MIX 〜彼女を寝取られた俺、学園一の美少女と朝チュンする〜

もうどうとでもなれ!
平木明日香
平木明日香

第32話

公開日時: 2025年2月10日(月) 20:58
文字数:957



 ドンッ



 両肘を畳んでいた風香のガードが、一瞬緩む。ほんのわずかに開いた両腕の隙間から、「がはっ」と口元を歪める風香の顔が見えた。前方からの攻撃は全て防いでいた。それだけじゃない。バックステップを踏むために後ろへと重心が流れていた。重心が後ろへ傾くと同時に敵との間合いは広くなり、攻撃への“スペース=直線距離”は自然と大きくなった。


 動きが、止まる。


 風香のガードが緩んだのは、正面から来る攻撃によるものじゃなかった。重心が流れる軌道線上にあったのは、後ろへのスペースに対する「信頼」だった。風香の選択は間違いじゃない。敵の攻撃は「前」からで、明らかに急所を狙っている。姿が見えないとはいえ、その攻撃には明確な「意図」があった。どんな選択や行動にも意図があるように、“意思のない攻撃は無い”。だからこそ明確なステップを踏み、後ろへの離脱を試みていた。


 意識の外。


 風香のバックステップは、戦況を立て直すための確かな一歩だった。スペースが空いたことへの安堵。風香の頭の隅にあったのは、後ろへと流れる重心が、揺るぎない決心の中に動いていたという点だった。攻撃を避け、次の動作へと繋げる。その意識の縫い目を切り離すように、真横からのサイドキックが、勢いよく風香の左脇腹を捉えた。


 脇腹はガラ空きだった。両腕は前方からの攻撃に備えるため、肘と肘がくっつくほど前にせり出していた。ボディへのヒットを防ぐためには、意識がある程度「下」にないといけない。そういう意味では、この段階でそれなりの防御意識があったことも事実だった。ただしそれは前方からの攻撃に備えていたものであり、“横”からではない。まして、意識は後ろへと逸れていた。攻撃が来る方向と、敵の意図。この時点に於ける戦況の分析として、風香の思考は“距離を作ることへの一歩”に注力していた。そこへ、想定していない角度からの攻撃が入った。



 モニターに青いランプが点る。



 「有効打」の判定だ。モロに食らったせいか、風香の表情は険しい。白い歯が荒い息遣いの中に露わになる。相手によってはこれ以上ないチャンスだった。ダメージがあった左脇腹を押さえる。意識の外から受けた攻撃ということもあり、風香は蹲ったような姿勢で地面に片膝をつけていた。防御の姿勢はおろか、ダメージの回復もおぼつかない状況だった。



読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート