MIX 〜彼女を寝取られた俺、学園一の美少女と朝チュンする〜

もうどうとでもなれ!
平木明日香
平木明日香

第2話

公開日時: 2025年1月14日(火) 20:20
文字数:2,379



 「…あ…だめッ…」



 それから、どれだけ時間が経ったのかはわからない。ベットが軋む音は、一晩中続いた。俺は獣みたいに腰を動かし続けてた。訳もわからず、ただ壊れた時計の針のように。自分が自分じゃないみたいだった。酒が入ってたっていうのもあるかもしれないが、意識は不思議とハッキリしてた。だからなおさら、変な感じだった。得体の知れない力に引き寄せられていく感じ。体の奥から、言い表せられないほどに湧き上がる熱量。


 やるせ無い気持ちと、どうしようもない欲望がない混ぜになって、


 それで…



 パンッ


 パンッ




 気がつけば夜が明けていた。



 カーテン越しに差し込む光が、濡れたシーツの上にこぼれ落ちてきた。




 …そうだ



 彼女の名前はなんて言うんだったっけ…




 遠ざかる意識と、——記憶。


 一体今何時であるかもわからないまま、マラソンで走り切った後のように、ベットの上に倒れ込んだ。


 出すもの出してしまったような感じだった。なにもかも、遠ざかっていくかのような——





 *




 「いい加減目を覚ましたらどうだい?キミの裸を見るのも、もう飽き飽きしてるんだけど」




 …う



 誰かの声がして、頭痛のする頭を押さえ込むようにゆっくりと瞼を開けた。なんだってこんな頭が…。っていうか、どこだ、ここは…?



 ジャラジャラッ



 身動きが取れず、音のする方向へ目を遣った。天井からぶら下げられた鉄の鎖。巨大な動物を拘束するのかっていうくらいに太い金属が、がっちりと俺の両手首を掴んでいた。多少の“遊び”はあった。肘を曲げたり、肩に力を入れたりするくらいは。



 「…誰…だ?」



 驚いたのは、その状況だけじゃなかった。牢獄のような無機質な部屋に、椅子が1つ。照明は少なく、薄暗い。自分の身に起こっている状況が理解できなかった。目の前には見知らぬ男がいる。中性的な顔立ちに、細身の体。見た感じ近い年代だなって思った。けど、同じ学校の生徒じゃない。礼装のような整った服装と、パーマがかったクシャクシャの髪。同じ学校の生徒なら制服を着てるはずだ。学校の紋章だってスーツに入ってるはず。もちろん生徒だからって、制服を着なければいけない訳じゃない。プライベートで着る服装に制限はない。そのルールを知らないわけじゃなかった。目の前の男が誰であるにせよ、“学校の生徒じゃない”と決めつけるには、あまりにも早計だった。ただ、直感的にそう思ったのには、理由があった。ズキズキする頭の奥で、ぼんやりと浮かび上がる輪郭があった。あの黒い上着と、ネクタイ。どこかで…



 「…やれやれ。ようやく目が覚めたか。今の気分はどうだい?」


 「気分…?」


 「何が何だかって感じの顔だね。この指は何本に見える?」


 「3…本?」


 「正解だ。じゃあ、次の質問にいくよ。キミの名前は?」



 …俺?


 俺の名前…



 そんなの、考えなくてもわかることだった。直ぐに答えようとは思った。反射的に口を動かそうとする自分がいて、——反面、声が思うように出てこなかった。訳もわからない息苦しさが、喉の奥から込み上げてきて…



 「…俺は、…あれ…?」


 「…はぁ、思ったより重症だな。これは一度解剖した方が早いか?…いや、そうなると手続きやら何やらでめんどくさいか。まあいい。キミは今“治療中”で、絶対安静の状況にある。それと同時に、重要な“被害者“でもあってね。今から僕の聞くことに簡潔に答えてほしい。昨日、キミは何をしていた?」



 …昨日?


 昨日は、確か…



 記憶がこんがらがっている。自分が何者かはわかっているつもりだった。わからないのはこの場所と、目の前にいる「誰か」だけ。思考を巡らせようと頭の中をつっつく。昨日”何をしていた“か。直ぐには思い出せなかった。色とか景色とか、そういう漠然とした心象さえフィルターがかかったようにぼやけていた。学校があって、友達に会って、授業を受けて…それで…



 具体的な日時、時間。



 何もかもが宛てのない砂漠のように、ハッキリした「線」を届けなかった。シンプルに考えようとはしていた。それでも…



 「オーケー。じゃあ、彼女に見覚えは?」



 目の前にぶら下げられた一枚の写真。そこに映っていたのは、見覚えのある少女だった。


 ピンクのアッシュに、金色の髪。髪の色に似た綺麗な瞳は、どこか冷たい印象さえあった。垢抜けた外見とは裏腹に、氷のように冷ややかな視線が、写真の中の存在感を深めている。物静かで、力強く、わずかな“たるみ”さえそこには無い。どこまでも清楚で、美しい表情(かおつき)をしていた。誰も寄せ付けないほどの強烈な印象の内側には、ライオンのような気高さがあった。誰もが“憧れていた”。「学園のアイドル」だった。“アイドル”という派手やかな肩書きとは対極にある、気品に溢れた少女。



 獅童あやめ。



 …そうだ。


 彼女は確か…、商業科の…



 「彼女がどうかしたのか…?」


 「昨日の夜のことは何も?」


 「…なにも」


 「覚えてない方が、人生にとって良いこともある。単刀直入に話そう。キミは“ペルソナ(異常磁気物質)“と接触した。この意味はわかるかい?」



 ペルソナ。


 その言葉の意味を、俺は瞬時に理解できた。それと同時に、“そんなわけない”と思えた。記憶が飛んでたっていうのもあるけど、それがどれだけ深刻なことかを、痛いほど身に沁みていたからだ。俺の家族は、ペルソナに殺された。「ペルソナ」っていうのは、この地球に棲みつくようになった怪物たちのことだ。呼び名は国によってばらつきがある。“エッグモンスター”であったり、“ソウルハント”であったり、“デスゲイズ“であったり。


 ヤツらがどんな生き物かは、痛いほどわかっていた。俺がアンダーテイカーになろうと思ったのも、奴らを駆逐しようと思ったのも、——全部。



 「今回キミが接触したペルソナは、現在行方不明だ。僕が到着した時はもぬけの殻だった。感謝しなよ。こうして“治療”していなければ、キミは今頃あの世だったんだから」




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