何ヶ月も経っても彼女は戻ってこなかった。
相談所に相談に来た相談者たちも相談神たちの様子がおかしいことに気づいたのだろう。神たちが集まって相談し始めたのだ。どうしたものかと悩んだ神もいた。だが結論は出ないままだった。そんなときだ。相談所に訪問者がやって来た。
それは転生の神様の妻神。つまりは女神だ。相談の神の嫁さんでもある。相談員と相談神と妻神は夫婦神なのだ。ちなみに神同士で結婚することができるのは相談員と妻のふたりのみ。他の神々は転生神との結婚ができない。転生神様は妻と相談の相談員、両方の夫であり父親という立場になる。つまりは家族みたいなものだ。「ちょっと相談があるんですけど」と言って相談室へと入ってきた。相談員が帰って来ないという。
神たちが言うには「転生神はなにを考えている?」とのことだった。転生神はこの世界の創造神だ。彼は全ての生き物や生物を生み出すことができた。だから彼が転生神になったのだ。しかし彼は転生の神であってそれ以外のことをしたことはないはずだが。神のひとりが転生神に疑問を投げかけると「どうなってもいいよ。だって転生は失敗していないもん。転生神は何も悪くないじゃん」と妻は答えた。「じゃあいったい誰が悪いのよ!」
すると転生の相談神が言った。「もしかしたら……相談員じゃないか」と。一同はハッとした。
確かにその可能性もあるなと。その可能性があるのなら探すべきだろうと皆で相談するのであった。相談員は女神が与えたチート能力を持っているから大丈夫だと誰もが考えていたからだ。相談神が神界から地上を覗くことができるように転生の神様は神界からこの世界を眺めることができる。しかしそれでも見つからないということは相談神が心配で堪らなかったのだろう。
こうして神たちは転生の神とともに相談員を捜すことにしたのだった。まずは手分けして捜索をしようということになった。相談の神と転生の神、それに相談神の妻神と相談神の部下の女神がこの世を見て回ることになった。残された女神、相談の神、それに相談の転生神がこの世のどこかにいる相談員を捜し回るのだった。相談員よ無事でいてくれと願いながら……。
だがその祈りは届かなかった。
ある日のこと、相談員が相談所に姿を現したのはそれから三年後のことだった。「久しぶり〜」と言いながら相談員が相談室に入ってくる。神たちは喜び相談員を歓迎するが、ひとりだけ違う神がいて、そいつも同じように相談室に現れた。神たちに相談員が見つかったという報告を受けてやってきたのだろうかと思えば「なんだこれ」と呟いた。相談員の顔が引きつっていた。
その神は転生の神だったのだ。
それからしばらくして転生の神は語った。相談員を見つけたが、そこにいたのは相談員だけではなかったと。転生の神々も集まって転生の神々は転生の神を質問攻めにした。転生の神が見たものは一体何だったんだと、転生の神が目撃したのはなんと赤ん坊の相談員を抱えた母親の相談員とそれを囲んで睨み合う複数の相談員と妻神と神がいたのだという。「どうなっているのですか?」
その疑問に神は言った。「わからん」
そのあとどうなったかというと。「その母娘の家に行ってきました」と女神は言う。
「行った?」
その問いに女神が「行きませんでした」と答えた。行くわけがないだろ! と突っ込むのを堪えた。
どうなったかというと相談の転生神は母娘に「その家は今空き家で誰も住んでいません」と説明した。どうせ空き家のことだから誰も取り返しに来ることもないでしょう、安心してください、もう二度とその家に近づかない方がいいですよと親切心からの助言をしたら母娘はその忠告に従って引越しをしたそうだ。その空き家は今では「幽霊マンション」として恐れられている。そしてこの話は相談所で話題になった。相談神も相談の転生神も興味深げな顔をしている。
「なんで母娘と連絡を取ろうって言わなかったのですか?」と尋ねると転生の神が言った。「僕も気にはなっていたのですが。しかし相談員と神、相談者と女神でダブルなのです。これはダブル相談なのではと思ったのですが、どうもダブルではなくて……」と口籠ると女神が首を傾げた。転生の神様が代わりに説明してくれた。
ダブルというのは「ダブル相談員」、「ダブル女神」という意味であるらしい。神は「転生の神」「転生の転生」と呼ばれることもある。つまり転生は「神隠し」や「転生事故」とも呼ばれるが神や相談者はそうは呼ばず単に転生と呼ぶことが多い。
神は相談員が転生したことを理解しているが、その転生者がどの神によって転生したのかを把握できてはいないのだ。転生の神は自分の神界からこの世を見通せる。転生の神である自分の力でこの世界を見る事ができるのだが相談の神の力も転生の転生の力も持っていない転生の神のことはよくわからない。だがその転生神はこう言う。「相談員さんは相談員さんのままでした」
