人の薄暗い本能的な面をむりやりえぐり出されて、主人公と読者とを1つの存在にしてしまう文章。没入感、感情移入などでは表し切れません。
私は主人公のような作家でも孤児院育ちでもありませんが、読み進めていくうちに「実は私はこのような人間なのでは……?」と錯覚してしまいました。
この小説は容赦なく読者の魂を上書きしに掛かってきます。
主人公の思考が、常に犯罪衝動や恐怖心などと隣合わせになっているのも魅力的です。一歩踏み出せば圧倒的な快楽に包まれるという誘惑を前にして、読んでいる私でさえも「なにか私は良くない事をしているのでは……」という背徳感に襲われます。
作者さんはSNSなどでこの作品を宣伝する際に「心が穏やかな時に読んでください。精神的に不安定な方は読まないでください」と仰っていますが、まさにその通りだと思います。
この小説の文章は生きています。血が通っています。気を抜けば魂ごと喰われてしまうでしょう。