【完結:怨念シリーズ第7弾】潤一郎~怨念のサークル~

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無念

公開日時: 2021年10月2日(土) 16:00
文字数:5,612

支倉に励まされた饗庭は「ありがとう。支倉。おかげで気持ちが楽になれたよ。また仕事場に戻るね。今の米満や侑斗のぐうすかいびきをかいて寝ているのも、見ていて安心させられたよ。茉莉子さん、いや俺のお婆ちゃんがきっと助けてくれたのだろうね。俺もお婆ちゃんに感謝しないといけないね。」とにこやかな笑顔で支倉に語ると、その場を後にした。


「今まで自分と血縁関係があることが分かっていても、父の育ての親でもある祖父母の事を饗庭は思い、決して本当の祖父母である樹のことや茉莉子のことをお爺ちゃんだとか、お婆ちゃんだなんて決して言わなかった。どうしたんだろう?」


支倉が饗庭の言動にふと疑問に思ったが、「まあ、深く考えるほどでもないか。」と思い再びベッドで横になり始めた。


ベッドに寝始めてから、4時間ほどが経った。



「はあ~眠れた!あれ?支倉?ここってどこ?俺宇宙にいたよね?」


米満が寝ぼけながら話すと、支倉も同時に起きて思わず突っ込んだ。


「起きろ!!いつまで宇宙にいるんだよ!!!」


支倉の言葉を聞いて米満はハッとなって目が覚めると同時に、支倉の隣で寝ていた侑斗も起きた。


「米満さん、支倉さん、ここ病院だよね?陸地に上がって通報したと同時にきっと俺達は安心しちゃって倒れたんだろうな。」


侑斗が語りだすと、支倉が「ああ。そうだ。」と答えると、侑斗は「病院にいると色々な、この病院でお亡くなりになった、或いは経った今お亡くなりになり魂が昇天していく、もしくはある方が意識不明の状態に陥り魂が昇天し始めた御霊が彷徨っていることに気が付いた。こんな場所は病院以外有り得ないからね。」と答えた。


支倉は「まあ病院だしね。ところでお兄ちゃんとさっきまで喋っていたんだけど、気が付いたか?」と侑斗に聞くと、侑斗は「え?兄ちゃん、さっきまで来ていたの?」と話し始めると支倉は「あれ?今まで饗庭の事兄貴って言っていたのにどうした?」と聞くと侑斗は「他の人がいる場では兄貴って言うんだけど、普段は兄ちゃんって呼んでいるんだよ。ほら、兄貴って言ったほうが響きがいいじゃないか。」と言うと支倉は「普段通りで良いよ。何もカッコつける必要なんてない。」と笑いながら話すと侑斗は照れ臭そうに笑い始めた。


その様子を見た米満は支倉に「饗庭は俺達の見舞い目的で来たのか?」と訊ねると、支倉は答え始めた。


「ああ、まあそんなところだろう。」


支倉があまりにもよそよそしい答えだったので、その場にいた米満と侑斗はすぐに疑問に思い始めた。


侑斗は「さては兄ちゃんに”秘密”とかって言われたのか?」と聞くと、支倉はギクッとした表情になり、その表情を見た米満は「お前は嘘をつくのがへたくそだな。顔に出ているぞ。”秘密を抱えています”ってな。どうせ、捜査情報でも何でもないのなら支倉に伝えたいことがあったからそれを伝えたってことだよな。だったら俺達にも教える義務はあるよな?」と問いただすと、支倉は「俺が言ったことは黙っていてほしい。」と話し、饗庭の話を語り始めた。


米満は「確かに。3歳の女の子の知識で知っていてはおかしい者ばかりだ。宗教上の身分だけでなく、生きていた時代や罪の程度も違う。」と語ると侑斗は「兄ちゃん、その女の子がどこに入院しているかって言っていなかったのか?」と慌てた表情で答え始めた。


「その子はもう危ない。時機に魂を奪われ、命を落とすのは目に見えている。バチカンに悪魔払いの申請をしているのならばその申請の許可を得るまででは遅すぎる。」


侑斗が語ると、米満は「どうして見ていないのに分かるんだ?」と訊ねると、侑斗が答えた。


「俺には見える。名前は伶菜ちゃんだな?」と支倉に聞くと、驚いた表情で「何で教えていないのに名前が分かった?」と質問をすると、侑斗は「支倉さんの話を聞いていた時に実は透視をしていた。その時にベッドの名前に”荻窪伶菜”と書かれてあったこと、それから悪魔憑きならではの表情になっていた。顔は青ざめ、目は血走っている。もう伶菜ちゃんに戦う余力などは残っていないだろう。」と語りだした。


