学生寮の外に出ると、康熙がいた。榊原康熙(さかきばらこうき)。俺たちと同じ特待生で、クラスメイトの1人。風香と康熙、俺の3人は同じ“班”だった。これから行われる実技訓練の授業、「対ペルソナ軍事教育」と題された課題に向けて構成されたチームで、これから訓練場に向かうところだった。
「おっす」
「おはよ」
康熙も眠たそうだ。恐らく、俺と同じで起こされたんだろう…。風香は男まさりな性格で、口よりも先に行動で動いていくようなタイプだった。自分の言いたいことはオブラートに包まずに言うし、スカートの下にはいつも短パンを履いている。やさぐれてるわけじゃないんだが、女子っぽい一面がほとんどなかった。物静かな康熙とは真反対の性格をしていて、教室ではいつも明るい。せっかくキレイめな顔をしてるのに、体育会系のど真ん中を突っ走ってるせいで、周りからは“男気女子”の愛称で親しまれていた。
「他のクラスの生徒も来るんだろ?」
「今日は私たちだけだよ、多分」
「先に言っとくが、あんま役に立たないぞ…?」
「何弱気になってんのよ。記憶は無くなっても、体は覚えてるっしょ」
「それが、…全然」
特進コースの生徒は、「アンダーテイカーの候補生」の中でも“筆頭候補生”と呼ばれ、特別な才能を持った者たちのみが配属されている。ただ、この「才能」というのは“呪われた力”と言われ、周りからは快く思われていない。当然、俺自身もこの「力」について良く思ってなくて、なんなら捨てたいくらいだった。
「ÐP(ドライブゲージ)の扱い方も、まだ?」
「全然ダメ。昨日もイメトレしたんだけどな…」
康熙は右手を広げて、青く光るエネルギー弾を出してみせた。ボール状の形をしていて、手のひらの上でフワフワ浮遊している。「雷人(ライトニング)」の異名を持つ通り、康熙は自在に“電気エネルギー”を生成することができた。康熙が近くにいればコンセントは不要で、その気になれば頭の中で会話することも可能だ。風香や康熙は俺と違って自分の能力をそれなりに扱えており、アンダーテイカーとしての“力の引き出し方”は、1年生のそれとは比べものにならなかった。
「ドライブの意味はわかってる?」
「…なんとなくは」
「アンダーテイカーには「ドライブゲージ」って呼ばれるエネルギーの格納庫みたいな場所がある。そのエネルギーを“どう扱っていくか”が、戦う上で重要になってくるっていうか」
「自分の「能力」が何かもわかってないんでしょ?」
「わかってないっつーか、どうやってエネルギーを引き出すのかがわかんないんだよ」
「ダメダメじゃん」
「2人はどうやって?」
「何が?」
「どうやって能力を引き出せるように?」
「能力っていうか、自分が“何をしたいか”でしょ?先生も言ってたじゃん。アンダーテイカーになるには、まずは自分を信じること。その上で、自分の可能性を考えて、“自分に何ができるかを想像すること“が大事だって」
「言うのは簡単だけどさ」
「あんたは何がしたいわけ?最強になりたい?それとも…」
能力を引き出すコツは、人それぞれある。ただ、最も基本的なことは、”イメージをどう具現化していくか“だった。つまり自分の想いとか性格とか、普段から感じる個人的な感情や精神が「能力」の素子になり得る可能性を秘めていて、その人の人格形成に大きく寄与してきた時間や経験が、もっとも肝心なパーツの一つになり得るそうだった。
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