「どんな能力の持ち主でも、SPの押し合いに巻き込まれれば丸裸になる」
SPの押し合い。
——別名、「ドライブの中和点」と呼ばれるが、相手のドライブ領域に自らのドライブ領域を“接触”させることで、一時的にお互いの能力が解除される。これを-アブソリュート(強制解除)-と呼ぶ。ドライブが構成する原子の原子核、その周囲を回る原子軌道を強制的に“同期“させ、均一で澱みのないエネルギー場を出現させる。アブソリュートとはまさに、戦いという場に於ける【絶対法則】の一つだった。
ジジッ
空間に透けていた相手の体が、メッキが剥がれたように露わになる。至近距離にいたわけでなかった。風香が左手で掴んだ「拳」は、あくまで岸谷零士の「能力」の一部。”本体”は、また別の場所にいた。
「…チィッ」
岸谷は「能力」が解けたことに対し、即座に対処しようとしていた。しかし、その動きには明らかな焦りが見られた。アブソリュートを発動させる条件は、「能力」と「能力」をぶつけること。しかしこれはたんに、“接触をすればいい”というわけではない。どんな能力にもエネルギーの“繋ぎ目”というものがあり、糸と糸を結ばせる繊維のように、複雑な線の「絡み合い」がある。たった一本の線では描けない形も、二本になれば描ける。2点では表現できない座標も、3点では表現できる。それと同じ原理で、それぞれのドライブ領域が編み出した「自由場=自己領域」が、いわゆる“エネルギー流域の結び目”となる分子間力を生み出していた。
能力が“ぶつかる”というのは、この場合で言えば剣の「刃」と「刃」の部分である。水と水が触れ合う領域、——あるいは、火と火が交わる領域。能力を扱うエネルギー場は常に連続的に変化し、変形と固着を繰り返している。エネルギーを自由に動かすことができる可動場と、連続変形できる“可能域”。しかしその方向や幅には最小となる“目”が存在し、独立した「編み目」というものが存在しない。より複雑で大きなエネルギーを生み出すには、エネルギー同士を繋げていく「場」と「時間」が必要になる。——つまり、連続変形できる“最小値”が、必要になる。「能力」とはいわばエネルギーとエネルギーの中間にある間接部であり、選択肢の「数」だった。「能力」の及ぼせる範囲と位置。その部分に対して接触できる「質点」があれば、他者の領域と自己の領域を“中和=相殺“できた。
「ここからは、素の殴り合いの喧嘩だな」
風香は相手の能力が解除されたと同時に、ニヤリと笑った。グッと腰を落とし、拳を握る。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!