先生に促されるまま、俺たちはグループごとにエリアを区切って、ストレッチを始めた。8組のクラスだった俺らは、今回合同で参加している4組と6組のクラスとは分かれ、第2ゲート付近で場所を取りながらトレーニングの準備を始めた。スマホを見ると城ヶ崎さんから連絡が来てた。「今日の夜空いてないか?」って。ずっと考えてたんだが、俺と彼女はどんな“友達”だったんだろうか。スマホのメッセージは全部削除されてた。目が覚めたあの後、城ヶ崎さんと一緒に過去1年間のことを調べようと努力した。でも、ダメだった。
「康熙、いいもの見せてやりなよ」
「いいものって?」
「爽介にだよ。あんたの能力の「片鱗」をさ」
康熙は”雷人”と呼ばれているが、正確には「同調(シンクロ)」という能力を持っていて、自らの体内から発した電磁波を使って相手の細胞とリンクし、一時的に相手の思考や動きを“先読み”することができる。言葉で説明するとそんな感じだが、実際に受けてみたことはない。本人曰くまだコントロールが難しいそうで、精度はまちまちだそうだった。
「能力の基本は、自分を「知る」こと。先生が言うように、“特別なこと”はしようとしなくていい。速く走りたいとか、高くジャンプしたいとか、そういう漠然としたイメージを、より“具体化”していく作業。イメージをより微細化していくの。筋繊維の奥、一本一本の神経の線。体内の血流の音とか、そういう「ロジック」をさ?」
康熙と対峙して、俺は身構えていた。康熙はリラックスしながら、ふぅっと息を吐く。チリッと静電気が全身を駆け巡るような感覚があった。重力が逆流するような僅かな“軋み“が通り過ぎて、思わず息を呑む。時間が停止したような流れの”変化“が、康熙の身の回りで起こったように見えた。錯覚かどうかも定かじゃなかった。視点は固定してた。目を離さないようにじっと見てて、できるだけ真正面から受け止めようと思ってた。
ジジッ
思考が阻害されるようなノイズが走った。頭の中を弄られるような、そんな”ニュアンス“だ。フッと浮き上がるような浮遊感があった。視線は固定されたままなのに、景色全体が揺り動かされていくかのような——
「はい、殺(と)った」
…いつの間に!?
康熙は数メートル先にいた。一歩や二歩で近づけるような距離じゃなかった。にも関わらず、俺の胸元に手を当てている。手のひらを軽く押し込み、重心は前に迫り出していた。前足が交錯しながらも、——やさしく、そっと触れるように。一気に距離を詰めてきたとは思えないほどのフットワークだった。まるで、スプーンでそっと砂を掬い上げるかのような。
「ペルソナには多分通じないけどね」
「…通じないって、今の動きが?」
「いや、“思考の遮断”だよ。脳の中の電気信号を一時的に遮断し、意識の中に入り込む。技っていうか能力の部分的な応用かな。ちなみに、風香には通じないんだ。まだまだ精度が低くてさ」
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