侑斗は支倉と米満を呼び出すと、この話を聞いてしまった以上の注意を語りだした。


「良いか。悪魔というのは堕天使というのもあるし、過去に凄惨な事件を起こしたものが死後地獄に堕ち、死んでもなおこの世に戻りたい思いを募らせながら害を加え続ける場合がある。とりわけ堕天使とされるのはキリスト教徒でなくとも、降臨会で呼ばなくとも、その調べたり多少の興味を示しただけでも、呼んだわけでもないのに呼び出してしまうことだってあるんだ。決して宗教上だけの話だとは思わないほうがいい。最近だとゲームのキャラクターで綺麗なビジュアルでキャラクター化したりして実在する悪魔だとは知らずに興味本位で調べて憑かれてしまう事だってあるんだ。だから映画でもゲームでも宗教上で伝わる内容通りでその悪魔を登場させたりしない。制作をした側にも取り憑かれるリスクが高いからだ。」


侑斗がそう語ると、さらに話は続く。


「伶菜ちゃんは入院したことにより、より悪い霊が憑いて来てしまった結果になった。実際に伶菜ちゃんを見ていないので何とも言えないが、恐らくは伶菜ちゃんはどんなものに対しても非常に興味を示し、危険だと分かっていても強い関心を示すほどの子だったのだろう。だから自然と集まってきた悪霊たちに対して、伶菜ちゃんは話したいと思って近づいた結果、邪心を持った悪霊たちに体を乗っ取られてしまったのだろう。まあ入院する以前からあったのだろう。それが潤一郎が召喚した堕天使に違いない。家を越してきても、御祓いを済ませたとしても、伶菜ちゃんの飽くなき好奇心が悲劇を招く結果になったに違いない。伶菜ちゃんは自分がいない間に家族が死ぬなんて思ってもいない、言葉にならない思いを募らせ重度の鬱になったと同時に、伶菜ちゃんが抱える弱さに付け込むようにして、精神共々蝕まれたに違いない。」


侑斗が語りだす内容に、米満と支倉は身の凍る思いがして、背筋に寒気が走った。


米満は侑斗に「要は、饗庭が言いたかったのはこういうことだろ。”これ以上首を挟み込まないほうがいい”ってことだろ。よりによって潤一郎が呼び出した悪魔によって害を及ぼしていることを知ったらね。だとしたら、侑斗君だって身の危険を及ぼすリスクが高くなるって事じゃないか。」と語ると、支倉だけは違っていた。


「俺の祖父だったかもしれない人が、呼び出した悪魔によって苦しめられているのなら、俺だって何とかしなければいけない気持ちでいる。侑斗君。俺と一緒になって戦おう。俺から饗庭に伝えて、入院先がどこなのか連絡をするよ。」と語ると、米満は「待って!二人が戦うっていうのなら、俺だって戦う!」と話すが、侑斗は「支倉さん、米満さん。協力の姿勢を示してくれるのは嬉しいが、こればかりは危険が伴う。命を落とすリスクだって高いんだ。」と説得をするが、2人の気持ちは変わらなかった。支倉は「俺は侑斗君と饗庭と協力し合って伶菜ちゃんを説得する、米満が悪魔払いの様子を取材する形で記録を残すんだ。スクープになることなら編集長だって喜ぶだろ?」と聞くと、米満は「ああ。でも今は茉莉子さんを調べてわかったことを記事に仕上げる必要性があるから先ずはその記事を仕上げないと、ノートに書きまとめたことをWordにすら入力していない。こんな状況で次の取材を・・・。」と言いかけたところを、支倉が米満に話し始めた。


「原稿なんか〆切内に仕上げたらいい。それだけだろ?新たな取材をすることがあってそれが悪魔取材ならば、オカルト系ばかりを得意とする米満のところの出版社だったら喜んで食いつくだろ。」と語ると、支倉は「米満が取材をして悪魔の恐ろしさを伝えてくれたら、それだけで世間はきっと変わってくれる。引き受けてほしい。」と語ると、米満は「俺の判断だけでは無理だ。先輩と相談する。」と話し病室の外に出ると、厳木ダムに行くまでに相談していた熊に連絡を取ってみることにした。


米満は熊に悪魔憑きの少女の話をすると怖がるどころかかえって興味津々になって「俺も取材したい!!」と言って熱弁したのだった。


「ちょうど今、熊本市内で空に謎の円盤らしきUFOと思われる物体が多数目撃されたという話で撮影された写真のところに来ているんだけどね、UFOが現れる時間帯を絞って撮影を行っても現れなくてね、痺れを切らしていたんだよ。ちょうどよかった。米満と一緒に取材を行ったら、こんな退屈な仕事におさらばすることが出来る。悪魔払いの様子をカメラや音声でのデータ記録を残したら、誰もが現実に起こりえたことだと分かれば話題にもなり、またこのことを取り上げた特集本の販売にもなるだろう。編集長は決して反対はしないだろう。」


熊の後押しを受けた米満は「わかりました。2人で取材をしましょう。」と話すと、再び病室へと戻った。支倉は「やっぱりOKだったか?」と聞くと、米満は「熊さんも取材がしたいって話になった。」と答えた。


