「さって、んじゃ、行ってくる」
午後からの交流戦。広いフィールドを区分けし、生徒同士で10分間の模擬戦闘を行う時間がやってきた。俺は交流戦に参加できないって、さっき先生に言われた。俺だけじゃなく、まだうまく能力を扱えない生徒や、SPのコントロールが未熟な生徒は模擬戦闘を行うことができないっぽかった。下手したら、大怪我をしてしまう可能性もあるってことで。
「対戦相手は?」
「6組の岸谷って男子」
「強いのかな」
「さあ。無名だし、大したことないんじゃない」
それなりに強い生徒は、生徒を通じて噂になったりしてた。かくいう風香も、“一目置かれる生徒”の1人だった。特進コースには各クラスに何名かずつの優等生がいて、その優等生の中でも特に優秀な生徒を特集した『GALAXIAS(ガラクシアス)』という学生新聞がある。毎月注目の生徒がピックアップされてて、風香は先月号の表紙を飾ってた。
「康熙は何か知ってるか?」
「何かって?」
「相手のこと」
「…いや」
交流戦が行われる専用エリアの外側で、試合前の準備を行なっていた。交流戦に参加できるってことは、それなりに優秀な生徒だっていうことだ。遠目からだとよく見えないが、身長はそんなに高くない。ワカメでも貼り付けてるかのようなのっぺりした髪型に、痩せ型の体型。同い年のはずだが、年下にも見えた。黄緑色の軽量ジャケットには、大きいサイドポケットがついていた。風香は帽子を脱ぎ、イヤホンを耳から外す。
「風香が負けるとすれば、どんな相手だと思う?」
「…どうだろう。あんまりイメージできないかな。先生クラスだったら話は変わるけど」
風香の「強さ」は、日に日に理解できるようになってきた。アンダーテイカーの資質で最も重要なのは、SPのコントロールだ。——つまり、メンタル(精神)のコントロールに長けているかどうかが1つのポイントになり、風香はその点に於いて他の生徒よりも優れていると言える。試合開始の合図が鳴った。半径50mの広いスペース。円から外に出たら負けであり、「高さ」にも上限がある。と言っても、その上限はスタジアムの天井付近で、そうそうそのラインを越えることはない。合図がなると同時に風香はゆっくりと腕を上げた。トントンッと小刻みにジャンプし、手につけた薄手のグローブをキュッと握る。
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