返してやるよ」
身につけていたものは全て床に置いた。
俺が持っているものは、身につけていた服と二ヶ月分ほどの生活費しかない。
冒険者として活動を続けるには心許ないが、再スタートするには十分な金だ。
パーティーを抜けた俺は、引退するならここに住むと決めていた村に向かって歩き始めるのだった。
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