【完結:怨念シリーズ第7弾】潤一郎~怨念のサークル~

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地獄へ

公開日時: 2021年10月2日(土) 16:29
文字数:4,449

急いで笠置ダムへと駆けつけた侑斗はスマートフォンの電波が繋がる場所へ駆けつけて楠木に電話を掛け始めた。


「あっもしもし、先生!侑斗です!大変です!大変なことが起こりました!潤一郎の御霊が米満さんの上司に取り憑いて大暴れをしています。僕一人の力では未成仏霊の数が多すぎて太刀打ちすることが出来ません!至急応援を呼んでいただけませんか!お願いします!」


侑斗が楠木に話しかけると、楠木はこう切り返した。


「大丈夫だ。安心しなさい。わたしの知り合いに名古屋で除霊を行っている夜明静を呼んできたし、また野澤神父と星弥君も一緒について来てくれた。今まさに朝鮮トンネルの近くまで来たから、米満君の上司がいる場所を教えてほしい。」


楠木がまさか近くまで来ているとは思ってもいなかった侑斗は言葉を震わせながら楠木に話し始めた。「ありがとうございます。潤一郎の御霊に取り憑かれてしまったのは熊さんという方です。朝鮮トンネルの横にある洞穴付近にいます。」と語ると、楠木は「わかった。今からそちらへ向かう。侑斗君は安静しなさい。」と言われて電話を切られるのだった。


電話を切り終えた侑斗は、「安静にしなさい。」と楠木から言われても居ても立っても居られないそんな心境だった。たまらず朝鮮トンネルへと引き返すことにした。


「俺だって何とかしてあげたい。」


その思いで再び朝鮮トンネル脇の、花山の車を安全に発信できる場所へと車を停車させると急いで米満と花山の元へと駆けつけた。


すると目を離した隙に、潤一郎の御霊に憑かれた熊がさらに暴れていた。


侑斗が花山と米満の近くに来たが、2人は寄り添うようにしてぐったりとしていた。

2人の首には二つのハンカチーフが繋げた状態にあり、そのハンカチーフを茂みの枝に括り付ける形でお互いの首を絞め合い息絶えていたのだった。


侑斗は熊に「よくもこんなことをしてくれたな!地獄へ送り返してやる!」と強く主張し右手に数珠を持ち御経を唱え始めた。


侑斗が気を集中し精神統一を行ったところで、悪霊退散のための御経を唱えた。


その様子を見た熊は笑いながら侑斗に指摘をした。


「楽しい呪文を聞かせてくれてどうもありがとう。残念ながらその言葉は俺には通用しない。宗教というのはな、所詮”言葉を信用したら必ずあなたは報われますよ”と言って売り文句にしているのと同じことだ。大昔の、それこそユダヤ教の教祖のモーセが生きていた時代にまで遡るが、その当時は今とは違い法律などが存在していなかった時代だったために、世界は無法地帯と化していた。その中で宗教を信仰するという事は、法律がない代わりに宗教の教えで治安を維持していたということになる。時代は変わり法律が世界各国に作られていくにつれ、宗教というのは信仰の対象でしか過ぎなくなった。君が話してくれた言葉は死後になったらわかると思うよ、これほど身に染みて嬉しいと思える言葉は無いからね。しかしサタン様に忠誠を誓った今の俺には有難い言葉などは不必要だ。君は俺を天国に行かせようとしてくれているのは痛いぐらいわかっている。しかし安心無用だ、俺はサタン様がいつも見守ってくださっている地獄に俺は行きたいんだよ!」


その言葉を聞いた侑斗は「熊さんじゃない。潤一郎だな。いい加減熊さんを解放するべきだ!俺が安心して潤一郎を地獄の底まで突き落としてあげるよ、二度と這い上がってこれないようなところにまで突き落としてやる!」と強く言い放つと、熊はさらに爆笑をし始めた。


