「本当に何も覚えてないんだね」
康熙は半ば呆れたように俺の方を見た。何を今更…と思いつつも、康熙は続ける。
「アンダーテイカー同士の戦いに於いて、重要なのは“能力の特異性”じゃない。風香も言ってたでしょ。「能力」は決して重要じゃないって」
「言ってたけど…」
「勝敗を分けるのは、より“基本的な部分”。アンダーテイカーにはいくつかの系統があるって言ったよね?でも、実際は系統による「戦力差」はある程度埋められるんだ」
「どういうことだ??」
「見てて。今、風香がそれを証明する」
系統ごとに存在する優位性や特性。それをある程度“度外視できる方法”。そんな便利なものがあんのか?華麗な足捌きで相手の攻撃を避けつつ、“近づく”。風香は狙っていた。それはカウンターではなく、相手が“実体化するタイミング”。
ダンッ
交差させるように左足を前に出し、やや前傾姿勢に。相手の攻撃に対し下がるのではなく、前に出る。ただ、それは攻撃にぶつかりに行くような動きじゃない。柔らかいタッチと、膨らみのある足運び。鋭いラインが内側に滑り込みながら、踏み込んだ足先はベッタリと地面の表面を捉えている。ギリギリまで攻撃を引きつけつつ、腕の動きに合わせて膝を落とす。
ほんの<隙間>だった。
——それは。
狙い澄ましたように重心を落とし、確かな距離感の中に上体を“ずらす“。切れ目のない動きの中には、僅かなゆとりもなかった。目の動き、手の動き、足の動き。あらゆる動きの連続の中には、一呼吸を置ける「間」もない。その整列とした緻密な“点”の繋がりの中に、そっと指を撫で下ろす。まさに、そんな「動き」だった。風香は涼しげに対処していた。ゆったりと動けるスペースなどないはずなのに、滑らかに滑る。
パシッ
眼前に迫り来る拳の一つを、左手で受け止める。動きは止まっていない。全てが連動していて、重心の移動は連続している。接点と接点。接触できる面積は限られていたが、その“感触”は、どこか柔らかかった。
-Drive Link(中和)-
掴んだ相手の拳。——その瞬間、2人の間で突風が吹く。その「風」は自然なものではなかった。2人が交差する中心点から全方向へと漏れ出るように吹き、時間を止める。全てのアンダーテイカーには共通した「力」がある。それはあらゆる能力へと拡張される前のエネルギーの“素子”であり、これを、一般的には「ドライブ=SP(スペクトラム)」と呼ぶ。
ドライブゲージを制するものが、アンダーテイカーの頂点に立つ。
風香は自らの「能力」を解放し、自らのSPを相手の懐に流し込んだ。
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