その日の帰り道、爽介とサヤは並んで歩いていた。
「コンビニのアイスって、種類多すぎて悩むよな」
爽介がそう言いながら袋の中を覗き込むと、サヤは少し笑った。
「結局、前と同じのを買ってるんだよ」
「え?」
「ううん、こっちの話」
サヤはごまかすようにアイスを開ける。溶けかけたクリームが指に垂れたのを舐めながら、ふと空を見上げた。
——この風景、知ってる。
1年前、爽介と同じように並んで帰ったあの日。私は、彼の隣でまったく同じことを思っていた。
「ねぇ、爽介」
「ん?」
「こうしてると、なんだかデジャヴみたいじゃない?」
爽介は少し考えるように目を細め、それからアイスをひとくち齧った。
「……たしかに、そんな気がする」
「懐かしい?」
「んー……そうだな」
爽介ははっきりとした答えを出さずに、夕焼けを見つめた。それが、サヤの心を少しだけ締めつける。彼の中には「懐かしさ」はあっても、それが「私との思い出」だとは気づいていない。それでもいい。こうして、彼と過ごせるだけでいい——。
そう思っていたのに。
「サヤ」
「ん?」
「俺、最近変なんだ」
「……なにが?」
爽介は困ったように笑い、足を止めた。
「わからない記憶が、時々ぼんやり浮かぶんだよ。たとえば、今日みたいにお前と歩いてるときとか」
「……」
「もしかして、俺たちって、前もこんなふうに一緒にいたのか?」
サヤは心臓が跳ねるのを感じた。けれど、その気持ちを悟られないように、ゆっくりとアイスを口に運ぶ。
「……どうだろうね?」
爽介はじっとサヤを見つめた。その瞳には、ほんのわずかに混乱と、わずかな確信が滲んでいた。
「サヤは、俺に何か隠してない?」
サヤは一瞬、息を呑みそうになった。けれど、次の瞬間にはいつものように笑ってみせる。
「秘密があったほうが、ドキドキするでしょ?」
爽介は苦笑し、首をかしげる。
「秘密って、何か変なことでも…?」
「さぁ? 」
2人は、そのまま並んで歩き出した。沈む夕日が、ふたりの影を長く引き伸ばしていた。
——ねぇ、爽介。
もしも、君が私のことを思い出してくれたら。私は、どんな顔をすればいいんだろう?
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