「…ごめん、整理できなくて」
「今は、安静にしておいた方がいいんじゃないかな。ちょっと先生呼んでくるね。何か飲みたいものとかない?」
「できれば、…水を」
「持ってくるね」
白衣を着た先生が保健室の中に入って来て、コーヒーディスペンサーのスイッチを入れる。額縁のないメガネに、すらっとした体型。肩まで伸びた茜色の髪を後ろで括って、左手にはタバコが。白衣の裾は地面スレスレまで伸びていた。…わりとだらしない格好をしてるっていうか、随分とやさぐれた先生(?)が、雑誌か何かを手に持ちながら歩いてきた。
「よぉ、小僧。目が覚めたか」
「先生…ですよね?」
「いかにも。私が保健室の女神だ。…んん?何だその目は。不服そうだな」
不服ではないけど、異論はある。今俺のことなんて言った??…こう見えても18なんだが。…いや、1年経ってるってことは19か。どっちでもいいけど、小僧なんかじゃない。
「そのまま目を瞑っていればよかったものを」
「へ??」
「話は聞いている。記憶をなくしたそうだな。自分の名前くらいは覚えているか?」
そりゃ、…覚えてはいるけど。
城ヶ崎さんといい、先生といい、俺が記憶を無くしていることを“知っている”みたいだった。100歩譲って、本当にそれが“事実”だとして、俺は一年間ずっと眠っていたとでもいうのか?事故か何かで頭を強く打って、昏睡状態に陥っていたとか??でも、だとしたら保健室なんかで寝てる場合じゃないよな…。そんな大ごとだったら普通病院に行くだろう。この先生じゃ、まともな治療もしてくれなさそうだし
「自分の名前を言ってみろ」
「日向坂…爽介」
「よし。じゃあ順を追って説明するぞ。なんで記憶を無くしてると思う?」
「…頭を強く打った?」
「違うな。まあ、考え方によっては近いかもしれないが」
「何があったんですか…?」
「オブラートに包まずに言うと、「ペルソナ」と接触したんだ。1週間前の話だ。私も詳しくは知らないんだが、お前がこの保健室に運ばれてきたのはちょうど今から一週間前だ。幸い、外傷などはなかった。ヤられたのはあくまで“脳”だそうでな」
「ペルソナ…!?」
…嘘…だろ??
血の気がさーっと引いて、何も考えられなくなる。“ペルソナと接触した”。その意味は、——重大さは、この世界に生きてるものなら誰もが知っている。
…俺が?
………いやいや、そんなはずが………
読み終わったら、ポイントを付けましょう!