パーティを追い出されて一人になった俺は、海と山に囲まれたヤンという小さな村に向かっていた。
人口が数百人程度の規模だが、旅の中継地としても利用されることもあり、閉鎖的な雰囲気はない。村人はみんな旅人を歓迎し、また移住者にも協力的な場所だ。
保存食を買い込んで、街道を歩く。
一人になったら寂しさのあまり後悔するかな? と思ったけど、そんなことはなかった。むしろ重しが取れて晴れ晴れとした気持ちだ。
人通りの多い街道を進んで宿屋町で一泊してから、さらに進む。そのころになると道は細くなり、すれ違う人もまばらになってきた。
「この森を通り抜ければ、ヤンにつくな」
歩きながら干し肉をほおばると、中に入っていく。
その瞬間、敵意のこもった視線が俺を貫いた。
この森には魔物がいるのか。数年前に訪れたときはそんなことはなかった。いたって平和な普通の森だったのだ。
環境に変化があったのか。もしかしたらダンジョンが発生しているかもな。
丸腰なので武器を構えることはできないが、まぁ問題ないだろう。
これでも前のパーティでは斥候の役割をこなすこともあったので、気配の察知には少しだけ自信がある。
不意打ちされないようにと慎重に進んでいくと、視線も同時に進む。
こいつを逃がせば他の旅人が襲われるのは間違いないだろうから、面倒でもここで仕留めるか。
視界に入った切り株に座ってあえて隙を見せる。水袋を取り出して水分を補給していると、ガサガサと草の音が聞こえて三匹の小鬼——ゴブリンが出現した。それぞれこん棒、剣、槍といった武器を持っていて、憎しみがこもった目をしていた。
魔物がなぜ人を憎むなんて知らない。
俺にとっては、敵だという事実だけで充分だ。
手を前に出して体内の魔力を練り上げる。
――エネルギーボルト
周囲に数十本の矢が浮かぶと、ゴブリンに向かって放たれた。
無手だと思って油断していたヤツらが回避できるはずもない。穴だらけになると、汚い悲鳴を上げて絶命した。
俺の職業は魔法剣士。
剣と魔法の両方が使える。よく言えば万能型の冒険者だ。武器がなくても戦う方法はいくつもある。文句を言わずにリヒトに武具を渡したのも、なくても困らないからだ。
「さて、ゴブリンの剣は……クソッ、錆びだらけじゃないか」
これじゃ使い物にならない。売り物にもならないだろう。
死体は森にすむ動物たちの食事になるから、処分することはせずに先に向かうことにした。
その後も、何度か魔物に襲われることもあったが、魔法で撃退して順調に進む。
日が暮れるころになってようやく森を抜けると、眼下に村が見えた。
変わらない姿に心の中で安堵する。あの心地よい場所は、今もそこにあったのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!