「おい、寝ぼすけ!起きろ!」
記憶が無くなってから数週間、学校生活に戻って、授業に慣れない日々が続いていた。俺の記憶が無くなっていることは、クラスの生徒や先生は理解してくれた。最初はキツかった。入学式で会った人も何人かいたけど、半数以上は初対面だし。
「…今何時?」
「7時!集合の時間でしょ!」
…7時?集合っつったって、集合場所に行くのは8時だろ?まだ目覚ましも鳴ってないっつーのに。
「班長の言うことは絶対。そう言ったでしょ?」
「すぐ準備するって」
「あんたは“学園の問題児”なんだから、少しくらい努力したら!?」
「…あのさ、前も言ったよな?「過去」のことは一旦忘れてくれって」
学園の問題児。どうしてそんなレッテルを貼られてるのか謎だが、どうやら俺は普通科の中では有名人だそうだった。この1年間何があったのか知らないが、話によれば、よく上級生たちと喧嘩していたとか。学校には素行の悪い生徒たちが何人かいて、授業をサボって街の中をほっつき歩いてる奴らがいる。大抵そういう奴らにはバカが多いが、その中でも特に腕っぷしに自信があったり、社会に不満を抱えてる奴らが多かったりしてて。ろくでもないっちゃろくでもない理由でさ?このご時世親がいない人も別に珍しくもないから、そういう道に逸れるような生徒も珍しくなかった。先生の言うことはろくに聞かないし、挙げ句の果てには、窃盗とか暴力沙汰で保安部に捕まってしまう奴らも。つっても、少数派だけど。
俺は入学当初から、「特待生」として特別なクラスに配属されていた。俺自身両親を亡くして、生きるか死ぬかの瀬戸際を彷徨っていた時期があった。ペルソナに襲われたあの日、本当は死ぬ運命だった。あの日のことを思い出すたびにそう思うんだ。少しずつ形を失っていく街の景色と、泣き叫ぶ人の声。集合住宅地で暮らしていた俺たち家族は、突如現れたペルソナの“集団”になす術もなかった。忘れもしなかった。あの日見た、奴らの「姿」を。ビルほどの大きさの怪物が、昨日まであったはずの日常を壊していく。妹と待ってたんだ。両親の帰りを。——誰かが、助けに来てくれるのを。
「はいはい、準備しましたよと」
「コウはもう外で待ってる。さっさと行くよ」
水色の髪に、ブルーな瞳。部屋を出た先にいたのは、身軽な短パンと野球帽を被ったボーイッシュな少女だった。サラサラのショートヘアーに、耳から垂れ下げたイヤホン。葵風香(あおいふうか)。俺と同じ普通科で、“特進コース”の生徒の1人。この「特進コース」というのは、俺と同じ“特待生”たちが所属しているグループのことで、普通科の中でも一際異色のグループだった。
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