その答えを聞いた侑斗は申し訳なさそうな表情でこう答えた。


「2人がそう言ってくれるなんて思ってもいなかった。きっと伶菜ちゃんも喜ぶはずだ。早速、繋がるかどうかわからないが楠木先生に連絡をするよ。」


侑斗がそう語ると早速連絡をかけてみることにした。


「楠木先生。お疲れ様です。侑斗です。兄から聞きました、3歳の女の子の悪魔憑きの話ですが早速僕にも協力をさせて頂けませんか?」


侑斗が電話口でそう語ると、まるで疲れ切ったかのように楠木は答えた。


「残念ながらもう出番はない。わたしは何度も何度も眠っている伶菜ちゃんの魂に呼びかけた。しかしもう弱っていく伶菜ちゃんに悪と立ち向かう余力は残されていなかった。ラテン語で”Mea filia vita veniet(=娘の命は俺が貰う)”とわたしたちのほうを強く睨み始めると、6階の病室の窓ガラスに向かって勢いよく窓へ向かってダイブして、割れた窓ガラスを突き破るような形で転落死した。一緒にいた野澤神父も、そして立ち会っていた日野医師も、皆騒然となって言葉を失っているところ。饗庭君も勿論駆けつけて、正式な御祓いが認められるまで、非公式ながら出来る限り伶菜ちゃんに御祓いは行った。でも勝てなかった。悔しい、悔しすぎる。」


楠木がそう語ると、侑斗も思わず言葉を失う。


「どうしてもというのなら、鰐淵会総合病院に今いる。伶菜ちゃんは遺体安置所にいるが、報道を受け駆けつけたマスコミで病院の外はごった返している。3歳の女の子が窓ガラスを突き破り飛び降り自殺を図るなんて世間一般の常識では考えられないことが起きているからね。」


楠木に入院先の場所を教えてもらった侑斗は「ありがとうございます。意識は取り戻せましたので、今すぐにそちらへ向かわせていただきます。」と語り電話を切った。


侑斗は支倉と米満に「場所は分かった。元気を取り戻したから、急いで鰐淵会総合病院へと向かおう。」と話し、支倉と米満は口を揃えて「了解!」と返事をした。


入院先の医師に退院の許可を得た後、3人は呼び出したタクシーに乗り鰐淵会総合病院へと向かった。病院へとつくと、そこは各テレビ局や新聞局の取材用の車が多数停まっている状態で、中に入ることなど非常に困難な状況であった。


タクシーの運転手が入り口にさえ入ることが出来ない状態を見て「お客さん、悪いけどこれ以上入るのは難しいです。取材用の車が病院の玄関に入るための通路を塞ぎ、停められない車が病院の敷地外にも溢れかえっているこの状況では、近付くだけで精一杯です。」と語ると、侑斗は「僕たちは良いです。歩いて病院へと向かいます。」と語ると、3人で割り勘して運賃を支払うと、歩いて病院へと向かった。


多くの人々で賑わう中、何とか病院に入った3人。

侑斗が中に入ったと同時に楠木先生に連絡を取った。


「楠木先生、今どこのフロアにいるんですか?遺体安置所は何階にあるんですか?」と聞くと、楠木は侑斗に「今フロントに入ったところにいるのか?それならこちらから迎えに行くので、待合室のソファのところで待っていてほしい。」と指示を出し、3人は待合室のソファで待つことにした。


連絡を受けてすぐに楠木が3人の前に現れると、「ついて来てほしい。」と話し、3人はエレベーターで地下1階へと降りた。


ゆっくりと歩き進んでいるうちに遺体安置所と看板がある部屋に辿り着くと、部屋の外からも聞こえるすすり泣く声に、楠木はそっと声をかけた。


「今、伶菜ちゃんの父方と母方の祖父母や叔父・叔母が駆けつけている。伶菜ちゃんの亡骸を見たらそっと退散してあげてほしい。」


3人に話しかけた楠木の後ろから野澤神父が現れると、「侑斗君じゃないか。中学生の時に会ってから久しぶりだな。元気にしていたか?」と聞くと、侑斗は「兄のときは大変お世話になりました。この度はご愁傷様です。僕たちも兄から伶菜ちゃんの話は伺いました。亡くなったと聞いて居ても経ってもいられず駆けつけてきました。」と語ると、野澤は頷きながら「良いだろう。」と話すと、野澤は遺体安置所のドアを開けると、野澤の案内の元3人は中へ進んでいく。


伶菜ちゃんの顔にかけられていた野澤が白い布を取り外すと、それはまるで今までの苦労がようやく解放されて安堵した表情で眠りにつく伶菜ちゃんだった。3人は伶菜ちゃんを見て深々と合掌すると、その場を後にした。


遺体安置所を後にして近くにあったソファに腰を掛けた野澤が語りだした。


「伶菜ちゃんは身をもって悪魔を己の肉体に受け入れ、自ら犠牲を払ってくれたのかもしれない。常に気遣い、他人のことを思いやる優しい性格だったのだろう。未来ある少女がこんな形で失うのは辛いことだ。」と語ると野澤は涙を流した。

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