「おお、帰ったか。華」
縁側に腰かけた少女が、朱色の浅皿に酒をつぎながら呟く。
「はい、ただいま戻りました」
柔らかい風が、美味そうに酒をあおる少女の美しい髪を撫でる。その瞬間、少女の目の前にどこからともなく真っ黒な狼が姿を現した。
人の腰ほどはあろうかという体高に、ごわごわと硬そうな、だが同時に艶やかな毛皮を纏っている。
「おかえり。ん? なんじゃそれは?」
「凛月様のスーツケースに帽子です」
「……は?」
「護衛の為にこっそり後をつけていたのですが、どうやらばれてしまったようで……。荷物を放り出して逃げてしまいましたので、わたくしが回収した次第です」
「おぬし、そろそろ自分が尾行というものに不向きであることを学んだ方がよいのではないか?」
「うっ……」
くぅん、と鼻を鳴らしながらうなだれる狼。
それを見てやれやれと呆れながら、少女はまた酒をあおる。
「んっんっ、ぷはぁ。ま、早く会いたいというおぬしの気持ちも分からんではないがの。逆に怖がらせてしまってはなぁ」
「もうまったく、なんとお詫びすればよいのか……。お怪我などしていたらどうしましょう……!」
「カカッ。まあよいではないか。どうせあと数刻でここにたどり着くのじゃろ?」
「は、はい。そのはずです」
「なら、楽しみに待とうではないか」
目の前に広がる光景を酒の肴にしながら、少女はまだ見ぬ新しい家主に思いをはせる。
「これを見て、腰を抜かさなければよいがのう」
紫紺の少女は、意地悪い笑みをこぼすのであった。
おまけ会話
「ところで、これが一番大事なんじゃが」
「はい」
「……美人じゃったか」
「はい、はい! それはもう……! 目を見張るほど!」
「まじか!!」
「よだれ、垂れてますよ」
「おっとぉ」
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