その一言に女神たちは納得した。転生者であることを悟られないようにしていたのではないか、と。その転生神も転生の神で相談神であることを隠していたのかもしれない。転生の神は転生の神であるがゆえに神の中でも特異な存在であると。
相談の神、相談の神は神の最高位である創造神に次ぐ二番目の地位にある。つまり神の中では2番目に偉いということになっているが転生の神の方が地位は上なのだ。そしてこの神も神としては特殊だ。転生神は相談の神である転生の神に頼まなくても転生のスキルを使うことができてしまう。転生の転生とは転生神の仕事であり仕事ができるのは転生神のみ、というルールが存在するが相談の転生神はそれを破ることもできるという特殊な存在なのだ。
相談の転生の神は相談の神、すなわち相談の最上位者である。つまりは転生神であるといえよう。相談の転生神は転生の女神に相談の転生の転生について相談を持ちかけた。相談の神と相談の神の違い。それは上位の転生か下位の転生かの違いに過ぎないのだ。
転生の神様は言った。
「相談の転生神よ。君はいったいどういうつもりで相談の神を名乗ったのかね」
すると相談の転生神は困ったように「わかりません」と言った。「どうしてだね? 相談の神々の序列において君より格上の相談の神は他にもたくさんいる」と問われた転生の神は「さあ? ただの気分かもしれません」と答えたという。相談の神と転生の神。相談の最上位者と転生の最上位者のふたりがいると相談所は大騒ぎになった。ふたりとも相談室の常連だ。転生の神と転生の神が揃うなど滅多にないことだ。
相談員に話を訊きたいと思い、女神たちは彼女の足取りを追った。しかし彼女がどこに行ったかはまったく不明だ。「そもそもどこに消えたのですか?」と神のひとりが問うと、
「異世界だよ。女神が連れていったの」
神は呆気に取られた。
「異世界?」
相談員はこの世のどこかにいるのではと思われていた。だから女神が「お宅の相談員がいなくなったのですが、何かご存知ないですか」と言っても神たちも「はぁ、そんな人いましたっけ」と言うばかりだったという。だから神たちは相談員はどこか別の世界に行ったのではないかと推測していたがまさか神界から出てしまうなんて、相談の神がついていながらなんたる失態と責任を追及されそうになった転生の神だが彼は言った。
僕はこの相談所が気に入っています。相談をするのはこの世で悩みがあるからです。相談のスキルで人の悩みを聞いてアドバイスをするのもこの世で困っている人々を助けたいと思っているからです。
しかし彼女は困っている人々に救いの手を差し伸べることなく姿を消したのです。相談の転生神として、そのような不義理は看過できないものです。だから女神様、私はこの相談所の守護神になりましょう。この相談所に害をなす悪神どもに天罰を下す守護神に! こうして相談の神は守護神へと転職することになったのだった。その相談神は今でも神たちとともに相談員を見守っているのだと噂されている。
女神が語った話を聞き終えた一同のうち最初に反応したのは相談の転生神だった。「僕に相談してもらえばよかったものを!」と怒っていたと聞いて一同はさらにドン引きするのだった。「どうしますか?あの人を呼び出しますか?もういないけど」
「どうするかねぇ」
皆して腕組みしながら悩んでいるところへ転生の神の部下女神がやってきた。相談室のドアをノックする音と、「失礼します、こちらに先輩は来ていますか?」という声とドアをガチャリと開ける音が同時に響いた。
入ってきたのはその後輩の女神だったのだ。女神の後輩は相談の受付担当でその業務には雑用も含まれていたのだ。後輩の女神に事の経緯を説明する。女神が相談室に出入りしていることを知ると彼女は驚愕したが事情を理解してため息をつくとその辺にあった椅子に座ってテーブルに頬杖を突き「先輩ったら本当に何をやってるんだろうなー…….でも」と前置きした上でその表情を変えぬまま言い放ったのだ。
「ちょっと懐かしいかもですね」
(終)
*
* * *
登場人物紹介(年齢は本編開始時)
■転生相談室・初代相談室長:「あなた、死にました。新しい人生送りたいと思いますか?送るならどんな人生を希望しますか?生まれ変わるとしたらどのような世界で、どの様な種族になりたいか、希望はあるかな?」が最初の会話。女神のくせに男っぽい喋り方。神に転生させる相談にくる転生希望者たちのことをよく知っているようで的確な質問や返答で転生を成功に導く手腕を持っている。
□相談の転生神(本名不詳):「神界一の情報屋」「神界の知恵袋」と呼ばれている神。相談にやってくる女神たちから転生についてのさまざまな情報を得て、女神たちが転生できる方法を見つけるために日夜頑張ってくれている親切なおじちゃん的存在。相談に来る女神がたに転生神と呼ばれることがあまり好きではない。※転生神については第2回カクヨムコン応募作に少し書いてある。
■相談の女神(名前無し/転生女神と自称することもあるが実は転生神に名付けてもらっただけ。本当の名前は別にある?)