その様子を見た侑斗は右手に持っていた数珠を天に向かって伸ばし、悪霊退散のための御経を唱えると、効果がなかったのかさらに腹を抱えて爆笑をし始めた。


「面白い!本当に面白い奴だ!いいぞ、どんどん唱えなさい!!」


侑斗は潤一郎に取り憑かれた熊を何とか開放をしようと必死になり、潤一郎が熊の肉体を借りて発している言葉にも決して耳を貸さなかった。


「絶対に地獄へ送り返してやる。」


その強い一心だけで、潤一郎と闘い続けた。


そんなときだった。後ろから車のエンジンが止まる音が聞こえると、「侑斗君!侑斗君!助けに来たよ!!」といって駆けつけて来てくれたのが楠木と応援で駆けつけてくれた夜明だった。2人は侑斗の側に駆け寄ると、目の前にいる熊に対して御経を唱え始めた。その後を追うように饗庭がやってきた。


饗庭は侑斗の肩をトントンと叩くと「侑斗、話は聞いた。憑かれたらしいな。俺は米満からこのLINEのメッセージを見て、侑斗一人だけでは駄目だと言って楠木先生と相談し合い、さらに名古屋でお世話になった夜明先生にも応援の依頼をして急遽駆けつけてもらったんだ。前に俺言ったはずだよな?ここにいる霊は、助けを求めている霊ばかりが集まっているんだ。俺らのような強い霊能力を持つ人間だと分かってしまえば取り込まれてしまう危険性だってあった。侑斗は霊能力のない花山さんや熊さんや米満を守らなければいけない立場だったのに真っ先に憑かれ早々と戦線離脱をしてしまった。こんなんじゃ、悪いけど憑かれてしまうぐらいならこの仕事辞めたほうがいい。結局君は何だ、5股をしていたのがバレて一斉にフラれた彼女たちのことが気がかりなのか。はあ~もてる男はつらいね。その上、”二股などしない真面目な交際をしてくれる人とを選びなさい”といった女の子にも手出しをしたってか。つくづくお前ってやつは、言葉にならないぐらい情けなさ過ぎて話にならない。母さんが侑斗の悪行を知ったら、間違いなく怒鳴るだろう。まあとにかく、侑斗は霊能力者としてでなく男としてもしっかりと修業をしてこい、出直してきなさい。ここは俺達で熊さんに憑く潤一郎と粘り強く説得を行う。侑斗では無理だ。」


饗庭に怒られた侑斗はシュンと立ちすくむと何も言えなくなってしまった。


その様子を見た饗庭は「そこで立ちすくむくらいなら邪魔でしょうがない。車の中にでも避難をしなさい。」と言われ、侑斗は「わかりました。申し訳ありません。」と深々と謝罪しその場を後にした。


饗庭、楠木、夜明の3人で御経が唱えられるが、熊は微動だにせずただ笑うだけだった。熊は3人の様子を嘲笑うかのようにさらに挑発するような言葉を発してきた。


「いいね、いいね。御祓いの正装の着物姿のオバサン二人に役立たずの警官一人か。もっと面白い事を言いなよ。そんな言葉は俺には通用しない!!」


熊がそう話すと強い風圧が3人を襲い掛かった。


熊は笑いが止まらず、さらにそんな3人を「効果はない。」とばかりに勢いよく突き飛ばしてしまうのだった。


しかしそれでも饗庭は屈しなかった。


「仏教の有難い言葉が通用しないって事か?それならこれはどうだ!?」


饗庭は持っていた聖水を熊に勢いよくかけると表情が変わった。


「てめぇ、何してくれるんだよ!いてぇじゃねぇか!!」


熊の動きが怯んだところで、饗庭が追い打ちをかけるように熊の顔のところまで近づくと、持っていた十字架を熊のおでこに軽く当てただけで十字架はあっという間に焼けた鉄のようになって、熊がおでこを両手で抑えながら悶え苦しみ始めた。


