幼馴染みの婚約者を取られてパーティーを追放されたけど、今は聖女と幸せに過ごしています~魔法剣士がスローライフを目指す~

私と別れてくださいと言ったくせに助けてほしいだと?話しかけてくるなよ
わんた
わんた

クソッ、錆びだらけじゃないか

公開日時: 2020年9月15日(火) 13:56
文字数:1,096

パーティを追い出されて一人になった俺は、海と山に囲まれたヤンという小さな村に向かっていた。


人口が数百人程度の規模だが、旅の中継地としても利用されることもあり、閉鎖的な雰囲気はない。村人はみんな旅人を歓迎し、また移住者にも協力的な場所だ。


保存食を買い込んで、街道を歩く。

一人になったら寂しさのあまり後悔するかな? と思ったけど、そんなことはなかった。むしろ重しが取れて晴れ晴れとした気持ちだ。


人通りの多い街道を進んで宿屋町で一泊してから、さらに進む。そのころになると道は細くなり、すれ違う人もまばらになってきた。


「この森を通り抜ければ、ヤンにつくな」


歩きながら干し肉をほおばると、中に入っていく。

その瞬間、敵意のこもった視線が俺を貫いた。


この森には魔物がいるのか。数年前に訪れたときはそんなことはなかった。いたって平和な普通の森だったのだ。

環境に変化があったのか。もしかしたらダンジョンが発生しているかもな。


丸腰なので武器を構えることはできないが、まぁ問題ないだろう。

これでも前のパーティでは斥候の役割をこなすこともあったので、気配の察知には少しだけ自信がある。


不意打ちされないようにと慎重に進んでいくと、視線も同時に進む。


こいつを逃がせば他の旅人が襲われるのは間違いないだろうから、面倒でもここで仕留めるか。


視界に入った切り株に座ってあえて隙を見せる。水袋を取り出して水分を補給していると、ガサガサと草の音が聞こえて三匹の小鬼——ゴブリンが出現した。それぞれこん棒、剣、槍といった武器を持っていて、憎しみがこもった目をしていた。


魔物がなぜ人を憎むなんて知らない。

俺にとっては、敵だという事実だけで充分だ。


手を前に出して体内の魔力を練り上げる。


――エネルギーボルト


周囲に数十本の矢が浮かぶと、ゴブリンに向かって放たれた。

無手だと思って油断していたヤツらが回避できるはずもない。穴だらけになると、汚い悲鳴を上げて絶命した。


俺の職業は魔法剣士。


剣と魔法の両方が使える。よく言えば万能型の冒険者だ。武器がなくても戦う方法はいくつもある。文句を言わずにリヒトに武具を渡したのも、なくても困らないからだ。


「さて、ゴブリンの剣は……クソッ、錆びだらけじゃないか」


これじゃ使い物にならない。売り物にもならないだろう。

死体は森にすむ動物たちの食事になるから、処分することはせずに先に向かうことにした。


その後も、何度か魔物に襲われることもあったが、魔法で撃退して順調に進む。


日が暮れるころになってようやく森を抜けると、眼下に村が見えた。

変わらない姿に心の中で安堵する。あの心地よい場所は、今もそこにあったのだった。

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