相談室で悩みごとや悩みを持った客からの電話を受け、それを解決するため相談に乗る相談専門の神。だが悩みを持たない神からはクレームが殺到、転生の神からも煙たがられている。神界における相談窓口のようなものらしいが転生の転生の神に頼めよ。「私は神なのだ。私がいれば何でも上手くいくし、何者にでも成れるのだぞ?お前らは私の力を借りたいのではなく、利用したいだけだろ。まったく愚かな奴らだ」などと意味不明な言動を繰り返しており相談者の中には「あれは本物の狂人である」と断言するものもいたとか。だがその神の本質を見抜き、助言を求める神も少なくはないらしいが「神の助言」を信じるかどうかは受け手次第だろうと言われているらしいが実際はただ単に聞く耳持たずの我流神が多いらしい。神としては新参者であるがすでにベテラン顔負けの実績を上げているというが本人には自覚が無いらしく「何でこんなことになっているんだろう?おかしいぞ」と困惑していたとか。
「おいでませ異世界」というwebサイトの管理人だったのだが、ある日突然行方不明になってしまった。そしてしばらくした後「帰ってきたでござる!」とテンション高目で登場した。相談室で仕事をするときはこの格好をしている。
「えぇーっと、ここは何処でおじゃるか?」「神に説明は必要無いのだ」転生の女神は「そうでおじゃったでござ……」と言いかけたが咳払いをすると「ここではない。ここでは無いのだ。転生の相談室なのだよ」と言ったのだ。
「お帰り下さいなのだ。帰ってどうするの?ここはまだ君の世界ではないのだよ。さあさあ帰るべきところに帰れ」
「いやまだ拙者は死んでおらぬ」
相談室の常連で、その仕事ぶりを見て「神だ。あいつは神の所業を体現しておられる。神だわ。あそこに神がおわすでおじゃるで」と言われてしまう。転生相談をする者の多くは「転生」というものがよくわかっていない場合が多い。転生はどういうことなのかを転生神はわかりやすく解説してくれるし、そのアドバイスはいつも的確だという。だが転生相談の受付は夜九時と決まっているが深夜の十二時過ぎに受付に来た転生希望者がいたりするので「なぜだ!今は午前一時だぞ。寝ぼけておるのか!?」と怒ると「あっすんまそん。眠いんス。あとはお願いしますね」
■転生の転生の神(本名不明/神であること以外不明)
転生相談の神とは同僚だと思われていたが実際は上司と部下の関係である。神格はかなり高いらしいが何しろ謎だらけの存在だそうな。転生の神とふたり合わせて神界の名物コンビだったがある日を境に片方が行方不明になり、残された方が代わりに転生の受け付けを担当することになった。しかし彼は神なので本来業務には支障がないはずなのに「私には荷が重すぎます。助けてください」と言って他の女神に泣きついてきたのだと噂されていた。しかし実際の転生の受付を担当している女神によれば転生神は真面目だし仕事もきちんとこなそうと努めているし、相談に乗ってくれてるときも「神です。僕は神様ですよ?あなたも知ってますよね?神ですよ?神様が言うんですから、信じますよね?」「僕がここにいることの意味をあなたはわかっていますか?理解できますか?神の言葉の重みを理解していますか?わかるでしょう?だからあなたの魂を僕に預けてください。転生させましょう。あなたは神ですから大丈夫。問題ありません。転生させましょう」
などと言い出し、「この人はちょっと頭がアレかもしれない」と皆に囁かれていたらしい。
■「神のお告げ」という相談を受けた女神:「最近神を名乗る変人が増えてきましたね」と愚痴を零すと相談の神の後輩が神が相談してくるなんてよくあることだと言っていた。相談の内容を聞いた相談の女神は思わず「嘘だ!」と叫んだという。なぜならそれは「神のお告げでごじゃるでござんしょう?」というものだったからだ。相談女神も神だ。しかも転生の女神である彼女が「そんなのありえないでしょ!」と言うものだから周りが騒然とし、その後後輩女神の相談を受けて相談女神が慌ててその「神」と名乗るものを呼び出すと「本物でごじゃったのだ!」と驚いたそうだ。
■女神に転生した転生神(元女神)の友人(本名?不詳)
その友人は相談室の受付で転生神と一緒に受付の仕事をしている神で、神になったばかりだ。転生神に色々教えてもらったり転生業務について教わったりする仲。時々転生神のことを「先生」「先輩」と呼んだりしている。だがその正体は不明であるらしいのだが、実は転生神と旧知の神だった。女神に相談者が転生相談にやってきたときに相談の受付をしていたのだが相談の女神が急に慌てたような口調になって、どうしたんだろうと思っていたら、相談にやって来た女がとんでもない提案をして来たので「え?は?え?は?」となり、その言葉遣いで「あの人が神だわ……」となったとかなんとか。だが、彼女は本当に神だった。転生の神が彼女の素性を知って驚くことになるがその時のことはまた後日ということで―――
登場人物がどんどん増えてますけどまだまだ増えていきますので気をつけてください
■異世界(転生相談室)
転生の神様の転生神が相談室の受付をしていて転生の女神は転生神の先輩という設定
■女神たちのいる世界(転生女神のいた場所)
神たちの住む場所で神様たちの集まる町みたいなものがあるそうです。転生神もそこに住処があるようですね。神界にもいろいろあるのです
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