悶え苦しむ熊は目が白目に変わり、また顔の欠陥が血走っていた。


「悪魔は名前を教えてくれれば力が弱まり我々でも掌握をすることが出来るんだったね。さあ名前を名乗ってもらおうか。そうじゃなければ更に痛い目に遇うぞ。」


饗庭が言い放つと、さらに熱くなった十字架を熊の顔の近くまで見せつけるように示し続けた。饗庭は楠木に「先生、僕がキリスト教の御祓いの言葉を読み上げます。その間に潤一郎の骨壺に例のアレを注ぎ込んでください。」と語ると、楠木は「わかった。野澤神父が今用意をしてくださっている。」と話すと野澤が熊が弱っている隙を見計らい骨壺がある場所へと向かっていき、そしてゆっくりと蓋を開けた。


熊は段々と声がか細くなっていき、抵抗する様子が無くなると、ある言葉を発した。


「ルシファー、ルシファー、ルシファー。」


熊が発したその言葉を聞いた饗庭は「ありがとう。これで我々の勝利が確実の物になった。」と語ると、饗庭は今までとは違う言い方で語り掛けた。


「ラテン語でルシファーは光をもたらす者という意味になる。地獄での光の頂点としてもう一度墜ちて頂きましょう。」


饗庭がそう話した隙に、野澤は骨壺を開けたと同時に、骨壺のコンクリートの割れ目に赤い液体を一滴たらした。すると目の前にいた熊が更にもがき苦しみ始めると、雄叫びに近いような大声をあげながら、熊は木曽川のほうに向かって勢いよく走り出していった。


その様子を見た饗庭は「待って!待つんだ!!」と叫び熊の後を追いかけるが、そこに熊の姿はなかった。


饗庭が恐る恐る下を覗くと、そこには頭から血を流しぐったりと横たわる熊の姿があった。急いで駆け付けた野澤も熊の変わり果てた状態を見て言葉を失った。


「すまなかった、わたしがもう少し早く出てくるべきだった。熊さんは身をもって犠牲になってくださるとは予想だにしていなかった。」と話した後、「ルシファーはキリストの血で骨壺ごと封じ込めることは出来た。骨壺はもう一度埋め直し、この地にずっとあり続けたほうが良いだろう。もう一度蘇ってはいけない。そのためにはずっとこの地で、それこそダム湖に沈んだままのほうがいいと思う。」と語ると、饗庭は「野澤神父、何も悪くありません。名前を聞き出し、我々は然るべき方法で悪魔と対峙しその結果、犠牲を払う結果となってしまいました。こればかりは誰が悪いどうのこうのなど責められないことだと思います。」と話すと、野澤は「饗庭君。君がそう言ってくれるだけでもわたしは救われるよ。御祓いをしていて悔しいと思うことは尽きないが、きっと神は悪魔の犠牲になった方達の御霊を救ってくださるだろう。それしか祈ることはできない。」と話し出すと、饗庭は「今回は相手が強敵です。数多居る悪魔の頂点に立つ堕天使でもありますからね。バチカンで誇る百発百中の無敵のエクソシストがルシファーに憑かれた人への御祓いに挑んだとしても勝ち目はないでしょう。我々が憑かれなかっただけでも、有難い話です。ルシファーのために命を落とした熊さんには感謝しかないでしょう。」と言葉を詰まらせながら語り始めた。


一連の御祓いの様子を見終えた侑斗は恐る恐る楠木と夜明、野澤、そして饗庭の近くへと駆けつけた。


「楠木先生、夜明先生、野澤神父、そして兄ちゃん。こんな未熟でワガママな俺の代わりに御祓いを引き受けてくれてありがとう。俺はまだまだ修行が足りなかった。だから俺が守らなければいけなかったのに何一つ守れることも出来ず、俺が一番謝らなければいけない。本当に申し訳なかった。」


侑斗がそう言って土下座をし始めると、あるお願いをした。それは侑斗が花山の車でトンネル内を走行中に透視を行った結果、かつてこの地で起こった悲惨な事故について語り、犠牲になられた作業員の霊達の供養を行ってほしいと話し始めた。

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