「僕は“変化系“の能力者だ。アンダーテイカーは三つの系統に分かれていることは理解しているかい?」
「それは勉強してる」
「オーケー。じゃあ話は早い。ドライブがもたらすもっとも重要な作用は、物質を構成する原子核内の運動の規則性を破ることだ。——つまり、一つの系の変形しうる度合い、【ある物理系の運動状態または平衡状態を表すのに必要な、任意に独立に変化させることができるものの数】を自由に増減させることができる。さて、ここで質問だけど、キミはこの世界をどのように捉える?」
「…は?世界??」
「僕たちアンダーテイカーが、”存在するようになった理由“。そのことについて」
「…そんなの、考えたこともない」
「そうなんだ。僕はしょっちゅう考えるよ。ペルソナたちが現れて、世界は一度壊れた。壊れた世界をもう一度作り直そうとして、僕たちは新たな「力」を手に入れた。この世界に実体はない。運命という概念も。魔法という便利な道具も。あるのは何の縛りもない「自由」だけで、そこに善と悪の境界はない。だから、さ。僕たちが得たこの「力」は、もしかしたらこの世界の”本来の姿”なのかなって思うんだ」
「本来…?」
「キミが抱える感情の一つは、何のために存在していると思う?キミはこれまでの人生で、何を目標にして生きてきた?」
「…復讐だよ」
「いいね♪じゃあその怒りの矛先は?何をもって「復讐」と定義付けてる?」
俺が、何を目標にしているか。
アンダーテイカーを目指そうと思ったのは、この腐った世界に抗おうと思ったから。家族を殺されて、大事なものを全て失った。昨日まであったものが、跡形もなく突然消えた。目の前で家族が殺されたんだ。友達も、大切な場所も、——何もかも。
「…奴らを、皆殺しにしてやりたい」
「奴らっていうのは、ペルソナのことかい?」
「それ以外に何があるってんだよ!」
「相当辛い思いをしてきたんだね。心中お察しするよ。でもね、僕が考えるに、僕たちがこうして何気ない日常を送っているのは、今世界で起こっていることと何も関係がないんじゃないかな、ってことだ」
「はあ??どういう…」
「僕たちの体を構成している物質は、原子という“粒”が集まってできている。原子の1つ1つは、素粒子と呼ばれる“粒”で結ばれている。こう考えたことはない?僕たちの「心」はどこにあって、「魂」はどのように構成されているのか」
「…全然」
「例えばキミが、ペルソナを憎むのも、憎まないのも、自由に選択できるとしたら?」
「意味が…わからないんだが」
「僕たちが自由に思考し、目の前の選択を選び取ることができるのなら、素粒子自身の“振る舞い”にも、自由な「軌道」や「余地」が存在するとは思わないかい?」
「振る舞い…つーのは?」
「考えてみなよ。原子核では絶えず原子運動が起こっている。原子の電子状態と運動状態の間の相互作用によって生じる現象を、“量子もつれ”という。『時間』と『分岐』はどこで発生するのか?『自由意志』とは何か?世界を構成する要素が「現象」という要素に束縛されているなら、この時点で僕たちに“自由”は無いということになる。なぜなら“現象”は僕たちが存在している、いないに関わらず、絶えず“起こって”いるからね。ということは、物質という固有情報は「存在」という定義に固定され、永遠に事象の“外”には出られなくなる。…ああ、悪い癖だ。ごめんね。話をややこしくしてしまって」
「何が言いたいんだよ…」
「そうだね。例えば僕が病院に行ったのは、“熱が39度を超えたから”とする。体温計を見た瞬間、僕は病院に行く決断をし、その後すぐに家を出た。まさにその瞬間に、病院に行く歴史が選択された。では体温計を見た瞬間が決断の瞬間で、この瞬間が病院に行く歴史と行かない歴史の分岐点に当たるというのは適切なのか?この例で言うと、哲学者が定義する「分岐点」とは、熱があって病院に行く歴史と熱がなくて病院に行かなかった歴史の双方を遡ったときの、その2つで共有する最後の歴史事象の時刻のことだ。体温計を見て、熱があったと分かった瞬間は、熱が無かった歴史の中では決して共有されないから、それは分岐点ではない、というロジックがある。そして自由意志が判断を下した分岐点はいつなのか?と問い出し、結局それは存在していないと述べる。このように、目の前の現象に寄与する要素の一つ一つは、さまざまな角度からの「自由」の境界が局所的に点在するんだ。僕たちの思考がいつ生まれ、また、それがいつ「分岐する=現在となる」のか。ドライブとは、物質の量、——【ある限られた時間や空間の中で連続的に動き回れる位置と範囲】の自由因子だ。世界はまだどの方向にも転ぶことができ、また、“いつでもサイコロを振り直すことができる”。だからこそ、ドライブという素粒子と結合した僕たちには、想像し得ない力を発現し、それをカタチにすることができるんだ」
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