それから数日が経った。
日向坂爽介は、記憶を失う前と同じように学校生活を送っていた。
いや、「同じように」ではなかった。
彼が覚えているのは、1年以上前のクラスメイトとの関係。
だから、今の自分を取り巻く人間関係がどこかズレているように感じることがあった。
「あれ? お前ってそんなに仲良かったっけ?」
「いや、最近話すようになっただけかも?」
クラスメイトと話すたびに、爽介はそんな違和感を抱いていた。
けれど、誰も深くは追及しない。
ただひとり、城ヶ崎サヤを除いては——。
放課後、爽介は再び屋上へと足を運んだ。
あの場所に行けば、サヤがいるような気がしたからだ。
そして実際、彼女はそこにいた。
今日も風に吹かれながら、柵の向こうの空をぼんやりと見つめている。
「またここにいるんだな」
「うん。爽介も?」
サヤが笑いながら振り向く。
爽介はその表情を見て、ふと胸の奥がざわつくのを感じた。
——なんでだろう。
サヤといると、なぜか懐かしい気持ちになる。
まるで、ずっと前から知っている人みたいに——。
「ねぇ、爽介。覚えてる?」
「……何を?」
「1年前の夏、私たちがここで一緒にアイス食べたこと」
サヤがそう言った瞬間、爽介の頭の中にふっと情景が浮かんだ。
夏の日差しの中で、溶けかけたアイスを食べながら笑い合う二人——。
けれど、それはあまりに曖昧で、掴みきれない記憶だった。
「……もしかしたら、そういうこともあったのかもな」
爽介がそう答えると、サヤは微笑んだ。
「そっか。じゃあ、もう一回やろうよ」
「え?」
「アイス買ってこようか?」
彼女の提案に、爽介は思わず吹き出した。
「お前、そんなにアイス好きだったっけ?」
「さぁ? どうだろうね?」
サヤはからかうように笑った。
けれど、その瞳の奥にある微かな切なさに、爽介は気づかなかった。
——「もう一度やろう」
それは、ただのアイスを食べる話ではなかった。
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